第6話.初任務

 バーの扉の向こう側。


 それは別世界と言う言葉がまさに相応しいほどに様変わりしていた。


 暗い室内に黒を基調として施された近未来を連想させる装飾。


 通路は広々としていて、地下にこんなにも広大な空間を作ることのできるゾディアックの力に驚かされる。


 すごい……これは実に厨二心を唆られる。


「ここです」


 しばらくアジト内を歩いて、ある部屋に案内される。


 木崎に案内されるまま部屋の中に入ってみると、1人の男が待っていた。


 身長は俺とそこまで変わらない程度で小さいが、かなりいいガタイをしている。


 とはいっても太っているわけではなく、服の上からでもかなり筋肉があることがわかるほどに鍛えられているということだ。


 顔も整っている方で、普通にしていたらモテそうな風貌だ。


 しかし、何故か髪はぼさぼさだし、表情はどこか気だるそうだしで残念な感じだ。


 にしてもこの人は誰だろうか。


 木崎さんの上司か?


 この人が誰なのかを訪ねようと木崎さんの方に振り向く。


 しかし、それとほぼ同時に木崎さんは一礼して部屋を出ていってしまった。


 あぁー……。


 木崎さんもそんなに気心がしれた相手というわけではないが、それ以上に知らないこの2人と同じ部屋に取り残されてしまった……。


 何と気まずい……。


 どうしたものかと俺がそわそわしていると……。


「お前らが今年新しく入ったっていう2人の超能力者か」


「はい」


 やっぱりこの子も超能力者なのか。


 って、納得してる場合じゃない。


「は、はい」


 俺も返事する。


 緊張しちゃうのも仕方ないよね。


「はぁ……。まさか今年の超能力者がお前らみたいなガキしかいないとはな」


 えー、なんかいきなり酷い物言いだな。


 てか何気に今年ゾディアックに入った超能力者って俺たちしかいなかったのか。


 いくら世界的に名前の知られている組織といえども、超能力者を獲得するのはそう容易くはないということか。


「まぁいい……。これからお前らが配属される第6部隊の隊長の一ノ瀬龍雅いちのせりゅうがだ。第6部隊にはお前らを含めると7人の超能力者がいるが、残念ながら任務中のため今はいない。そんな重大な任務ではないが」


 ゾディアックには、確か13の部隊があった。


 それの6番目の部隊という事か。


 てかそれと、一部隊にはたった7人しか超能力者はいないのか。


「そこでお前らにも早速初任務だ」


「「え……?」」


 一ノ瀬隊長の突然の発言に思わず星川と声がシンクロする。


 そんないきなり……?


「まあそう驚くな。安心しろ。大した内容じゃない。うちのライバル秘密結社であるハーラルという組織がある。お前らも聞いたことくらいあるだろ?」


 ――ハーラル。


 確か最近にも警察庁を襲撃したとかで、テロリスト集団として大々的に報道されていた。


 ゾディアック、ハーラル、そしてもう一つレイスという組織を加えた3つが、今の日本における三大秘密結社とされている。


「テレビで見たことがあります」


「あ、俺も多少聞いたことがあります。ゾディアックと同じ三大秘密結社の一角だって」


「そうだ。俺たちは今やつらとある問題のせいで敵対関係にある。そこでお前たちには奴らのアジトがあると思われる場所付近でハーラルの構成員を捕まえてきてほしい。構成員といっても超能力者は危険だから、普通の人間であるかどうかを時間をかけて確認してからにしろ」


 なるほど、捕まえてきた後その構成員がどうなるのかは想像したくもないが、とにかくそうして情報などを得たりするんだな。


 言うほど簡単な内容の任務でもない気はするが、隠密任務であることを考えると、俺たちみたいな新人にもギリギリこなせるラインだな。


 殺人だのテロだのといった精神的にハードルが高い任務でないこともありがたい。


 こちとら覚悟は決めたつもりと言えどもこの前まで中坊だったんだからな。


「分かりました。期間はどれほどでしょうか?」


 俺は一ノ瀬隊長に尋ねる。


 時間をかけてと言っていたし、1日ってことはないと思うんだが……。


「期間はお前らの入学式の前日までだな。つまり10日までだ。しくじられてもこまるし急かすつもりはない。それとお前たちには資金として10万円を貸し与えておくが、後で使わなかった分は返せ。ちゃんとした会社でもないし領収書じゃなくて構わないが、レシートとかの証明になるものは持って来いよ? あと流石に大丈夫だとは思うが余計なものは買うな」


 お前ら?


 あぁ、そういえば木崎も星川と俺が同学年であると言っていた。


 綾も超明学園に入学するのか。


 それにしても10万円か。


 これまで中坊に過ぎなかった俺の身近にあった金額とは桁が二つほど違うな。


「それじゃあ最後にお前らのこのアジト内における部屋を用意してやる。お前らみたいなガキが外で寝泊まりしたりしてたら怪しまれること間違いないからな。ほら、ついてこい」


 確かにな。


 寮で寝てもいいと思うが、あんまり夜遅くに返ってきてるのを見られるのもまずいか。


「分かりました」


 俺はそう答えると、早速部屋を出ていこうとしている一ノ瀬隊長の後を追った。

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