第7話.任務開始

 あの後、任務についてのもう少し具体的な話を聞いた後、俺たちはアジトにおける自室となる部屋とそのカギを一ノ瀬隊長から受け取った。


「よし、これが部屋のカギだ。急ぐ必要はないが、話はこれで終わりだから、少し休憩するなりしたら任務に向かってくれ」


 そして最後にこう言い残して気だるげに去っていく一ノ瀬隊長。


 俺はその姿をしばらくぼーっと眺めていたが、やがてその姿は見えなくなり、星川と2人きりになってしまった。


 てか今更だが任務って2人だけで行わなければいけないんだよな……。


 女子と2人で共同作業とか全く経験がないんだが……。


 せめて星川がブスだったりしたら緊張もしないものの、普通に過ごしていたら関わることすらないであろうレベルの美少女だからな。


「さて、もう行く?」


 俺がどうしたものかと困っていると、星川から声を掛けられる。


「あ、あーはい。そう、ですね」


 そしてコミュ障丸出しの返答をする俺。


 もう帰りたい。


 ここに男が1人でもいてくれたらよかったのに……。


「ふふっ、てかなんで敬語なの? 私たち同い年なのに」


 それは俺も思うけど、初対面の女子にタメ口はハードル高いんだよ。


 陽キャにはわからないだろうけどな!


「あー、ごめん。それでまずどうする?」


 だが敬語であることを指摘された後も敬語を続けるのはおかしいので、頑張って敬語をやめる。


 そして行動方針を尋ねる。


 正直、一ノ瀬に任務の話を聞いた時から行動予定は立てていたのだが、俺に人を仕切るリーダーの素質はないのでやっぱり星川に伺ってしまった。


「うーん、そういわれてもどうすればいいかなんてさっぱり……。蓮君こそいい案はないの?」


 しかし、結局決定権は委ねられてしまった。


「まぁ、じゃあとりあえずハーラルのアジトがあるっていう新宿に行こうか」


「そうだね」


 かくして俺たちは新宿へと向かった。




 ----------




 アジトから東京駅に向かうまでが徒歩だったため少し時間がかかったが、東京駅からは早かった。


 通勤ラッシュの時間帯からはだいぶ外れているとはいえ、今はまだ春休みの期間のためか、中高生くらいの乗客が多くてそこそこ混雑したしている改札を抜ける。


「ねぇ、少し考えたけどさ、結局ここら辺をぶらぶらしてみて黒服を着てたりする怪しい人物を見つけたら遠回しに尾行するくらいしかないんじゃない?」


 改札を抜けてある程度人が減ったところで星川が小声で話しかけてくる。


「そうだね。とりあえず人通りの少ない場所を中心に歩き回ってみようか」


 とりあえず星川の話に乗りつつ、俺も事前に考えていたことを付け足す。


 心なしかさっきよりは喋れるようになってきた気がするな。


 そして俺たちは歩き出した。


 大通りを歩き、適当な路地を見つけて入っていく。


 そのまま人通りの少ない道へと進んでいき、およそ1時間が経過したころ……。


「蓮くん、あれ……」


 星川に肩を軽くたたかれながら小声でささやかれた。


 もちろん俺もすぐに気づいていたので、星川の視線の先と同じ場所を見つめながら頷く。


 俺の視界には、小さく黒服の集団が映っていた。


「とりあえずはテレパシーを使ってみよう」


 俺は遠くの黒服集団を見つめながら星川に言う。


「え、でもテレパシーじゃそこまで詳しいことは分からなくない?」


「うーん、まぁそれでもやっておいて損はないからね」


 ――テレパシー。


 ある人の心の内容が、言語・表情・身振りなどによらずに、直接に他の人の心に伝達されることである。


 簡単に言えば人の心を読む能力だ。


 とはいえ、その人の考えていることを完璧に理解できるわけではない。


 もちろん、テレパシー能力を極めればその域に到達できる可能性はないとはいえないが、少し鍛えた程度ではせいぜい「機嫌が悪そう」だの「嬉しそう」だのといったあやふやな心情を読むくらいが限界。


 超能力などと言っても、所詮は人のできることの延長線上にあることまでしか出来ないのだ。


 だが多少なりとも情報をキャッチできる可能性があるならやってみる価値はある。


「まぁ使って減るものでもないからねー。じゃあ使ってみるよ」


 星川はそう言って視線を戻す。


 俺も使ってみますかね。


 超能力の発動は、念じてみるだけで使うことができる。


 俺はテレパシーを使いながら、黒服たちのほうに意識を向ける。


 うーん、怒りとか苛立ちとかの感情を抱いてることは伝わってくるけど……。


「やっぱりこれだけじゃなんの手掛かりにもならないよ」


 うん、だよね……。


 さて、となるとどうしたものか……。


「ねぇ、いい方法思いついたんだけど」


「ん?」


 俺は思考を止めて星川のほうを見る。


「あいつらがいなくなるのを待って、いなくなったところで寄りかかってた壁とかにサイコメトリーを使うってのは?」


 ――サイコメトリー。


 物体に残る人の残留思念を読み取る能力だ。


 なるほど、サイコメトリーなんてあんまり使ったことがなかったから思いつかなかった。


 だが確かにサイコメトリーならテレパシーよりも詳しい情報が手に入る。


「なるほどね、それでいこう」


 俺はそう言って頷く。


 こうして、俺たちの方針が決まったその時だった。


「おいおい君たち。さっきからうちの構成員を遠くから盗み見て、一体何をやっているのかな?」

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