先輩は毒舌

 テストが終わって1週間ほどが経った。そして今誠也は、学校のグラウンドにいる。1学期の授業はテスト前に完全に終わっているので登校もない。それならどうしてグラウンドにいるのかというと部活動に出ているからだ。この広いグラウンドの陰になる建物は1つもないので、とてつもなく暑い。


(どうしてこういう時に限って雨は降らないんだろう。まぁ、降ったら降ったで文句は言うけど)


 それにしてもこの炎天下で5㎞も走っている長距離の奴らは一体どういう体をしているんだ。

(え? いまマネージャー10㎞って言った? 聞き間違えてた。5㎞なんてレベルじゃなかったし……)


「高見はなにしてんの?」


「いや、長距離やべぇなって思っていただけっす」


「あぁ。それはアイツら人間じゃねぇから」


(この人ナチュラルにひどい事をいうな……)

 この人は部活の先輩の大本さんだ。短距離で全国大会に行くほどの実力の持ち主だったりする。でもこの人筋肉で空気抵抗が大きそうに見えるんだが……


 実際に誠也は考え事をしていた。先週の月曜日に登校して以来夏海が鬼の形相で睨んでくるのだ。それは朝学校に行ってから、授業中、休み時間、放課後に至るまで。極め付きにテスト中まで。……いや、テスト中はだめだろうが。


 それだけだったら何の問題はない。ただ、中学のあの事件と比べて印象はかなり異なるが……


 問題は来週末に行われる予定のBBQだ。くじ引きで班を決めた結果、僕と相葉さん、そして話したこともない人が男女で1人ずつ。


(絶対に気まずくなる……)


「大本さんは去年のBBQどうでしたか?」


「ん? 楽しかったし美味かったよ。肉は焦げたのばかり食わさせられたけどな」


 笑いながらそういう大本さん。去年、一体何があったのだろう…… いや、ほんと何で笑えるの?


「で、そんなこと聞くってことは高見の班はハズレか」


「そうなんですよねぇ。話したことがないのが2人に、最近めっちゃ睨んでくる人もいるんすよ」


(本当に相葉さんはどうして僕の事を睨んでくるのだろうか。待ち遠しかったBBQがこないで欲しいと思えてくる……)


「まぁ、なんていうか頑張れよ」


「どうやって……」


「お前もなんか大変だな…… いつもバカっぽいのにな。 さてと、練習の続きやろう!」


「うす…… え?」


(え? いまナチュラルにディスられたのだが!? やっぱり大本さんって毒舌だな……)


(というか、僕はどうしてここまで悩んでいたんだっけ? あぁ、そうだ。相葉さんが最近、睨んでくることだ。)


例えばそれは図書室にレポートで参考資料にした本を返しに行った時だ。




「すいませーん。これ返却で」


「あ、分かりました。生徒証を確認するので提示してください」


 そう図書委員の女子生徒に言われたので定期券と一緒に入れている生徒証を渡した。

この学校では図書館で本を借りるときには生徒証を見せることになっている。


「はい。確認しました」


「ありがとうございます」


 生徒証にあるバーコードを読み取るだけで手続きは終わり、後輩の高校1年生かと思われる女子生徒から生徒証を受け取ろうとしたときだった。


「「あ……」」


 誠也とその子の手が触れてしまった。


 ラブコメでよくありそうな出来事だったのだが、相手の後輩の子は、恥ずかしかったのか顔を赤くして、「あ……」と言ったきり口を開けたままだ。


 ラノベ等を読んでいても、そんな恥ずかしくないだろうと、高を括っていたのだけど、これはかなり恥ずかしい。実際に起こると、恥ずかしさというよりかは気まずさの方が大きいのかもしれないが。誠也はとりあえずこの状況を続けるのは何かいけないとは思った。


「あ、ありがとうございました」


「い、いえ……」


 なんとかひねり出した言葉は「ありがとう」との一言だけだった。


(完全に今の僕キモかったじゃん)


 誠也は取り敢えず、ここから直ぐに出ようと思ったのだが、『そういえば図書室にラノベっておいているのかな』という好奇心が沸いたので、少しだけ図書室の中を探すことにした。


 そう思って誠也が本棚が多い場所に足を向けた時だった。


(本棚の陰になんかいるし……)


(体が隠れているけど、あれは完全に相葉さんだ。見境なく僕の事を睨んできていることといい、綺麗な小豆色の髪の毛の持ち主と言えば、相葉さんしかありえない)


「なにしてんの?」


 取り敢えず誠也は近づいて、そう聞いてみた。


「いいえ、別に私が何をしようが私の勝手ですよね?」


「いや、僕の事に睨んでたよね?」


「それは高見君の勝手な思い違いでしょう?」


「いや、今日だけでなくて、前々から」


「そ、それは仕方がないでしょう!? ……だって高見君が気付いてくれないんですから……」


 最後のほうは聞こえなかったけど、取り敢えず……


「何が仕方ないんだよ……」


(それにしても、どうしてここ1週間以上の間、睨まれ続けているのだろうか…… なにか僕が悪いことをしたのかと思ってしまうが、そんな覚えは一切ない。と思う……)


 これでテスト後のBBQはどうすればいいんだろう…… 相葉さんと同じ班になれたことは、僕からすれば嬉しいことだったのだが、この状況が続くとなると誠也の精神的にかなり厳しいことになる。




 前にも言った通り、テストも終わって登校することが減った夏のある日。僕は通学路の途中にあるアニメショップに来ていた。


(こういう時に、定期って本当に便利。用途は完全に違うんだろうけど……)


 アニメショップには大本さんと一緒に来ていた。陽キャでアニメといったサブカルチャーには興味がなさそうな気もするが、かなり業が深い人だ。何なら僕のほうが引いてしまうくらいに。


 取り敢えず2人のお目当てのグッズやラノベを買った後、適当なことを話しながら店の中を適当に回る。


「高2って明後日BBQか。マジで羨ましいわ。俺も肉を食いたかった。焦げてないやつな」


「だから去年何があったんですか……」


「まぁ、色々あったんだよ。高見は俺みたいになんなよ」


「その辺は安心してください。テンションが上がりすぎて食材を落としてしまうなんてことはしないんで」


「おまっ、なんでそれを知ってんだ……」


「普通にSNSのストーリーに上がってました」


「これだからSNSは嫌いなんだよ……」


(バリバリにやってるくせに何を言っているんだこの人は)


 それよりも『あの事』をちゃんと話しておこうかな。すでに適当に流されてもいるから、言ってみるか悩んでしまう……


「そういえば、『あの女子』はどうなったんだ?」


 話してみようかと考えているうちに大本さんの方から話を振ってきた。


「え?」


「ほら、あの睨んでくるとか言ってたじゃん。 あれ、どうせ女子の事だろ。まぁ何とかなるんだろうけどな」


 よくあることではあるのだが、大本さんは時々察しが良くなることがある。そこのところは、部長をやっているうえで自分自身で活躍しているだけある。


 まぁ、相談だけはしてみようかな……

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