お弁当事件

「きゃっ」


 またやらかしてしまいました…… 公共の場で顔からダイブなんていつぶりでしょうか……


 私からしたらよくあることですけどやっぱり痛いことはなれません。そう思っていたら「あのー、大丈夫ですか?」と聞かれました。


 顔を上げると私と同じクラスの高見君がいました。え? どうして高見君がここにいるのです!? 自分のことを知っている人にこんな姿は見られなくなかったのですが……


 それよりも急いでバッグから散らばったものを拾わないとほかの人の迷惑になってしまいます。そう思ってメーク道具を入れたポーチを拾おうとしたのですが、手が滑ってうまく拾えません。高見君はそのことに気が付いていないようですので助かりましたが……


 あぁ! どうして拾えないんですか! どうして布製のポーチが手から零れ落ちるんですか!? そんなこともありながらどうにか散らばった ものを拾え終えて顔を上げると高見君が私の事を見つめていました。


 どうしたのでしょうか? 資料にする本を拾ってもらうときにお礼は言ったはずなのですが。ちなみにお礼を言ったときには声が大きいを言われてしまいました……


 それにしてもどうして高見君は私の事を見つめてくるのでしょうか? あっ! もしかしたら怒っているのでしょうか? 気になったので恐る恐る聞いてみたのですが「なんでもない」とのこと。なんだか逆に気になってしまいます……


「これは全部学校のレポートに使う資料です。課題を出されたときに学校の図書室が使えなかったので」


 高見君が本の表紙を見ながら不思議そうな顔をしていたので説明してあげました。表情を読んで先に言いました。ふふん♪ やってやりましたよ♪


 それでも高見君は本を見ながらなのですが険しそうな顔をしています。ドジな私に怒っているのでしょうか…… 


「あぁ、ごめんなさい! 引き留めってしまって。本当にありがとうございました」


 さすがにこれ以上お時間を使わせるわけにはいきません。私はお礼を言いこの場を離れるようにしました。


 それにしても高見君は最後まで私の事に気が付いていないようでした。学校と普段の私では見た目も雰囲気もかなり違うので無理はないのですが…… あんなことがあったというのに……




 中学、突然教室のドアが音を立てて開けられたのにはとても驚きました。その日は良く晴れた冬の日でした。日差しが強くて私の髪の毛がもろにあたっていました。


 普段開かれることのないその扉を開けたのは誰なのでしょうか? そう疑問に思って顔を上げてみると当時も同じクラスだった高見君がいました。ここは素直に聞いてみることにしましょう。そう思っていったのですが冷たい言い方になってしまっていたのを今でも覚えています。


 私は昔から人付き合いが上手とはいえなくて、私の思いがけない一言で相手の機嫌を損ねることも多々ありました。


 そんな私の冷たい言い方を空き教室で2人で過ごす事への拒絶と捉えたのかもしれません。高見君が教室から出ようとしました。このままじゃいつまでたっても友達などできるわけがない。常々そう思っていたので何とか高見君を引き留めました。


 自分で言うことではないですが、それさえも冷たい言い方になってしまうのにはさすがにどうなのかとは思いますが……


 それから高見君は私が座っている近くの椅子に座りました。とはいってもこの教室には4つしか椅子がないのですが…… 少しでも距離を空けようと高見君が気遣ってくれたのでしょう。私がお弁当を置いている少し大きめの机の対角線上の位置をとった高見君はそのまま座ってライトノベルを取り出しました。


 ふだんクラスでは常に周りと話したりしていて、私も何か言われたりするのだろうかと内心ビクビクしていたのでなんだか拍子抜けしました。


 それから私はいつも通りに昼食をとっていると視線を感じます。それはまるで血に飢えたライオンのような。そういうのが妥当でしょう。とどのつまり私は高見君からしたら獲物の1つに過ぎないのでしょう……


 そんなことを考えていたら……


グー―


 そんな音が鳴った時には自分の耳を疑いましたけど…… そんな可愛らしいおとが鳴り響きました。思わず顔を上げると高見君が私のほうを見つめていました。


 正確にいえば私のお弁当を、なのですが。


「どうした?」


 高見君はそう言って今の事をはぐらかそうとしました。さすがに笑いを堪えるられなくて少し笑ってしまったかもしれません。高見君がかわいそうなので普段使うことのない表情筋に全力で力を込めて笑わないようにしました。


 それから少しの沈黙があったのですが私のほうがいたたまれなくなってしまい昼食をどうしたのか聞きました。


「お昼ご飯たべていないのですか? それなら私のを食べますか? 私も多く作りすぎてしまったので」


 本当は食べたのかどうかだけを聞くつもりだったのですが私としたことが余計なことまで言ってしまいました!


 さすがにこれには高見君のほうが断るのだろうと思ったのですがどうやら高見君は私の手作りのお弁当を食べるそうです。 ……? それって私のお弁当を食べるっていうことでしょうか!?


 何だかどこかの政治家の人の話し方見たくなってしまいましたが、私はなんて軽率なのでしょう! 同級生の異性に食べられることは万が一にも考えていなかったのでどうすればいいのか……


 やっぱり男の子なのですからお肉から食べてもらうのでしょうか…… それだと会心の出来のハンバーグを上げることになってしまいます……


 ここはバレない程度に分けることにしましょう。そうすれば高見君に気づかれることもなく私は食べたい分だけ食べられるはずです……


 自然な流れとしぐさを意識してハンバーグを取り分けてそれを高見君の前に突き出すと、どうしてか高見君が硬直してしまいました。


 それから何度か高見君が瞬きをした後に「え?」とだけ言いました。それにしてもなんだか気恥ずかしいですね…… それに腕がかなり疲れてきました。日頃の運動不足がたたってしまったのでしょう……


 私がそれを伝えるように言うと高見君は謝ってから食べようと口を近づけてきました。それから高見君は「あーん」と言いながらハンバーグを食べようとしました。


「声には出さなくていいです」


 思わずつっこんでしまいました…… それから高見君は「おいしい」と言ってくれました。それに関してはとても嬉しかったです。


 これが私と高見君との間に起こった2年前の出来事です。


 それとあの日の放課後、家で1人で自分のやったことの意味に気づいて悶えていたのですがそれはまた別の話です。


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