第4話 元教え子の元ロリが漫画屏風描いてくれた

「味噌の味はうちらの世界のと同じだね」

味噌汁にネギとか白菜の中に猪の赤い肉が見え隠れしている。俺は夢中で汁から見つけて肉ばかり食ってしまった。

「今度牛丼作ってもらおうよ」

「そもそも砂糖がないから、牛丼は無理だろ。醤油の味が強い牛丼が出てくるぞ」

「いや、それでもいいっすわ。毎日食べたい」

 瑠璃は畳み掛けるようにいってくる。

「牛は大事な耕作機なの。だから、そんなに食ったらダメなんだよ」

「じゃあ、毎日猪肉でいいよ、先生」

「猪が山から消えるわ」

 俺は呆れて酔眼を瑠璃に向けた。

「おおこわ......じゃあ、焼き魚で我慢するわ」

 瑠璃がため息まじりに言った。そして未練がましそうに胸をみる。

(牛乳でも飲ませるかな)

「ところで信長に瑠璃の絵を送りたい」

「はああ、冗談だしょう。うちのお師匠の絵でいいじゃない」

 瑠璃は予想通り、断ってきた。でも、そんなことで引き下がる俺じゃない。

「いや、お前の近代的な絵画がいいんだ」

「何を描くんすか」

 俺の気迫に押されたのか、瑠璃が折れてきた。元教師の威厳ってやつだろうか。

「俺が蹴鞠をやってるとこを迫力満点に描いてくれ」

 蹴鞠どころかフットサルもサッカーもやったことがなかったのに、俺はこの世界では蹴鞠の名手だった。プロリーグがあれば、さっさと駿河の太守なんて辞めてしまいたい。

「信長さん、新し物好きだったね、どうせなら漫画っぽくしようよ」

 俺は瑠璃の大胆さに舌を巻いた。

「その発想いい」

「じゃあ、適当に漫画風でまとめるわ」

 瑠璃は右手の親指だけたてて、外人みたいに仕事を請け負った。

 

 俺は瑠璃に翌日蹴鞠を側近たちとプレイする姿をデッサンさせた。同時に、美術に素養がある者を堺に派遣して油絵の具を買わせる。それを瑠璃に自由に使わせた。


 完成した瑠璃の絵はぶっちゃけ絵画じゃなく、屏風に描かれた漫画と言えた。空間はコマ割で分割されている。

 最初のコマは、俺がボールを睨むスポーティーな横顔。次は逆光で毬が青空をバックに空で浮かぶ場面。その後は毬に向かって華麗なステップで落下地点に俺が移動する姿。

 全てのコマが遠近法を使って、立体的かつ写実的に描かれていた。圧巻なのは毬が右足に捕らえられる五番目のコマ。じっと見てると、屏風からバシュッっと毬を蹴る音が聞こえてきそうなほど、迫力があった。

(これは信長を誘いだせる)

俺はその絵を見て、自分の妄想が現実に変化する確かな手応えを感じた。

「でかしたぞ、瑠璃」

「こ、こんなんでいいの?」

 瑠璃のきょどった返事が可愛いかった。

「ったりめえだって。誰も見たことねえ、アートだよ」

「まあ、美大の試験じゃ、絶対落ちるだろうけど」

「まあな」

 俺は元教え子の頭を優しく撫でてあげた。

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