第9話.ネタばらし

「悔しいことに女の子のほうは逃がしちゃったけど、君は絶対に逃がさないよ」


 そう言ってニヤリと笑う敵の超能力者。


 やばいな……。


 さっきまでは子供と思って舐めてくれていた様子だったが、今のやつの表情は真剣そのもの。


 俺に残された選択肢は大体2つ。


 1つは逃げきり。


 これが出来るなら一番理想的な選択肢だ。


 だが、本気になったこいつから逃げ切るのは不可能だとさっきから俺の本能が警鐘を鳴らしているんだよな。


 テレポートの能力は便利だからかなり練習を積んできたつもりではあるが、こいつと比べるとどうにも自分が劣っているような気がしてならない。


 さっきこいつは一瞬転移先に視線をやっただけでテレポートに成功していた。


 テレポートの能力は正確に空間を把握していないと思った場所に転移できない。


 俺も幼少のころは全然上手く行かなくてイライラしたことを覚えている。


 それほどにテレポートに限らず超能力の発動というのは簡単に見えて難しいのだ。


 それをあんな風にあっさりやってのけるやつが敵なのだ。


 まず逃げ切りは不可能。


 2つ目の選択肢は普通に戦うことだ。


 まぁこれはもっとあり得ない。


 こんなやつと今の俺のレベルで戦闘をするなんて正気の沙汰じゃないといえる。


 命がいくつあっても足りないはずだ。


 ……普通なら。


 そう、今こいつは普通に戦おうとしていない。


 こいつはさっき自分で言っていたように俺をのだ。


 つまりこいつには俺を殺す気は無い。


 だから俺はあえて危険を冒して懐に飛び込む。


 こいつもいざ自分の身に危機が迫ったら予定を変更して俺を殺そうとしてくるかもしれないが、それでも俺を殺す決断をするのにわずかにラグが発生するはずだ。


 超能力者同士の戦闘は文字通り刻一刻と戦況が変わる。


 一瞬でも敵から迷いを引きだす事ができるなら、それは大きなハンデをもらっているのと同義だ。


 だから俺が選択するのは後者だ!


 テレポート!


 俺は何の前触れもなく姿を消す。


「甘い! テレポートで移動するのは視線の先。目はほとんど動いていなかったから移動したのは背後だろう?」


 読まれてる……!


 俺が移動したときには、すでに敵もテレポートを使った後。


 しかも俺は目を見ることができていないから敵の移動した場所の検討がつけられない。


 とりあえずここにいると危険だから再び転移を……。


「うぐっ!」


 テレポートを発動した瞬間、俺は腹部に鈍い痛みを感じて呻きながら膝をつく。


 ガシャ。


 何かが割れる音だ。


 植木鉢……?


 ……サイコキネシスで飛ばしたのか!


 ――サイコキネシス。


 意思の力だけで物体を動かす能力である。


 くそっ、やられた。


「悪いが寝ててもらうよ」


 ……!


 敵のその言葉とともに視界に飛び込んでくる握りこぶし。


 終わった……。


 俺は自分の敗北を確信した。


 結局10秒くらいでこのざまかよ。


 数分どころか30秒ももたなかったぜ……。


 俺は抵抗する気力をも失い、じっと目をつぶった。


 ……しかし、痛みがやってくることはなかった。


「おっと、それ以上は看過できないよ」


 覚えのない男の声。


 まさか応援がもう来たのか?


 俺は恐る恐る目を開く。


 するとそこには、細身で長身の男が柔和な横顔を見せながら敵の放った拳を悠然と受け止めている姿があった。


「な……! あんたは確か鶴城! ……てことは君もやはりゾディアックの人間だったか。そうかもしれないとは少し思ったが……。仕方ない……今日のところは引くとするよ」


 テレポート!?


 俺は敵の視線の先を探る。


 しかし、すでに俺の目の届く範囲に敵の姿はなかった。


「ふぅ、帰ってくれたか。戦闘経験もない中でよく奮戦したね。大丈夫?」


 敵に鶴城と呼ばれていた俺を守ってくれた人は、そういって微笑みながら俺に手を差し伸べてくれる。


 どうやら俺はギリギリ助かったみたいだ。


 しかしやはり腑に落ちない。


 星川を逃がしてから鶴城さんが来てくれるまでは30秒もなかった。


 そんな短時間で来ることができるのか?


「あの、自分は大丈夫です。それよりもなんでこんなに早く応援に来れたんですか?」


 分からないのでとりあえずストレートに疑問をぶつけてみる。


「あぁ、そりゃあ連絡聞いてやってきたわけじゃないからね」


 ?


 つまりどういうことだってばよ。


「まぁつまり君らを遠くから監視してたんだよ。うちの隊長もこんな事態になる可能性も一応頭の片隅で想定していた。だから万が一に備えて僕に遠くから護衛するように命令を出してたんだ。まさか本当に僕の出番がやってくる事態になるとは想像しなかったけどね」


 は……?


「じゃあなんでもっと早く助けてくれなかったんですか!」


 俺は思わず声を荒げる。


「うーん、あいつに君を殺す気が感じられなかったからね。少し君らの実力をみせてもらったのさ。元々隊長は今回の任務、成果を得ることよりも君らの実力を測ることを一番の目的としていたからね。ちなみに彼女の評価は保留だけど君の評価はかなり高いよ。戦闘の技術は教えてないから当然全くダメだけどセンスはかなりある」


 うーん、そう言われると反論できないな。


 実際大した傷は負ってないしな。


 腹は今も少し痛むけど。


 それに高評価ってのも少しうれしいし、まあいいか。


 結果オーライってやつだ。


「ま、今日のところはご苦労様ってことでアジトに戻ったらゆっくり休んでよ」


「はい」

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