Episode Ⅰ

第5話.門出

 まるで修学旅行に行くかのような大きさのボストンバッグを持ち、灰色のズボンと紺のブレザーに身を包んだ俺は、ガヤガヤとうるさい朝の駅のホームに立っていた。


 今日はいよいよ入寮日。


 学園側からは、入寮は4月から入学式の前日までなら何時でもいいと言われているが、俺は木崎さんに出来る限り早く来いと言われているので初日の今日来た。


 親はもう少し後でもいいのではないかとか言ってきたが、早くゾディアックの一員になりたくて仕方ない俺は、何が起きるか分からないから早めに行くとか言ってさっさと出てきた。


 悪いね、親孝行しない息子で。


 そうしてしばらく駅のホームで待っていると、構内に流れるアナウンスと共にガタガタと電車がやってくる音が聞こえた。


 その電車はホームにやってきて、ゆっくりと停車する。


 俺は大量の荷物と共に電車に乗り込んだ。


 通勤ラッシュの真っ最中ではあるが、なんとか座ることが出来た。


 荷物を椅子の上の棚に置く。


 しばらくした電車が動き出す。


 いつものようにスマホをいじってみるが、何となく落ち着かない。


 結局40分間の道のり、俺はただぼーっと虚空を見つめていた。


 そうしてふと気づいた時には東京駅に着いていた。


 俺は慌てて荷物を持って電車を飛び出す。


 沢山の人に迷惑を掛けたこと間違いない。


 さて、そんな訳で何とか東京駅までは辿り着けた訳だが、実は俺はここに来る前に木崎さんからある一通のメールを貰っていた。


 その内容は、学園には行かずに初めて木崎と会った時の待ち合わせ場所に来いというもの。


 どうやら黒服がやって来てくれて、荷物は勝手に寮の方に置いてきてくれるらしい。


 そして俺はバーに行くと。


 正確にはその奥にあるゾディアックのアジトだが。


 というか本当に奥にアジトがあるんだな。


 ベタにも程がある。


 というか超明学園の生徒が黒服に連れられる所を見られたりしても大丈夫なのだろうか。


 そんなことを考えながら待ち合わせ場所に向かっていると……。


「お久しぶりです能見様。こちらです」


 背後から掛けられる声。


 振り向くとこの前の黒服だった。


 しかし今日来ているのは黒服ではなく私服だ。


 てか何故背後から声をかける。


 だがそれにしても流石に黒服ではなく私服で来てくれたのは安心だ。


 周りの目はあんまり気にしないタイプだけど流石にこれは気になってしまう。


 そしてしばらくしたこの前車が止めたあった場所まで辿り着くと、黒塗りの高級車が2台並んでいた。


 うわ……。


 この絵面はやばいな……。


 これには俺も呆然。


「どうかされましたか?」


「い、いえ!」


 呆然していたら心配されたので俺は慌てて動き出す。


 ボストンバッグは後ろの車両に、俺自身は前の車両に、ということらしい。


 てかどうかされましたか、じゃねぇよ!


 どこのボンボンだよ!


 注目浴びまくりだわ。


 はぁ、無になろ。


 そして俺は車に乗り込んだ。




 ----------




 見覚えのある薄暗い雑居ビル郡。


 忘れもしない半年前、木崎さんに初めて会った日に見た景色だ。


 今日は話を聞くのではなく、ゾディアックに入るんだがな。


 階段を降りて地下に向かう。


 鍵を開けてもらうと、中に入った。


 そこにいたのは木崎さん、そして……。


「来ましたか。紹介しましょう。彼女は貴方と同期かつ同学年の星川綾様です」


「よろしくお願いしまーす!」


 木崎の隣にいたのは何と女の子だった。


 身長は150cmギリギリぐらいだろうか。


 かなり小さい。


 だが、俺とは住んでる世界が違うようなオーラを持っている。


 所謂陽キャと言うやつだ。


 い、いや、断じて俺は陰キャではないが……。


 快活な感じで、とても悪の組織に入ろうとするような人間には見えない。


 もしかしてこう見えて病んでいたり……。


 いや、今は邪推はしないでおこう。


 とりあえず挨拶くらいしないと。


「あ、あー、うん。よろしく、お願いします」


 しまった、完全なコミュ障を発揮してしまった……。


「では行きましょうか。こちらです」


 木崎さんは歩いていく。


 カウンターの奥には扉があり、そこがアジトと繋がっているようだ。


 とうとう踏み入れるんだな……。


 俺が半年間待ち望んだその場所に。

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