第8話.初戦闘
「おいおい君たち。さっきからうちの構成員を遠くから盗み見て、一体何をやっているのかな?」
背後から唐突に掛けられた覚えのない男の声が耳に届く。
それと同時に左腕をつかまれる。
……!?
俺は心臓が跳ね上がるのを感じながら反射的に振り向く。
振り向いたときに見えた左側では、星川が全く同じ状況に陥っていた。
「君らのような子供をとらえるのは忍びないが、少し付き合ってもらおうか」
やばいな。
この男は黒服は身にまとっていないものの、さっきの言葉から推察するにハーラルの構成員であることはまず間違いない。
ついでに俺らが観察していた黒服集団がハーラルの構成員であることも確定だ。
とはいえ俺たちは超能力者。
やられる要素は何処にもない。
むしろ飛んで火にいる夏の虫と言ったところだ。
こいつとさっきの黒服集団を手土産にゾディアックに帰るとするか。
一瞬はパニックに陥りかけた俺だが、現状が全く恐るるに足らないことに気が付くと、冷静さを取り戻した。
俺は星川に向けて『動くぞ』と目で合図を送る。
星川も俺の考えていることをおおよそ理解してくれたようで敵にばれない程度に小さく頷いた。
「っ!」
俺は無理矢理に、つかまれた腕を振りほどく。
そしてそのままテレポートだ!
――テレポート。
物体を離れた空間に転送したり、自分自身が離れた場所に瞬間的に移動したりする能力である。
俺は敵の背後に視線を落としてテレポートを発動する。
「超能力!?」
背後に回った俺にワンテンポ遅れて反応する敵。
しかしもう遅い。
そうしてそのまま瞬く間に腕を背の後ろで拘束し、そのまま地面に組み伏せた。
「よし、捕らえた。一ノ瀬隊長に連絡を!」
俺は敵を捕らえて星川にすぐさま連絡をお願いする。
我ながら鮮やかな動き。
超能力を喧嘩とかに使ったことはないことはないが、こんなガチの秘密結社の構成員レベルの敵相手には超能力を使った戦闘経験はない。
それなのにこれだけ冷静に動けたことも自画自賛してもいいだろう。
普通にやれば万が一にも負けるわけがないが、今はその普通を発揮できることがすごいはずだ。
「く……まさか超能力者だったとは……。不覚を取ったか……。……なーんてね」
「!?」
この、勝負決した状況で敵が浮かべた笑み。
疑問を覚えながらも考える余裕など与えられず、敵は力づくで俺の体を吹っ飛ばす。
「くっ……なんて馬鹿力!」
しかし俺も運動神経は悪いほうじゃない。
すぐに態勢を立て直して敵のいた場所に目を向ける。
だが……。
「いない……? ……!」
すでに目を向けた先に敵の姿は影も形もなく消えていて、背後よりわずかな物音が聞こえた。
「あぶねっ」
何とか横に倒れるように背後からのパンチをかわす。
そのまま受け身をとって敵と向かい合った。
「へぇ、今のを避けるか。超能力者としての戦闘は全くなってないけど、センスは一級品のようだ。是非捕まえたいものだね」
クソ、人を虫みたいに言いやがって……。
「そっちこそ……。まさか超能力者だったとはね……」
「こっちもまさか最初に出会ったときは超能力者だとは思わなかったんだからお互い様だろ?」
ごもっともだよ、クソが。
にしてもやばいな……。
こちとらあいつの言うように超能力を使った戦闘はド素人。
一応遊び半分でネットに載っていた超能力者の戦闘基礎みたいな記事や動画はみたことあるが……。
そんなんで通用するような甘い相手じゃなさそうだ。
となれば逃げの一手だよな。
「星川、すぐに逃げて応援を呼んでくれ」
「……! 分かった……!」
そのまま星川は頷いて俺の視界から消えていった。
超能力者ならテレポートの連発であっというまに逃げることができる。
数秒でも時間を稼げばいい。
とはいえその数秒さえ稼げるかどうか……。
「おっと、どちらも逃がす気は無い!」
さっそく追う気か……!
「させるか! パイロキネシス!」
――パイロキネシス。
火を発生させることのできる能力である。
俺は敵の顔を覆うように右手から炎を発生させる。
テレポートは目の届く範囲にしか瞬間移動できないので、視界を奪ってしまえば封じられる!
動画で覚えた使い方だが、さっそく役に立ってくれたな。
「くっ、小細工を!」
敵は俺の炎を後退することで回避しながら恨めし気に睨みつけてくる。
よし、これだけでかなり時間を稼げた。
星川を逃がすことには成功したと思うが……。
このままじゃ俺は犠牲になっちゃうぞ。
応援がどれだけの速さで来てくれるかは分からないが、もしも俺たちと同じような任務についていて新宿にいる超能力者の構成員がいたならばワンチャン1分くらいで駆けつけてくれるか?
それだけ持ちこたえられるかは分からないが……。
とにかくこんなところで死んでられないしな。
全神経集中でなんとか生き延びることにすべてをかける!
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