第3話 元教え子の元ロリの瑠璃が戦国時代は肉が食えないから胸が縮んだと嘆く

「美濃がこちらに、尻尾を振ってきました」

翌朝、俺が奥の部屋の掛け軸の雪舟の絵(流石、今川家本物らしい)を見て、ぼんやりしてると、元康が最高のニュースを持って来てくれた。

「本当か、元康どの。でかしたぞ」

「今川が織田を攻めた場合は必ず尾張を西から突くという密約を得ました」

 義竜はどれだけ父道三を殺して道義的に苦しんでるのかが、分かる。全てが俺の読み通りだ。

「そうなると、義竜の気が変わらぬうちに攻めたいところだな」

 俺の興奮する顔を元康は頼もしそうに見ている。ただのボンクラ息子の印象は少し消すことが出来たみたい。

「駿府から尾張国境に兵を動かすと、相当警戒するでしょうが」

「はは、臆病者の俺が動くってことは同盟国が増えたとばれるか?」

「まあ、何かが動いたと察せられる可能性はあるかと」

「ふむ、美濃との密約はばらしたくない。よし、信長に進物を送ろう」

「なんと、父の敵に進物をでござるか」

「わしは、和歌と蹴鞠に興じる阿呆ゆえ、信長にご機嫌とりの進物を送っても不思議はあるまい」

元康は何とも言えない顔で、俺の自虐戦略を聞いている。

「敵を油断させるなら、何でもやるさ」

「しかし、信長殿は銭を持っているので当たり前の進物じゃ満足せぬかと」

 元康は気を使いつつ言ってくれた。

「そうだな、普通のものではいかんだろう」

 俺はその頃には信長に何を送ろうか思い付いていた。

夜になって俺はしし鍋を瑠璃とつついていた。

「美味い、しし肉うまいー、鯛の5倍うまい」

「ひさしぶりの肉だよなあ。駿河の太守っていっても、肉食えるのって1ヶ月に一度かあ」

 俺は思わず愚痴ってしまう。まあ敗戦で領土が減ってるのに贅沢はいえんだろう。領民の皆さんはもっと、我慢してくれてんだから。

「でも、うまいー。お肉っていいね」

「まあなあ、舌への衝撃が違うよな」

「ああ、謎が一つ解けたわ。ふうむ、そっかそっか」

脂身の部分を舌にのせてそのプニュプニュ食感を楽しんでると瑠璃がしきりに頷いてる。

「何を納得したんだよ」

「この時代の人が貧乳な訳っすよ。肉食わないからだわ」

「ごほ、鍋つついてそんなこと考えてたのかよ」

 俺は元教え子の色っぽい着物姿を思わず見つめる。

「だって、相変わらず先生私とエッチなことしないじゃん。貧乳だからかなって」

 己の胸部を見ながら瑠璃が残念そうに言った。俺から見るとなかなかの膨らみなんだけど。

(確かに昔の瑠璃のほうがふくよかだったかも)

「信長問題片付けたら、落ち着いて旅行でもしようぜ」

 俺は瑠璃に思わず言っていた。せっかくタイムスリップしたんだから色々と駿河の風景とか楽しんでみたい。

「デートもなく、いきなり旅行っすか......」

 瑠璃はちょっと上擦った声で言って黙りこむ。

「とりあえず食えよ」 

 妙な雰囲気になりそうで俺は慌てて言った。

「はあい」

ませたこと言うくせに、肉を大口開けて頬張る姿はやっぱりクソガキにしか見えない。

 瑠璃の姫顔には元康の奨めた特訓のせいかだいぶ慣れた。そもそも瑠璃は転生して、美人になってもやっぱり瑠璃だった。おっちょこちょいで、情に脆くて、甘ったれで、絵が好きだった。好きどころか目茶苦茶上手い。駿河一の絵師を付けたが飲み込みが早くて、デッサン力が半端なくて絵師のほうが瑠璃から学ぼうとする始末だ。その才能を活かさぬ手はない。

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