大塚くんと見知らぬ美女

 男子からの視線が痛い。

 明楓の公開告白により、騒つく教室。

 あいつらは騙されている。

 綺麗な花には棘があると相場が決まっている。

 あの女は俺が好きなんかじゃない。

 俺を困らせて楽しんでやがるんだ。

 俺は絶対に騙されない。


「いや〜、青春だねぇ。はーい、静かにしろ。次の奴」


 峰先生の教師人生においても、記憶に残る自己紹介だっただろう。


黒田琴心くろだことみです。学級委員長になろうと思ってます。1年間よろしくお願いします」


 美人だが、少し気難しそうだな。


 それより、俺は彼女を知っているような気がする……。

 何処かであったことあるのか……?


「質問です!好きな男性のタイプは?」


 質問をしていたのは、Official影男dismの知りtenderをオクターブ下で歌っていた上田だ。

 あの笑ってはいけない空気は最高だった。


「大塚海都くんみたいな人がタイプです」


 再度俺に向けられる男子の眼光。


 やはり……会ったことがあるのか……?

 いや、今はそんな事どうでもいい!

 このままでは「お前の席ねぇから!」何てことが明日から起きかねない。


 再び騒めく教室。


「へぇ……。女の子の知り合いいたんだ……」


 聞いたことのない低音ボイスで呟く神崎。


「大塚モテるなぁ……。静かにしろよ!次だ次」


 峰先生、頼むから質問を禁止にしてくれ!

 これ以上何も無いと思うが、不安だ……。


白石未玖しらいしみくです。気軽に未玖って呼んで下さい」


 美しさのあまり、静まり返る教室。


 セミロングの銀髪に抜群のスタイル、強めの顔立ち。

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。

 この言葉は彼女のためにあるとさえ思わされる。

 そんな美しさだ。


「うおぉぉぉ!未玖ちゃん、俺と付き合ってくれ!」


 人柱になったのは、勢い任せのモノマネをしていた江崎だ。


「友人でも無理です」


 120%の美しさで一蹴する。


「どんな男性に惹かれますか?」


 めげない江崎。


「うーん……。そうだなぁ……大塚くんとか?」


 父さん母さん、今日まで大切に育ててくれてありがとう。

 そして、さようなら。

 今日が命日になる気がしてならないよ。


「って、冗談だよ!ごめんね大塚くん!そんな流れだったから、つい」


 心臓に悪過ぎる。

 今日ほど心臓に負荷をかけた日はあるだろうか。

 いや、ない。

 しかし取り敢えずは、骨の1、2本で済みそうだ。

 それにしてもやたらと美人が多いな。



 先程とは一変して、自己紹介前から盛り上がる男子。


橘恋叶たちばなれんかです。私も気軽に恋叶って呼んで下さい!」


 ショートボブでブラウンベージュの髪を耳にかけているのが印象的だ。

 The女の子って感じだ。

 お砂糖とスパイスと素敵な何かでできてるんだろうな。

 その可愛さを男子達の盛り上がりが物語る。


「質問!妹っぽいですけど、妹なのでしょうか?」


 意味不明の質問をぶつける大杉。

 コテコテの関西弁は何処にいったんや!


「妹がいて、実は姉です!」


 真面目に答える橘。


「今、好きな人はいますか?」


 自己紹介を済ませてない男子が質問する。


「います……」


 照れた様子の橘と目が合う。

 嫌な予感が……。


「大塚海都くんです!」


 今にも暴動を起こしかねない1年9組男子。


 しかし黒田と違い、全く記憶にない。

 橘とは面識がないはずだ。

 また、「冗談だよ!」ってオチじゃないのか?


「冗談ですよね?」


 再び質問する男子。


「本気です。私の初恋です!」


 頬を赤く染めあげる橘。

 不気味な笑みで俺を見る男子達。

 死期を悟る俺。

 どうやら今日が天命であるらしい。

 峰先生ごめん、言い付け守れそうもない。


「かいくん、誰あの子?」


 囁く神崎。


 俺が一番聞きたい。

 誰か教えてくれ。

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