本屋さんの相葉さん

 アニメショップを始め、色々なところを回った誠也と大本さんは解散して家路についていた。


地下鉄を降りて、改札を出て外に出たら大型のショッピングモールが見える。ショッピングモールには多くのブティックショップなどが入っている。


(この中には大きめの文房具店、本屋も入っている。そういえば、英語の検定が夏休み明けにあったけ……)


 大学の進学、推薦に関わることだから、さすがに勉強しておくか。さすがに誠也もそう考えたので書店に寄ることにした。


「そういえば、リニューアルして場所も変わったんだっけ……」


 誠也はここ最近来ていなかったため、新しくなった書店の場所を探すのに少し戸惑ってしまった。


(こんなことなら、マップを見ておけばよかった。まさか新館にあるなんて……)


 誠也はそう思いながら図書館に入る。そうすると、書店独特の静けさ、本の匂いを感じ取ることができた。誠也はリニューアルによって本棚の位置とかが分からなくなってしまった。


(せっかくだし、ゆっくり回ろうかな……)




 それから誠也は時間をかけて、本屋を回って最終的に英語の参考書が置かれている一角を見つけた。そこには英検を始めた多くの検定の参考書、過去問が置かれている。それらの中には参考書ではありがちな「絶対合格」などといった謳い文句が入った物もある。


 棚を上から順番に見ていると、受ける予定の検定の参考書があった。だけどそれは色々な種類があり、参考書を自分で選んだことのない誠也にはどれを買えばいいのか分からなかった。誠也がネットの口コミとかを確認したりしていると、そんな誠也の様子を察したのか、男性の店員が話しかけてきた。


「なにかお困りでしょうか?」


「あ、はい。この検定を受けようかと思っているんですけど、どれを買えばいいのか分からなくて……」


「それならこちらを選ばれてはいかがでしょうか。とは言っても、完全に個人的な意見ですが」


 そう言って店員が差し出したのは『過去門10回分!』とのシンプルな題名がつけられた参考書だ。この場合は本当にただの過去問と言ったほうがいいのかもしれないが。


「私の個人的な意見で申し訳ないのですが、このような検定では元々知っている語句や単語が重要になってきますので、問題の傾向などを知っておくことが大切かと思います」


 そう言って詳しい説明をしてくださる店員。この人は確実に優秀な人だ…… 誠也はこの少ないやり取りだけでそう感じることができた。


「それならこれを買ってみます。丁寧にありがとうございます」


「いえ、仕事ですので。お客様も検定頑張ってくださいね」


 そう言ってにこやかに笑ってくる店員さん。めっちゃイケメンじゃん。なんでもできる人は顔も良いらしい。


 それから店員さんの渡された本をレジに持っていく。レジにはちょっとした列ができていた。店員さんが全部のレジに入っているというのに僕の番は一向に来ない。この時間帯は混んでいるのかな。


 それからしばらく待つと僕の番がやってきた。その参考書をレジのカウンターにおいて財布から代金とポイントカードを取り出そうとする。どうでもいいけど「レジのカウンター」ってポケモンみたいだな……


 それにしてもポイントカードってどこに仕舞ったっけ。ここ最近使う機会がなかったから、場所が良く分からない。この財布もそろそろ四次元ポケットにしようかな……


 やっとの思いでポイントカードを見つけ出し店員さんに出そうかと思った矢先……


「え…… まさか来るなんて……」


 レジの担当の店員さんが身動き一つせずにそうとだけ言う。おっ、レジに何も打たれていない。この参考書って無料なんだ。そんなわけないけど。


 そんな現実逃避は許さないと言わんばかりに隣のレジから、僕の目の前に立つ店員に声がかかる。


「相葉さんどうしたの? お客さまを待たせちゃっているから早くやって~」


 まさかだが、目の前に立つ店員さんは相葉さんだった。


「え、えーっと。こんにちは?」


「こちら1点でよろしいでしょうか? ポイントカードをお預かりします」


 いつの間にかにレジ打ちも終わらせた相葉さんがそう聞いてくる。いや、顔が少しも笑っていないのは接客業として問題ないか……?


「こちらの商品1100円となります」


 何もなかったかのように仕事を淡々とこなす相葉さん。同級生が来たらこうなるのもしょうがないのかな? それにしては顔が強張りすぎている気がするけど。


 他の人を待たせるのも悪いし、早く代金を払ってしまおう。それから参考書を受け取ってすぐに変えることにしよう。


「「あっ」」


 袋を受け取ろうとしたら相葉さんの手に触れてしまった。なんだよこの反応、童貞じゃあるまいし。いや、普通に童貞だったわ。だけど、これは小恥ずかしい。恋愛小説だとか、恋愛漫画でよくありそうなシチュエーションだけど現実で起こったらそれ以上の恥ずかしさがある。それにそれが僕の好きな子だって言うんだから尚更だ。


 取り敢えず公然わいせつで警察呼ばれんのかな……


 それにこんなに可愛い子と、このような事になっているのも、BBQで同じ班になるというのを考えたら、少しでも早く睨まれている理由を知らなければいけない。


(知らず知らずのうちに僕が何か悪いことをやっていたのかもしれないし)


 取り敢えず今日はもう帰ろう……




――夏海 side――


 今日はこの書店でバイトを始めて2日目です。とはいっても夏休みが終わるまでの間だけですが。それなりには飲みこみが早いほうなので仕事の内容に関しては昨日の時点で、すでに慣れていたので、あとは間違えないように丁寧に仕事をしていくだけです。


 それにしてもこの時間帯は昨日もそうだったように混んでくるのでしょうか。


 少しでも速く、それでも丁寧に列を捌いていると、知っている人がいました。その人とは高見君の事なのですが、運が良いのか悪いのか私の担当になりました。知っている人が担当になったことでつい動揺してしまい、手が動かなくなってしまいました。


 そうしていたら先輩に怒られてしまいました……


 あまり高見君のことは気にしないでさっきまでと同じように仕事をしていくことにしようかと思います。


 それからいつも通り、とはいっても2日目ですが、レジ打ちをして商品を渡すところまでは何とかいきました。それにしても、英語の検定の参考書ですか…… 私ももうそろそろ受けなければいけないですね……


 そんなことを考えていて、今までの接客での事を忘れていました。


 私が商品の入った袋を渡すときに高見君と手が触れてしまいました。


 そうすると互いに固まってしまったので長い時間手が触れてしまうこととなりました。高見君はいまだに気が付いていないようですが、この前に助けられたこともあったので私としてはかなり恥ずかしいです……


 この気持ち、いったい何なんでしょうか?

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