友達カップルはバカップル

昨日とは打って変わり梅雨の時期らしく雨が降っている。とは言っても、しとしとと降るというレベルなのだが。


 それでもこういう日は湿気もひどくなり駅の地下道も蒸しているから嫌いだ。こういう時は早く梅雨あけないかな。そう思ってしまうのが当たり前だろう。


「誠也、おっはー! 昨日は助かったわ!」


 背中を叩かれながら挨拶をしてきた。昨日誠也が助けたのと言えばあのキーホルダーの女性と問題集の答えを送った太一くらいだ。もちろんあの女性が話しかけてくるわけがないので、必然的に話しかけてきたのは太一だとわかる。


「太一か。おはよ。 っていうか痛いから叩くなって言ってるだろ」


「ごめんって。あ、あれって冬じゃん。 呼んでいいか?」


「ダメって言っても呼ぶだろ」


「さすが。良く分かってるじゃん。ってことで冬―!」


 冬とは太一の彼女の名前だ。苗字は夏川。彼女本人の名前とは全くの逆だという……


 そんな彼女は太一が呼ぶとこちらを振り返ってきた。


 彼女はその冬という名前にふさわしい白色の髪の毛を持っている。そう言うと白髪みたいでおばあちゃんみたいに感じるからやめて。と本人は不満げに言うのだが…… そんな綺麗な髪の毛に似合う青色の目も彼女の魅力を際立たせている。


「あ、太ちゃんおっはー! セイヤンもおっはー!」


 見た目で言えばおしとやかに見えるが、さすがは太一の彼女といったところか、活発的なほうであり、誠也も初対面で『セイヤン』と呼ばれるようになった。


「おはよう、夏川。じゃあ僕は邪魔しちゃ悪いから、先に行ってるから」


「「気にしなくていいから」」


 2人とも顔を赤くしてそう言ってきた。実はこの2人付き合い始めて2週間程しか経っていない。そのおかげか学年の中では、いまだに冷やかされている。


「なんか、冷やかされるのも慣れてきたかもしんないな~ いまいち刺激が足りないんだよね~」


「それでいいんじゃないの…… っていうかそういうのは彼氏さんに頼んだら?」


「太ちゃんはそういうのまだ慣れていないから」


 意外と太一は小心者な部分がある。むしろそれが親近感を沸かせて、いろんな人とすぐに仲良くなれるので悪いことではないけど。


 まぁ、授業中は堂々とスマホを使って没収されているから、ビビることとそうでないことの境目が良く分からないけど……


「そういえばさ、今日ってBBQの班を決めるんだよね?」


「そういえば昨日、担任が言ってたな」


「太ちゃんを同じ班になれたらいいね!」


「そうだな! 冬!」


「「ねぇー!!」」


(何、このバカップル…… 見ているだけで疲れてきちゃうんだけど)


 ちなみにBBQとは読んで字の如くバーベキューの事だ。誠也たちの通う学校では高校2年生が近くの自然公園に行ってBBQをするというものである。ちなみに班分けはクラスごとで行われる。


 そして、太一は僕と同じクラスの3組で、夏川は4組。どうあがいても同じ班になることはない。そのことはさすがのテストの順位を下から数えたほうが早い2人でも分かっているはずだ。テストの事に関しては、僕も強くは言えないけど……


 にしても、これはツッコミ待ちっていうことでいいのかな


「2人は違うクラスだから同じ班はないでしょ」


「それは誠也が何とかしてくれるから、大丈夫だろ」


(一体、僕は何をどうすればいいんだろうか……)


(2人があまりにもこっちをチラチラと見てくるからツッコミを入れてしまったけど、こう何回もボケをかまされたら流石に疲れてしまう)


「黙ってテスト勉強してろよ、このバカップル」


「さすがのセイヤンも口が悪くなってきたな~」


「冬、安心しろ。コイツのこの反応は恥ずかしがっているだけだから」


「なにキメ顔で言ってんの? 張り倒すよ? いや張り倒すね?」


 そんなくだらない会話をしているうちに学校へと着いた。校門をくぐり校舎に入っても、雨が降っていたせいなのかジメジメとしていて、足元も濡れている。革靴だとコケそうで、これが絶妙に怖いんだよね……


「誠也?」


 それにしても雨の日の学校ってどうしてこんなに憂鬱になるんだろう。5月病を乗り越えても、この時期があるのは流石に文句を言いたくなる。誰に言うのかは置いといて。


「誠也? ねぇ聞いてる?」


 それにテストもあるから本当に辛い。そのテストが終わった後にBBQがあるとしても、勉強をしなければいけないのは変わらないんだよなぁ。


 さすがに中学の時よりかは危機感を覚えているから、テスト前に勉強をしなければいけない。それでも誠也が普段勉強をしていないくせにテスト順位では学年の真ん中に位置しているから友人からは奇跡と呼ばれていたりもする。


「おい、誠也? マジでどうした?」


 そんな奇跡が起こるくらいなら梅雨がなくなったりしたらいいのに……


「誠也? 分かっていて無視してるよな」


「うるさいな。聞こえているから」


「じゃあ何か反応を返してくれない!?」


「それほどの価値が太ちゃんに無いってことじゃん?」


「「冬(夏川)ひどくないか……」


「それじゃあ、私こっちだから。太ちゃん、またお昼にね!」


 女子の黒い部分を垣間みたところで夏川とは別れた。この学校は校舎の中心に会談がある。ちょうど1組と2組、3組と4組で分かれているから必然と夏川と別れることになる。


 それからロッカーで靴を履き替えて傘立てに傘をしまった後に教室はいる。そうすると誠也と太一に気づいたクラスメイトが挨拶をしてきた。それまではいつも通りの事なのだけど……


(いや、なんで相葉さんが睨んできているの……?)


 相葉さんと言えば中3の時に僕に弁当を分けてくれた人だ。本当にそれだけの関わりで、先週何かがあったわけではないはずだ。それでどうして睨まれているんだよ……


「なぁ誠也、なんで相葉はこっちを睨んでるの? 普通に怖いんだけど。さっきの冬の事といい。女子ってなんなの? 怖すぎないか?」


「女子がどうなのかは、どうでもいい。だけど相葉さんが睨んでいるのは僕が聞きたいくらいなんだけど」


「まぁそういう日なんだろうか。俺も冬がああいうかんじの日にダル絡みしたらガチで怒られたし」


「付き合って2週間で何してんの……」


そもそも、2週間で学年が認めるバカップルになるっていうのがおかしいんだけど。


 結局相葉さんが睨んできている理由は分からず誠也は自分の席に座ることにした。




(そういや、僕の席って相葉さんの隣じゃねぇかよ……)

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