第10話.訓練

 そして翌日になり……。


 俺は星川とともにアジト内にある戦闘訓練室という部屋に来ていた。


 昨日の夜に、鶴城さんに「明日、ある同じ6番隊の隊員が、君らに超能力を使った戦闘技術について教えてくれることになってるから朝、戦闘訓練室に行きな」と言われたからである。


 ちなみに任務のほうは中止らしい。


 思ったよりもハーラルのこちらに対する警戒が厳しいため、俺たち新人を送り出すのは危険だという判断のようだ。


 大切にしてくれるのはうれしいのだが、俺としては任務に失敗したまま引っ込められて複雑な気分だ。


 とはいえ昨日のことで自分の実力不足は痛いほど理解したし、戦闘技術は早く教えてもらいたいところだ。


 しかし……。


「来ない、な……」


「だねー」


 知らされた時刻になっても、その隊員の姿は見えない。


 一体どうしたものかと困っていると……。


 ヒュン。


 !?


 突然何かが飛んでくる。


 俺はそれを反射的に回避すると、すぐにテレポートでその場から離れる。


 そして移動先ですぐさま周囲を確認すると……。


「後ろ……!?」


 いつの間にか背後から俺に向かって拳をふるう人影が。


 とっさに俺はもう一度テレポートを発動する。


 しかし……。


「いい反応だ。だがその程度じゃ命はない」


 転移した先をあっさり読まれて目を隠され組み伏せられる。


「一体、何なんですか……!」


 俺はその人影を睨みつける。


 ここはゾディアックの本部アジト。


 そう簡単に誰にもばれずに部外者が侵入してくるということは考えにくい。


 となるときっとこの人が……。


「俺は第6部隊副隊長の新田進登にったしんとだ。虎徹のやつがやけに高く評価していたから少し気になってお前を試させてもらった」


 細身で長身。


 眼鏡をかけているものの、陰キャ感はまったくなくて、その鋭い目つきの風貌からのせいで中身を知りもしないのに秀才認定してしまいそうになる。


 しかし虎徹という人は聞いたことがないが……?


「虎徹……さんというのは誰でしょうか?」


鶴城虎徹つるぎこてつ。お前の監視をしてたやつの名前だ」


 あぁ、鶴城さんのことか。


 にしてもそんな理由でいきなり襲い掛かってくるなんて納得がいかないところだ。


 だが、まあ無事だったしとりあえず我慢するか。


「まぁそんなことは今はいい。早速お前に戦闘で必要な技術を身に着けるために最も効果的な練習を一つ教えてやる」


 ……!


 早速戦闘技術に関することを教えてくれるのか。


「いいか? やることは簡単だ」


 新田さんはそういうと、部屋の端っこのほうにおいてあった三角コーンを持ってきて、それを部屋の角に1つずつ設置した。


「右上、右下、左下、左上、右上……といった感じに時計周りに連続でこのコーンのそばにテレポートを繰り返していく。これを繰り返しながら……」


 そこまで言うと新田さんはポケットから小さなサイズの数十枚ある紙束を取り出して俺と星川に手渡した。


「こいつを解いてみろ」


 ?


 俺は何のことだと思い、手渡された紙に目を落とす。


 そこに書いてあったのは、二桁×二桁の掛け算の問題だった。


 俺の頭の中は再びハテナで埋め尽くされる。


「なんですかこれ?」


「何を言っている。見ての通り小学生でもできる掛け算の問題だ。それを解きながらひたすら瞬間移動をしてもらう」


「真面目にやってください。こっちは真剣なんです!」


 俺は苛立ちながら抗議する。


「俺も真剣だ。お前はこの練習法の重要性を理解していないようだが、これは戦闘で最も重要な超能力である瞬間移動を使いながら同時に別のことを行ったり考えたりできるようになるための訓練だ」


「う……」


 確かに。


 だがそれでも完全には納得できない。


「でも俺だって瞬間移動をしながら別の超能力を使うことぐらいできますよ!」


 俺はテレポートを使い、少し前方へ移動しながらパイロキネシスで炎を出して見せる。


「ふっ、その程度じゃできているうちには入らんな」


「はぁ? 今どうみたって完璧だったでしょうが!」


 しかし新田さんは大きくため息をついて……。


「どうやら期待はずれだったようだ。さっきの俺と一度戦闘をし、この話を聞いた上でそんなことを言い出すとはな……」


 この野郎。


 不意打ちで人を倒しておいて偉そうに……。


「とにかく、入学式までは暇なときはずっと今教えた練習をやっていろ。文句を言わずにこれを続ければ、俺がお前に対して、完璧に複数の超能力の同時使用ができていないと言った意味も理解できるだろう」


「は? ふざけんな。待てよ!」


 俺はもはや敬語も忘れて新田さんを呼び止める。


 しかし、新田さんは俺の言葉に聞く耳を持たずにそのまま部屋をでていってしまった。


「なんなんだよ……」


 俺は戦闘訓練室の部屋の入り口を見つめながらそう吐き捨てた。

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