第2話.冒険

 初めてゾディアックのニュースを見たのは中学2年生の時だった。


 その時は、この時期特有のある病気のせいか、酷く憧れたっけ。


 奇跡的に超能力も持っていたし、ゾディアックに入りたいとも思ったが、入り方も分からなかったし流石に諦めた。


 そして1年の時を経て、今俺の元にはゾディアックに入らないかと言う誘いが来ている。


 正直、実際に頭の中で悪の組織なんてものを想像してみるとビビるが、それでも入りたいという思いは消えない。


 思えば俺は超能力なんて特別な力を授かったにも関わらず、社会の歯車の一つとして平凡な人生を送る未来を回避しようとしてこなかった。


 ここでこの誘いを受ければ、良い結果になるか、はたまた悪い結果になるかは分からないが、少なくともこの平凡な人生だけは変えることができる。


 メールに添付されていたのは東京駅構内の地図。


 赤点で示されている待ち合わせ場所は丸の内北口だ。


 俺の家の最寄駅は千葉駅。


 家からバスで千葉駅まで行き、そこから東京駅までは40分。


 1時間ちょいの道のりだ。


 決して近い距離ではないが、1人では行けないほど遠くはない。


 行ってみるか。


 俺は腹を決めると、足を早めて家へと向かった。




 ----------




 家に帰り、私服に着替えて、冷凍食品の炒飯を急いで腹に突っ込むと、時計の針はもうじき13:00をなろうかという時刻を表していた。


 そういえばメールには、来るなら連絡をくれ、みたいなことは書いていなかったが、何時に行くかなどを送らなくてもいいのだろうか。


 まぁ分からないから一応送っておくか。


 到着予定時刻は余裕を持って14:30としておこう。


『では14:30頃に着くように向かいます』


 俺はそれだけ返信すると、自分の財布を引っ掴んでポケットに入れると、荷物を持って家を出た。


 まぁ荷物と言っても飲み物くらいしかないが。


 近くのバス停に歩いていき、時刻表を見ていると、運良くバスがやってくる。


 流石に平日の昼間なので、乗客も僅かだ。


 そのままバスに乗りこみ、スマホでソシャゲの周回でもやりながら時折車窓から別に珍しくもない住宅街を眺める。


 思えば1人で遠くまで出掛けるのは久々だ。


 謎のワクワク感がある。


 そのまま20分ちょっとバスに揺られていると、あっという間に千葉駅まで辿り着いた。


 改札をICカードで抜け、東京駅まで1本で行ける電車に乗る。


 バスと同様、電車の中はほとんど人が居ないので楽な姿勢で座れて快適だ。


 電車の旅は一瞬だった。


 ソシャゲの周回をしながらゾディアックについて考えていたら、いつの間にか東京駅に着いていたので慌てて降りる。


 そしてそのまま改札を抜けて待ち合わせ場所付近に辿り着いたが……。


 ……そう言えば服装とかも聞いてなかったな。


 確かに現在は人は普段に比べればかなり少ないと言えるが、それでも天下の大東京だ。


 少ないと言えどもその辺の田舎の駅とは訳が違う。


 この中から初対面かつ服装も知らない人を探すなんて……。


 どうしたものか、と俺が困っていると……。


「お待ちしておりました能見様」


「う、うわぁ!」


 背後から突如掛けられた声に慌てて振り向くと、そこにはアニメとかでよく見る黒服が。


 い、いかにもな感じだぁ……。


「では着いてきて下さい」


「は、はい……」


 丁寧な口調と動作でゆっくりと地上へ向かう黒服。


 普通に優しい態度なのになんか怖いのはやはり格好のせいか。


 俺は若干の後悔の念を抱きながら黒服の後を歩く。


 しばらく歩くと、地上に出た。


 さらに少し歩くと、ターミナルに止められた黒塗りの高級車が見えてきて、そこに案内される。


 乗れってことか。


 黒服がドアを開く。


 俺はそれに乗り込むと腰を落ち着けた。


 怖い。


 黒服に黒塗りの高級車で何処かに連れていかれるというシチュエーションがもう怖い。


 だが時すでに遅し。


 俺はもはや引き返せないところまで来てしまっていた。


 ……。


 あー、こうなればもうどうにでもなれ!


 そして車が動き出す。


 はぁ、一体どこへいくのやら。


 不安だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る