大塚くんとそれぞれの思惑


「大塚よ、ちょっと面貸してもらおうか?」

「拒否権はないぜ」


 朝から三バカに絡まれる。


「もうチャイムまで時間ないから、後にしてくれないか?」

「それもそうか……後でな」


 どうせ女子関連の話だろう。

 めんどくさいな……。


「男子にまでモテモテとは大変やな」


 大杉がニヤニヤしている。


「主人公とは、いつの時代も人を惹きつけてしまうらしい」

「そんな君にこれを渡そう」

「ん?」


 大杉から、厚い本が入ってそうな紙袋を渡される。


「昨日のSHINEの詫びや」


 恐る恐る中を見てみる。


「学園妹」と「ダマされるな!この中に1人妹がいる!」が入っていた。

 たぶんこれはあれだ。

 エロゲと言うやつだ。

 人生で初めて見た。


「実は俺、隠れオタクなんや。昨日はゴメンな!」


 近頃の隠れオタクは全く隠すつもりがないらしい。

 その秘密は墓場まで持って行け!

 そもそもこんな物持ってくるな。


「詫びなんていらない。気持ちだけ受け取っておく」


 気持ちだけ受け取る。

 何て素晴らしい日本語だ。

 このやんわりと断れる感じ。


「何でや!これからの学校生活にとって参考になるぞ。海都は恋愛シュミレーションしとくべきや」


 俺は気付いてしまった。

 このクラスで一番バカなのは伊藤でも江崎でも上田でもなく、大杉であることに。

 そもそも俺に妹はいないし、恋する気もない。

 それにもっと違うソフトあるだろ。


「俺、ゲームに興味無いんだ……」

「そうか……今度は初心者向けの持ってくるな」


 撤回する。

 気持ちだけ受け取る。

 この日本語はダメだ。

 はっきり「NO!」と言えない日本人が好みそうな言葉だ。

 これからはしっかり断ろう。


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 4時間目がおわる。

 俺は速やかに帰る準備をする。

 俺はさようならの合図で教室を出て、下駄箱へ。

 それは謎の組織から逃げる主人公のように。


 !?

 おかしい……。

 俺の靴が無い。

 まさか!


「お探しの物はこれかな?大塚くん」

 俺の靴を持ち、得意げな表情の伊藤。


「寂しいな。僕ら友達じゃないか。一緒に帰ろうよ」


 江崎と上田も現れる。

 三バカに出し抜かれるとは。

 俺は逃走を諦め、一緒に帰ることに。


「昼食べてないし、ファミレス行こうぜ」


 ん?

 上田の提案に疑問が生まれる。

 てっきり、人気の無い裏山にでも連れていかれるとばかり思っていたからだ。

 上田の提案により「ソイゼリア」に行くことに。



 各々好きな料理を注文し、食べ終わる。

 これはあれか、奢らされるやつか。

 それなら絶対に奢らない。

 1度奢ってしまえば癖になってしまう。


「今朝の話なんだが……」


 江崎が急に切り出す。


「お前は神崎さん、黒田さん、橘さん、誰と付き合うつもりなんだ?」


 やはり女子関連か。


「別にお前の邪魔をするつもりはない!」

「そうだ。誰か1人と早く付き合ってくれ」

「その人と上手くいくように俺たちもサポートする」


 意外な事を言われる。

 なるほど。

 俺に1人をくっつけてしまい、残りの2人に諦めさせる。

 そして、残りの2人をこいつらが狙う算段か。

 変に妬まれるよりかは、協力した方が良さそうだ。


「安心しろ。俺はその3人と付き合うつもりがない」

「駄目だ。それではお前はフリーだ。お前が告白を断ろうが、諦めないかもしれない」

「最後まで話を聞け。白石にする」

「は?白石は自己紹介の時、冗談と言ってたじゃないか」

「俺に任せろ。俺が白石とくっつけば、残りは3人。お前達も3人。わかるだろ?」

「大塚……今日から俺たち親友だ! 昼は俺らの奢りだ!」


 白石は、神崎か橘ではなく堀を俺にくっつけたい腐女子。

 訳を話せば何とかなるだろう。

 それに神崎が俺から離れる良い機会かもしれない……。


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 私は初恋などしていない。

 私は自分より可愛い女が許せない。

 神崎も黒田も、そして白石も大塚海都に好意を持っている。

 白石は冗談と言っていたけれど、カラオケに行った時の感じ……私の直感だと、彼女も彼を好きなはず。

 そんな彼女達が好きな彼を私に惚れさせることで私が一番可愛いと証明される。

 悪いけど、大塚海都には私の自己証明の為に利用させて貰うわ。

 彼に告白させれば、私の勝ち。

 そうすれば用済み。

 もちろん、付き合ったりなんてしないわ。

 絶対私に惚れさせる。

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大塚くんはダマされない! 相川エイタ @AiKaWaEiTa

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