第8話 桐生ワールド

『芳夏!外出ろ、今すぐ!!』

初めてのメッセージがそれだった。

軽くムカついたけど、どうせ暇だからとサンダルを引っ掛けて外に出た。

一足家から出ると夏特有のジメジメが体にまとわりつく。

ちょうどそのタイミングでまたもピコン!と通知音が静かな街に響いた。

『今ってちょーど、にみゃって感じじゃねぇ?!』

まさかこいつはわざわざそれの為だけに、私をクーラーの楽園から湿気の地獄へと落としたのか。

『え、それだけ?』

怒り半分にメッセージを打つと、一瞬で返事が来た。

『それだけってなんだよ!せっかく俺らで名付けたんだ、親が子供を見守らないでどーすんだ!』

出た、桐生ワールド。

私が勝手に名付けただけ。でも、結構いいと思う。

あいつしか分からない所に興奮して、あいつしか分からない理論が生み出される、そんな世界。

雨なんていつでも降るから特に特別なんて思わない。

第一、今がジメジメしてるのは夏だから。

それに、私たちが親って言うのも意味がわからない。

名付け親に成長を見守る義務なんてないし、「香り」が成長するってわけが分からない。

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