バーベキューで身の上(?)話

 本屋で誠也が夏海と出会って2日後。


 誠也がというよりかは誠也の学校の2年生は、学校からバスで30分ほどにある公園に来ていた。その公園とはアスレチックや子供の使う遊具もあり、今日の目玉であるBBQをするエリアも設けられている。


 多くの生徒が迷惑になるのではというほど騒がしくしている。しかし、それを咎めるものは誰一人といない。それは先生も生徒がBBQを楽しみにしていたことと、数日前にテストが終わったことで気が緩んでいることを理解しているからであろう。


 学校から公園まではバスで移動してきた。誠也は車内では友人と話していたのだが、今は言葉一つ発していない。理由はいたって簡単。すでに班ごとでの移動になったからだ。


 誠也の所属する班は誠也、相葉さん、山口君、三坂さんがいる。僕がこの中で関わったことがあるのは相葉さんくらいだ。それさえも怪しいけど…… 山口くんと三坂さんも普段あまり喋ったりする人ではない。クラスで目立つこともあまりない。




 駐車場から降りてしばらく歩いたところ、BBQをすることのできるエリアに到着した。


「えっと、玲奈が食材とかを持ってくるから、みんなは火の準備とかをお願いね~」


 そう言って三坂さんは先生のいるところに食材を取りに行った。


(絶対にこの雰囲気から逃げただけでしょ……)


「高見君に火をつけるのを任せてもいいかしら? それと山口君には机の準備をしておいてもらえないかしら?」


「りょーかい」


 火をつけるといってもキャンプとでやるように火種から、というわけではない。そんな大変な仕事でもないからすぐに終わらせて他の手伝いをすることにでもしよう。


 5分ほどの時間で火を付け終えた。


(準備とか結構やるんだな…… さてと、ほかのところを手伝おうかな)


 見たところ、誠也の班では女子が食材を切って、山口君は先生からもらってきた紙皿や紙コップを並べている。というように役割を分けている。 


(それで、紙皿とか紙コップは、風吹いているのに何で飛んでいかないの?)


「山口君。こっち終わったから手伝うよ」


「ありがとう。でも僕の方も終わっちゃったんだよね」


 5分もあれば大方の準備は終わった。女子の方も手伝おうかと思って見てみると、あらかた食材も切り終わっている。ほかの班と比べてかなり早く準備が終わっている。まぁ、この班の会話の数を考えたらそれも当たり前か……


 それにしても、一昨日の事があったせいなのか相場さんと会話をすることどころか、目さえあまりあっていない。


「男子~ こっちの準備終わったけどそっちはどうなの~?」


「こっちも終わったよ」


「オッケー。始めるね~」


 そう言って女子2人は切り終えたばかりの野菜とトレイに入った肉をを机の上に置きながら座った。


「じゃあ、食べよっか!」


 三坂さんは普段あまり目立たないく意外だったのだが社交的らしく、この班を上手くまとめていてくれる。実のところ、人の第一印象は当てにならないのかもしれないと誠也は思った。


 それから近くに置いたガスコンロセットに具材を載せていく。流石にそんな中、誰も喋らないというわけではない。三坂さんが誰かに話題を振ってはその人がその話題にこたえるといった具合だけど…… 


「あ、そういえば、相葉さんと高見君ってさ、付き合ったりしてるの~?」


「「えっ……」」


(三坂さんがいきなり爆弾を落としてきたし……)


「え! そうだったの!?」


(山口君も乗せられないでよ…… だけど山口くんってこういう話に興味あるんだ。実際、今の反応は完全に女子っぽかったけど……)


「そ、そんなわけないでしょ! 私と高見君は今までで一度も話したこともないわよ!」


「さすがに何回はあるよね? 改竄しないでくれるか……?」


 相葉さん、否定が強すぎはしないか……? こんな風に誤解されていたら相葉さんにも迷惑だろうし、弁明をしておこうか。


「僕と相葉さんが付き合っているわけがないじゃん」


 誠也は心の中で悲しくもなりながら笑いながら、こうすれば大抵の人は誠也の話を信じる。しかし、そう上手くいくわけではないらしい。


「高見君がそう言うなら、そうなのかもね~ それで? 夏海ちゃんの方はどうなのかな~? なんか最近、教室で高見君ばっかり見ているような~?」


「れ、玲奈さん! その話はさっきしましたよね!? もういいじゃないですか!」


 何を話していたっていうのだろうか…… それにしても女子はもう名前で呼び合っているのか。女子ってそういうところすごいな。


「まぁ、いいのかな~ それにしても、高見君ってなんかイメージと違うよね~ いつもクラスの男子とうるさくしているからさ、正直同じ班になった時は面倒くさそうで、嫌だったなぁ~」


「あ、でもそれ何だか分かるかもしれない。僕も最初は空気についていけなくなりそうで正直気が重かったよ」


「それを言うなら、玲奈さんだってそうじゃない。普段は静かなのに、今日はよく喋るわね」


「まぁ、そうかもね~ 1クラス40人弱。 そんな人数の中で目立とうなんて考えないよね~」


「僕も同じかもしれない。とはいってもベクトルは違うけど。普段はバカやっているけど正直1人で居て悪目立ちしたくないっていうだけだしね」


 いま、一瞬だけ三坂さんの雰囲気が変わった気がするけど気のせいにしておこう…… 怖いしね……


 忘れられがちだけど、僕はどちらかと言えば陽キャに属する人だ。とはいっても趣味とかは完全にサブカルチャー1色なんだけどね……


 どうして、僕が陽キャとして、クラスの大きなグループにいるかというと、ただ単に1人で居たくないというだけだ。1人でいてそれを馬鹿にされるのが怖いというのもあるけど。


「そういうところ、私たちって似ているのかもしれないね~」


「そんなもんじゃないの。みんながみんな個性を出せるわけでもないから。学校っていう檻に入った以上は尚更。そこから出ようというものなら淘汰されて、檻の中にいてもコミュニケーションを上手く取れないっていうのなら徹底的に群れの中から除外しようとする。学校って所詮はそんなもんでしょ。成績が良ければ推薦が良くなる。部活で活躍すれば推薦が良くなる。人当たりが良ければ推薦が良くなる。みんなそんな打算的な事を考えているだけだと思うしね。」


「「「……」」」


「ん? どうかしたの?」


「いや、高見君って意外と冷たいところあるんだね~って…… いくら何でも冷めすぎじゃないの~? そんなんだから、同類の私たちも何処か心地よく居れるのかもね~」


 そんな話をしていたら時間はかなり経っていたらしく、片付けをして学校に戻ることになった。僕らは解散の前にRAINのIDを交換しておいた。


 最後に三坂さんが言ったことはなんだか僕も分かるかもしれない。意外と今日の4人の班はあっていたのかもしれない。それと、僕が思っていた以上に学校で1人で自分を貫いている人はいた。


 やっぱり僕はそんな風にすることができる人たちの事が羨ましく思える。だけど、それは思えるだけで、誠也には到底真似できることではない。そんなことは誠也自身が一番よく知っている。

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