第4話 大地の匂い

ゲオスミン……。

昨日、布団の中で読んだ気がする。

夜遅くの記憶をさらっていたら、なぜだか言葉が口をついて出てきた。

「雨上がりの匂い。雨が止んだ時にむわってくる香り。」

言い終わった後の、こいつのびっくりした顔が妙に心地よかった。

初めて学年首席の秀才に勝てた気がしたから、なんて単純な理由かもしれないけど。

「……よく知ってんじゃん。芳夏、だっけ。」

急に下の名前を呼ばれてドキッとしたなんて、口が裂けても言えなかった。

こんな時、にこって笑えたらモテるのかな……。

なんて妄想モードに入っていたら、やっぱりこいつの声で現実に引き戻される。

「でも、『むわっと』っつーのは違うな。ゲオスミンってのはもっと、晴れやかで、爽やかで、清々しくて…、」

言葉が見つからないって頭をポリポリ掻く姿は、小さな子供みたいだった。

知ってる言葉だけじゃ世界はとても表しきれなくて、だから小さな子供は自分で新しい言葉を作っちゃうんだ。

でも、大人は違うよって言うから何となく自分語を話すのが怖くなって、いつの間にか普通の日本語を話すようになるのかも。

「……しゅうぉん、って。分かる……?」

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