第17話.新たなる刺客
――あれから一時間が経過した。
正直俺は、待っても待っても好転することのない状況にうんざりして気が抜けそうになっていたが……。
「おい、動いたぞ。ヒーローじゃない方のやつだ」
今は新田さんがクレヤボヤンスで監視をする番。
その新田さんのその放った言葉に、俺はすぐに集中力を取り戻し、すぐにクレヤボヤンスを発動。
ヒーローとそれを追う人間の姿を探す。
おっと、早速発見。
えーっと、状況は……。
ん……!?
ドーン!
視界……といってもクレヤボヤンスの能力だが、そこに映った驚愕の行動と同時に小さく耳に届いた爆発音のようなものが、それが現実であることを教えてくれる。
「新田さん……これは……」
「あぁ、にしても随分と大胆なことをするな……。しかしこれはこちらにとっては都合のいい展開だ。このまま静観するぞ。」
「はい」
随分と大胆なこと、というのもヒーローから一般人が離れる気配がないことにしびれを切らしたらしい俺たちじゃないもう1人のヒーローの追跡者は、なんと懐から爆弾らしきものを取り出して、それを爆破させたのだ。
確かに新田さんの言う通りこれは俺たちにとっては最高の展開ではあるが俺としてはこんなに退屈な思いをした挙句にやることなしってのが……。
「なんだ? 不満なのか? ま、もしかしたら追跡者のほうが首尾よくヒーローを殺して、それが一般人に見つかることなく姿をくらますかもしれないだろ? もしそうなればそいつを狩るのも重要なことだ。敵はヒーローだけじゃないからな」
それもそうか。
しかし、結局戦闘はしない可能性のほうが高いからなぁ。
いや、別に戦闘をしたいわけじゃないし、そもそも今戦っても俺はまだ逃げの技術しか教わってないからまともに戦えないわけだけれども。
ただ、やっぱりこんだけ時間をかけたっていうのがね。
いや、2時間もまだ経ってないか?
しかし任務って言っても案外こんな地味な隠密任務ばかりなのかね。
もっとゾディアックの勝手なイメージとしてテロだの殺人だのってことばっかりやってるもんかと思ってたけど。
他の組織とも随分仲が悪いっぽいし、テロリスト集団的側面3割、暴力団的側面7割みたいな感じなのだろうか。
おっと……。
俺はそんなことを考えながらずっとクレヤボヤンスを使用していると、いつの間にか一般人は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、逆にヒーローは事件現場にたどり着いたところだった。
しかし、それは追跡者の読み通りのようだ。
数10m後方からヒーローの姿をとらえた追跡者はテレポートで一気に距離を詰めてそのまま……。
しかし、ヒーローは後ろに眼でもついているかのような対応を見せる。
なんと追跡者がテレポートを使って、いつの間にか懐から取り出したナイフを首筋に突き立てようとした瞬間、素早く屈んで回し蹴りを繰り出したのだ。
こんな完璧な対応をされるとは追跡者の方も思わなかったようで、驚いたような表情を見せるが、何とか追跡者の方もよろめきつつテレポートでその場を離れる。
しかしヒーローも移動先を読み切って追跡者の転移したすぐ近くに転移。
だがその瞬間、追跡者がサイコキネシスの能力を使ったのか、さっきの爆発によって飛び散ったと思われる瓦礫がヒーローを襲う。
幾重にもかけられた深い読み合い。
これが本物の超能力者同士の戦闘か……!
しかし、2人が同時に動き始めた瞬間、どこからか飛んでくるように戦場に現れた人影が。
その人影は2人に一直線に向かっていき、ナイフを2本投げつけた。
投擲されたナイフは2人の足を正確にとらえ、突き刺さる。
突然やってきた新たな刺客に2人は驚きの表情を浮かべる。
これには見ている俺もびっくりだ。
だが、ここでどうすればいいか困るほど2人とも甘くはない。
すぐにテレポートを発動……しようとするも、ヒーローの方は新しい刺客に狙った転移場所に先回りされる。
当然ヒーローはあっさりと首をはねられて死亡。
随分とあっけない最後だ。
しかしにしても凄い……。
あのタイミングでのテレポートは視線から読んだのではない。
行動をすでにずっと前から予測していたんだ。
なんて恐ろしい戦闘センスなんだ。
目の前で繰り広げられる圧巻の戦闘に俺は目を奪われる。
しかしあの新たな刺客は追跡者の方にもナイフを投げつけていたので、あの追跡者の仲間という訳ではない。
追跡者の方はどこかへ姿をくらまし……いや、違う!
一呼吸を置いて機会を伺っていたのだ!
今を機と見た追跡者は背後から新たな刺客に向かってナイフを投げつけ……!
だが横にひらりと交わす刺客。
そのままサイコキネシスで周囲に落ちている瓦礫を飛ばして反撃。
そのままテレポートで逃げる追跡者を追ってテレポート。
しっかりと逃がさずにドロップキックから脳天にナイフを突き刺して決着。
思いがけない展開となり、一瞬ですべてが終わった。
殺したいと思っていた人物はすべて処理しきれたが……あの新たに現れた刺客は一体……!
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