第3話.分岐点
「到着しました。こちらです」
ボーッとしながら車に乗っていたら、いつの間にか到着したようだ。
黒服がドアを開けてくれる。
俺は慌てて立ち上がり車を出た。
辺りには怪しげな雑居ビルが立ち並でいて、暗い雰囲気を醸し出している。
なるほど、ここら辺なら悪の組織のアジトがあると言われても違和感を覚えないような場所だ。
黒服はその中にある一つの雑居ビルに向かって歩いていく。
俺はキョロキョロと辺りを見渡しながらその後を追った。
その雑居ビルは、入口の近くに地下へと続く階段があった。
黒服は階段を降りる。
地下とは中々にベタだ。
俺は思わずそんな脳天気な感想を抱いて階段を降りていく。
階段の先には扉が見える。
しかしその扉は開かない。
黒服の後ろからどうなっているのかを確認してみると、何か看板のようなものが掛かっていた。
なるほど、ここはバーか何かになっているのか。
表向きにはバーで、実は悪の組織の入口と繋がっているなんてのはよくある話だ。
「構成員番号02198です。開けてください」
構成員番号なんてあるのか……。
黒服が扉の前でそういうと、扉からガチャリと音がする。
「どうぞ」
黒服は扉を開くと俺に中に入るように促す。
俺は恐る恐る言われるがままに室内に踏み込んだ。
中はやはり予想通りバーになっていて、カウンターには1人の男がいた。
「彼が能見様にメールを送った木崎です」
カウンターに座る男を指して黒服が俺に教える。
どうやら俺を連れてきてくれたこの黒服が木崎さんではなかったみたいだ。
この黒服は木崎さんの部下か何かか?
「では私はこれにて」
そう一言言うと、黒服は部屋から出ていく。
「わざわざこんな所まで足を運んでいただきありがとうございます。それでは早速ですが話を始めましょうか」
今まで無言を貫いていた木崎さんが、黒服が居なくなったのを見計らっていたように話を切り出す。
そして、隣のカウンターの椅子を引いて、無言で俺に座るように伝える。
「し、失礼します」
俺は一言掛けてから椅子に腰かける。
「こちらにいらして下さったということは、ゾディアックの構成員になる事を前向きに検討していると捉えても宜しいのでしょうか?」
木崎さんが早速本題に入る。
この、さっきの黒服と同じような、丁寧な口調ながらドスの効いた低い声ってのがどうにも慣れなくて怖いな。
だが俺もこんなところまで来てしまったんだからビビってないでしっかりと話す!
「は、はい。しかし俺……じゃなくて私はご存知かも知れませんが千葉に住んでいます。その上、学生の身ですからそんなに頻繁にここまで来るのは現実的に難しいんです……」
出来ることなら入ってみたい。
しかし現実的に考えて、それは難しい事だった。
「いえ、それは問題ありませんよ。実は全てを解決する方法があるんです」
木崎さんはまるで俺の言葉を前から分かっていたかのような反応を見せる。
「全てを解決する方法……?」
「えぇ、それはですね……」
木崎さんの話は纏めるとこうだった。
実はゾディアックが多額の金を注ぎ込んで設立した私立高校がこの近くにあるらしく、そこは全寮制という点を除けば、それ以外は普通の私立高校らしい。
そこに俺が入学すれば、毎日でもゾディアックとしての活動が出来るようになる、と。
「それに能見様は親や担任から中卒で就職することを反対されているご様子。これならゾディアックの構成員にもなれて高校にも入学できる。まさに一石二鳥かと思いますが」
は?
そんなことまで調べてたのかよ。
まぁ超能力者集団だって言うならそれぐらい容易いか。
しかし、確かに聞けば聞くほど魅力的な話だ。
い、いや、でも試験とかの問題がある。
俺の学力で大丈夫だろうか?
しかし、木崎さんはそんな俺の心中も見透かしているかのように……。
「入学については特待生扱いとなりますので、入学金、授業料は免除です。入学試験も、全教科100点を取ったということにしておきます」
は?
マジかよ。
金の問題は親に真剣に頼み込めば何とかなるかもしれないが、試験の方は自分で努力するしかない。
だから俺はどちらかといえば試験の方が心配だったのだが……。
「ほ、本当ですか?」
俺はあまりの破格の条件に少し疑ってしまう。
「もちろんです。能見様はこれだけの事をするだけの超能力の才がある」
一口に超能力者と言えど、その能力の強弱には個人差がある。
超能力も、運動なんかと同じように、練習すればするほど強力になっていくのだ。
幼少期の頃から超能力の練習を毎日沢山続けてきたことが実を結んだって訳か。
「是非お願いします!」
気づけば俺は興奮気味にそう叫んでいた。
「ありがとうございます。それでは何かあればメールの方にご連絡下さい。それと……」
そう言って木崎は隣の席に置いてある紙袋を俺に渡してくる。
「これが学校の資料です。一応渡しておきます」
「ありがとうございます」
俺は礼を言ってその紙袋を受け取る。
これが、俺の人生の分岐点となる一日の出来事だった。
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