第2話 元ロリの教え子が美人過ぎて不安なので元康君に相談してみた
「ほお、奥方が綺麗すぎて上手く欲情出来ない?」
鷹狩の最中に元康は大声でいった。戦国時代を終結させた英雄もまだ二十代で、年相応に軽率なところもあるみたいだ。
「ちと、声が大きいぞ」
俺は周りの連中に聞こえないかと周囲を見渡す。
「これは、元康粗相を致した」
鷹狩はこの英雄が目茶苦茶好きなアクティビティらしくて、俺はたまに誘われる。天気がいいし、富士山を背景にヒョーっと気持ちよく獲物を狙って空を旋回している鷹を、下から仰ぎ見るのはなかなか気持ちいいものだ。周りに親衛隊である小姓たちが俺を守るように完璧な乗馬で移動する。
「なんか、美人って緊張するだろ。ちょっと隙があるほうがいいっていうか......」
俺は目茶苦茶正直に弱みをさらけ出す。これくらいスペック高い英雄に虚勢は無駄だろう。ところが
「実はこの元康も美人は大変苦手でござる」
と、意外な返事が返ってきた。
(そうだ、この人恐妻家だったんだ)
俺ってこんな記憶力ひどかったっけ、と思いながら俺は元康の恥ずかしそうな表情を見る。
「我が妻は今川三河で一番の見目麗しき者。しかしながら気性が激しく難渋しております」
「瀬名はなあ、美人を鼻にかけてるからなあ」
俺は適当に話を合わせる。ちなみに元康の嫁は瀬名の方と言われる。彼女は関口氏と呼ばれる今川一門の出身で、義元おとんは元康を結構大事にしてたってことだ。
「仰せの通りで。それに比べればお舘様の奥方は我が妻に相当見劣るにせよなかなかの美人。しかも、性質は穏やかで元康羨ましい限りでござる」
(何気に嫁のスペックでマウントとってきてるよね、あんた)
「でも、そっちは既に子が二人もいるであろう」
「実はコツがあるのです」
俺たちはいつの間にか切り株に腰を下ろして、熱心に美人妻対策について協議していた。
「妻の美に馴れるためにはまず、絵師に妻の絵を描かせるのです」
「え、そんなことするの?」
この英雄兄ちゃんは突然何を言うんだろう。
「そして、描かせた顔に髭とか鼻毛とか、唾液が垂れた無様な様子を加えさせるのです。さすれば、妻の美貌等何ほどのことも、思わなくなりましょう」
「そ、そんなやり方でいいんだ」
俺はあまりにも馬鹿馬鹿しくて、他の人から聞いたら笑って取り合わないその方法も、英雄から受けた指南ってことでやってみようと思った。
「拙者も家来に勧められて半信半疑で、やっておりましたが今は上手く夜を楽しめております」
「へ、へええええ」
英雄の下世話な告白にちょっと引いたが、俺は基本前向きだった。瑠璃の美貌に慣れないとせっかく夫婦になったのに楽しくもなんともない。俺が昔の瑠璃の顔がいいって感じるのは、それに戻れない彼女にとっては、迷惑でしかないはずだ。
「え、私の姿を描かせる?まさかヌードじゃないよね」
瑠璃は少し怯えを声に滲ませて呟く。
「そんなことはございません。元教え子をヌードにして写生なんてkuzu行為しねえよ」
「本当にい? 先生大名やってるストレスで最近目付き悪いからなあ」
「絶対、着衣だよ。安心しろって」
「なんで絵なの、ていうか、元美術部員の私としては自分で描きたいんだけど」
瑠璃は俺の隣の布団に入ってゴニョゴニョ言ってる。たまに一緒に寝ないと北条の侍女たちに実家に報告がいって、まずいんだとか。でも、美人が苦手な俺は全く瑠璃に触れない。我ながら無様だ。元教え子だからってのも、あるけど。いつかキスくらいはしてみたい。もう夫婦なんだし........。
「絵は今度道具買って描かせてやるよ」
「おおお、いいね。ばりばり描いちゃうよ」
瑠璃は県の絵の賞をかなり取ってて、将来は美大に行きたいといってた子だ。俺はちと不憫になる。
「もし良かったらその絵師からこの時代の絵の書き方学んだらどうよ」
「え、いいの? 楽しみっす。放課後の部活みたいだね」
「部活再開だぞ、こりゃ」
瑠璃の幸せそうな顔を見て、俺は美術部の部室で鰹節を必死に写生していた彼女を思い出す(何で鰹節だったのか今も謎)。大名なんか、やめて庶民として暮らす方法はないものだろうかと、思いつついつのまにかグウグウと寝る。
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