13. 武技競戦 予選1日目 魔物の再来
「やっと解放されたよ……あの人、僕のこと暇つぶし相手としか考えていないだろうからなぁ…」
うーん、と隆伊は両腕を上げ伸びをする。
「キャアアアアアアアアーーー!!!!」
「なんだ!?」
隆伊の向かう方向とは少し逸れた方向から女子の悲鳴が隆伊の耳を撃ち抜く。悲鳴からは音だけではなく、駆る焦燥、怯える恐怖も運んできた。何か
(―間に合うと良いが……)
「なんだ、あれは……」
隆伊の目に飛び込んできたものは異様な形をした
朽ちた葉の色の体表をしていて、短い脚に少し背中寄りから伸びている長い腕。腹部は膨れ上がっていて今にもはちきれそうである。首は頭部と一体になっているようだが、顔らしいものが見当たらないため、どこを見ているのかが皆目検討もつかない。
また、その背後には一人の白装束のおそらく男、(―背丈的には子供‥だろうか…)もいた。こちらもフードを深く被っているため顔を確認できない。
「"
隆伊は青の鞘から刀を抜き、怪物に風魔法を行使する。
(ちなみに風魔法に薄く緑色が見えてしまうのは【風刃】の効果範囲、つまり鎌鼬を形成するために局所的に
"
"
(―見たことのない、動物‥?魔物、だな。今の感じだと脆そうだけど…)
隆伊は抜かりなく基礎付与魔法(身体強化)、防護魔法を発動させておく。
だが
「なっ!!」
張られた結界は隔絶系のようで、ヴェーランは通話不能となり、外部からは結界の内部は不可視となる。隆伊もヴェーランが反応しないことを考えて、それを理解した。
隆伊はもう一度【風刃】を放ち、怪物の気を引いた。その隙に怪物の前に回り込み、腰を抜かしていた女子生徒を保護する。
(―怪我はしていないようだが、この様子だとまともに走れそうにもないな……)
それは恐怖の眼であった。怯えの震えが隆伊の服の袖を掴んでいた手から伝わってきた。
「君、怪我はないかい?とりあえず、この結界の外に逃げるんだ」
「は、はい……」
女子生徒の声は震え上がっていた。立つことさえ叶わず、匍匐前進の状態で結界の外を目指す。
隆伊はその様子を後目で気にかけながら、侵入者の方を
「魔法公学校学生会執行、
隆伊は自分の左上腕に学生会と書かれた腕章を着けた。本来ならばヴェーランなどで本部に連絡をするものなのだが、現在、通信不能である。それでも律儀に宣言するのは隆伊らしいところである。
「お前らは何者だ!!おとなしく投降すれば危害は与えない」
隆伊は抜刀し、切っ先を怪物の後ろにいる男に向ける。
「ーーーーッ!!」
しかし返ってきたものは言葉ではなかった。怪物の腕が伸び、瞬間的に隆伊に届く。隆伊は刀で切り捨てようとするが、先ほどとは違い、切創はおろか、擦り傷一つ付けられない。生物らしくない、まるで金属のようであった。
(―か、硬い!!それよりもさっき斬った腕が再生しているッ!?)
そのまま伸びてくる腕は刀と擦れながら火花を散らした。襲う鉄塊の腕は隆伊の腹部に直撃した。避けようと思えば避けられはしたが、後ろにはまだ女子生徒がいるため避けなかったのだ。
「う゛ッ!」
防護魔法、身体強化はしていたがそれでもダメージは軽くはなく、堪えきれずに片膝をつく。それよって懐に隠してあった焦げた魔道具を落としてしまう。
「ああ、貴殿が拾ってくれたのか。それは我々の
白装束は気がつけば隆伊の目の前に立っていた。身体を覆っていた白いマントがこの男の移動に遅れて翻った。魔道具を拾い上げる。背丈は片膝立ちをしている隆伊より少し高いくらいであった。
(―いつの間に……!?)
隆伊は白装束の男が自分の間合いに入っていたことに一切気が付けなかった。これにより今、対峙している相手が自分とは完全に別次元の魔法師であることが明々白々となる。
隆伊は神速の剣を振った。牽制ではなく、仕留めの一撃であった。しかし白装束は一瞬、という言葉では
(―瞬間移動ってやつか…?‥冗談きついな、、)
冷や汗が垂れる。鼓動も速まった。眼前の敵はいくら自分が刀を振っても、その刃は届くことはない。今のところは攻撃はしてこないが、相手がその気になれば自分なんて簡単に殺してしまうであろう。
隆伊は魔力量が決して大きくないため、その分を魔法発動の速さ(術式速度)、自身の動作の素早さ、戦術、つまり頭脳でその分を補ってきた。故に学生会にも学力のみならず、その戦闘力も買われ抜擢されている。しかし今、対処しなければならない相手はその武器である「速さ」が全く通用しない。
現在の魔法師同士の戦闘では、魔法特殊性、術式展開速度(魔法発動速度)、作戦力、魔力量、術者の武技、の5つの観点から評価する。特に術式展開速度は魔力量より重要視される観点である。昔は魔法特殊性が最も重要視されていたが。これは強力な魔法を待機させていても、先制されてしまえば勝つことはできないということである。
その点で、隆伊は術式速度が他の魔法師より著しく速く、先制攻撃が可能であった。しかしこの度の相手はそれが完全に通じない。残る要素、知略でどうこうできる次元の相手ではなかった。隆伊にはいつの日か学んだとある戦略理論が脳内によぎった。
それは戦争に於いて魔法が常套手段とされ始めた時代の理論で、自軍の兵力を数値化したとき、兵士数が1増えるごとに1増え、その数に比例し、魔法師が1増えれば、1増え、2増えれば4増え、と魔法師数の2乗に比例する理論であった。次第にこの理論も複雑化されていったが、現代ではこの理論は通用しない。それは圧倒的に強力な魔法師が登場し始めたからである。数百、数千、時には数万の兵力をも覆してしまうような魔法師が台頭し始めた。その魔法師を斃すのに普通の兵士を何百人、何千人出陣させたところで意味はない。既に魔法戦争において、数は物を言わないのだ。
それと同じように隆伊は自分が束になってかかってもこの白装束の男には勝てないことに分かっていた。実力があるが故に解る、圧倒的実力差。果たしてこの学校にこの白装束とまともに交戦できるものはいるのだろうか。本当に零月家クラスではないと対処はできないであろう。もう活路はなかった。隆伊は生まれて初めて死を覚悟した。
「すまないが、その魔道具は学生会が引き取ることになっている。こちらに渡してくれないか?」
声を発すたび、自分の喉が繋がっているかを確認した。冷や汗が止まらない。心臓が太鼓になっていた。知らなかった恐怖。しかし同時にその恐怖がまだ生きていることの証明でもあった。おそらく向こうにも隆伊の虚勢は悟られているだろう。しかし隆伊は学生会である矜持は必死に保とうとした。
「申し訳ないが、それは承諾し兼ねる。これは我々の魔道具である。‥ああ。まだ名乗っていなかったな。我は東部アクリージョン、いや、改聖教第2使徒、ハクライと名乗ったほうが
(―改聖教‥第2使徒!!?………)
更に瞬間移動によってフードが浅くなり、白装束の中身が見えた。そして中の男が両目を布で覆っていることを確認した、してしまった。それが確信へと変わる
隆伊には「使徒」と呼ばれる存在に聞き覚えがあった。改聖教はそもそも国際指名手配されている団体で国によっては巨額の賞金が掛けられている。その国際指名手配犯の中には「絶対に戦ってはならない」と言われている、
しかも、第2使徒ハクライといえば、数年前にシャレル・ト・ルエル敬大帝国の二番目に重要な要塞と言われていたルキエラの要塞をたった一人で陥落させ、当時の大帝騎士団副団長を討ち取っている。それは後に『ルキエラの陥落』と呼ばれる大事件となった。従ってシャレル・ト・ルエル敬大帝国ではハクライに対し、働かなくても一生困らないような巨額の懸賞金を掛けている。
また、その戦闘時に
ただハクライは他の使徒より残虐性が低いとも言われていて、戦う意志を見せず、命乞いや降伏をする相手は見逃すことが多いという情報も多く、また容姿が子供であるので「白の天使」とも呼ばれている。そもそもハクライは襲撃者なのだから「天使」と呼ぶのはおかしいのであるが。
その時に、学校を一度目の轟音が襲った。
「何だッ‥!?」
ハクライは黙ったままで一度結界の外の空を向く。隆伊のことは眼中にもないようである。
「ーーー。
「お、おい……」
「待て」と隆伊は云いかけたが、このまま学外に去ってもらうほうが好ましいと考え言葉を引っ込める。しかしその考えに整合性が取れていないことにも同時に気がついていた。そもそもハクライが学外に退却するとも限らず、学内に逗留されてしまえば状況は悪化する。問題のある可能性は留めなく思い浮かんでしまう。だが、そのようなことを考える暇もない。
「この怪物も一緒に連れ帰ってくれたら嬉しかったのだけどな…」
刀の切っ先を怪物に向けた。
「"
魔法を放とうとしたとき、怪物の右腕が
(―さっきより格段に速いッ!!!)
が、さらに上から追撃の鞭を食らってしまう。隆伊は一瞬気を失いかけたが堪え、
「最初の鈍さは一体どこへ行ったんだ?」
一度隆伊は距離を取った。そして魔力を絞るように体の芯に集めていく。
「"ケイン"!!」
微風が渦巻き始め、それはすぐに牙を剥き怪物を取り囲みながら強力な旋風となる。地面に敷き詰めてあった石畳を粉砕し、巻き上げ砂嵐となった。その回転速度によって雷も付随し始める。
「ハアアアアアアアアアアアア!!!!」
隆伊は声を上げた。顔が
(―まずい、もう魔力が尽きる……)
一瞬竜巻が緩んだ時、その内側から槍状の物が突き抜け、隆伊の腹部を貫通する。
「う゛ッ‥!!」
魔法は解かれ、隆伊は後方に
「くそっ、"エンッ、ぐはぁっ……」
吐血する。目の前には血の池ができていた。立つこともままならなくなる。すでに隆伊の出血量も魔力消費量も命を脅かすほどになっていた。感覚が麻痺し始め、視界は歪み、意識が薄弱になる。
それでも怪物は容赦なく、その「腕」で縄のように隆伊を締め上げた。
「ぐ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
痛みに顔を歪める。叫んだ所為で激しく吐血する。魔力は尽き、防護魔法すら解けてしまう。掌握力はどんどん強まっていく。隆伊は必死に足掻くがもう殆ど身体が反応していなかった。そしてとうとう隆伊の肋骨が砕ける。最後に大量の吐血とともに気が一気に遠くなる。
その時、隆伊は拘束が解かれた気がしたが絶命したのだろうと解した……
◇
「何はともあれ、お前が元気になってくれてよかったよ」
「それ、君には言われたくないよ…」
呆れ顔で返した。カインも「確かに」と言って笑顔を返した。そしてレイは一度前方の空を見る。
「まあ、うん。心の整理はできたよ。この武技競戦、僕は
「へぇ…そいつはぁ楽しみだな!」
カインに驚きはなかった。根拠はないのだがレイなら優勝できると不思議な確信のようなものがあった。レイには自分も他の生徒も持っていない、何か特別素晴らしい物がある、という意識があった。それはずば抜けた学力でも精錬された体術でもない、具体性がない何か。いつも一緒にいることで感じることのできたもの。
「あ、そういえばまだ言ってなかったや。伊那、予選突破おめでとう!」
「あ、俺もだ。おめでとさんっ!」
「え?あ、うん。ありがとう」
「伊那選手、本戦への意気込みをどうぞ」
カインは急に記者のような口ぶりになる。
「ええ、まあ頑張りたいと思います…」
「やはり目標は優勝ですかね?」
「いや〜、そう言いたいところですけど、現実的には初戦突破ですかね‥‥ってなんなのよ」
「だって俺、出れねぇし……」
カインは俯く。気分の乱高下である。どんまい、と
「お前に励まされるほど、廃ってないわ!!俺は漢だ!!こんなことで落ち込まぬ!」
「はぁ?さっき泣いてたくせに!!」
「うぐっ!!な、泣いてなんかないやい!!汗だよ、汗!!」
「目撃者は二人いるのよ?」
二人はレイの方を向いた。カインは謎の瞬きをしてレイに目配せをしている。果たして伝わっているのだろうか。しかしレイは二人のどちらにも反応を示さなかった。
「レイ?」
レイの目は何かを
「伊那、身体強化と防護魔法を。カインは誰か先生を呼んできて」
レイは淡々と簡潔に伝えた。さらに左手に手袋をはめた。
「「え?」」
二人の声がハモる。その疑問符が届く前にレイは前方に飛燕のごとく駆け出していた。
「あいつ、いきなりどこに行くのよ‥。というかあれで身体強化すらなしって、速すぎない?」
「な。さっきもだけど、あいつの脚力とんでもねぇよ。それよりその前に状況が全然掴めてねぇんだが…」
レイは入学式と同じような違和感を今度は明確に感じ取っていた。前方には異常な何かが
レイは途中で持っていた魔石を結界の境界面に投げ込む。魔石が異常なく通過するのを走りながら確認する。不思議と結界の境界面も察知できていた。
思えばこれが
「突入しても大丈夫そうだね」
そして結界に突入する。その途端、境界面に沿って一様な紫の電光が走り、結界が消失してゆく。
それによって取り残された二人にも状況が視覚的に伝わり、その場で硬直してしまう。
「え…‥?な、なによあれ‥」
「ひ、と……じゃないよな‥?魔、魔物‥なのか…?なんだあの形」
槭樹ははっと我に返り、身体強化をし、レイの方へ向った。
「七里!あんたも誰か呼びに行きなさい!」
「‥あ、ああ…。」
カインも我を取り戻す。
(―レイのやつ、あれを見て突撃したのか……俺には………絶対に‥できない。。)
カインは手持ち無沙汰な右手を強く握りしめた。
レイは結界内に入り、怪物と隆伊を確認し、目の前に落ちていた刀を拾い上げる。その刀で隆伊に巻き付いている異形の触手のような腕の一番細い部分を強引に引き斬る。落下してくる隆伊をキャッチし、そのまま結界の縁であったところに
「
槭樹も駆けつけたきた。
レイは巻き付いていた腕の残骸を隆伊から引き剥がし、槭樹に託した。
「伊那、この人を頼む」
「あんたは!」
「僕はこの生き物を足止めをする」
「え?‥わ、わかったわ。でも危なくなったら
「解ってる」
(―おそらく刀はまともな対抗手段にならないだろうな。刀の状態とこの生き物の状態を見る限り、本体は斬ることはできない。それに床が削られているところを見ると、多分これは先輩の魔法だ。てことは外部からはほとんど攻撃は通じないと考えたほうがいいな。僕を認識できているようだから眼はあるのだろうけど、どこにあるかは判らないな。口も見当たらないし…)
怪物は標的をレイに移したようで、隆伊のとき同様、捕縛しようとする。しかし速さはレイのほうが上であった。襲いかかる伸びる腕を避けながら、異形の裏に廻り、左手で怪物に触れる。
「"
稲妻が大剣のように異形を貫く。雷鳴が稲妻に一瞬遅れて校内に響く。
「ちょ、ちょ、何?あいつ魔法使えるの!?」
隆伊を止血中の槭樹も一瞬手が止まった。その稲妻はレイが放ったものであった。稲妻は石畳を焼き焦がしていた。それでも異形の攻撃は止むことはなかった。
「効果なしか…」
レイは一度距離を取る。
「伊那ぁ!!いますぐ離れてくれ!」
「え?ああ、うん。とりあえず止血は終わったところだからもう離れるわ」
異形はしつこく鞭打つようにレイを狙うが、一向に直撃しない。その間に斬り捨てたはずの腕がまた生えていることに気がついた。
(―再生…してるな‥。なら、爆破するのは得策じゃなさそうだ。どうするか…)
レイは攻撃を宙返りして避け、小袋を投げつける。袋からは何かのとても細かい粉末が飛散する。そこに火の付いた棒を投げ込む。
「伏せて!!!」
レイは投げた瞬間に一気に離れ、ローブで自分を覆うように身構える。伏せずに戦闘態勢は崩さない。
そして火が飛散物に着火した。
怪物は紅く燃え上がり、黒煙が立ち上る。煙の中から出てきたものは真っ黒に炭化した怪物が現れる。爆破ではなく燃焼したのだ。
「らああああああああ!!!」
レイは高く飛び上がり上段で斬りかかる。力いっぱい振るった刃は怪物を頭部から真っ二つに……
「…んッ!あれッ!?」
しかし刃は怪物の頭部に軽い切り込みを入れただけで、遠く致命傷には至らない。
(―外皮だけを炭化させたのか!?……刀が抜けなッ!!?)
レイが抜けない刀と格闘している
鞭はレイに直撃し大きく吹き飛ばす。一瞬気を失いかけるが堪え、ひらりとバク宙を二度繰り返し体勢を立て直す。
「わーすごいなぁ‥!!!」
レイがもう一度怪物を視認したとき、怪物からは無数の腕が伸びていた。腹部から背部、頭部から脚部、と所構わず生えだしている。それはもうこの世のものならざる姿であった。
「どうなっているんだ…。それよりあの手、人間の手‥じゃないよね……」
恐怖、というより不安の感情がレイを占領する。
「"黄金華"」
その声の主はレイの後方にいたようだ。
黄金の飴が怪物の足元から流れる水のように閉じ込めていく。瞬刻、怪物をすべて琥珀化する。黄金のダリアが開花し、力強くそこに根付いた。そして金色の花粉がぶわっと舞った。それら一つ一つが光を散乱させ豊麗さが増す。
レイはその魔法に目を奪われていた。強力かつ、麗美。そしていつかの氷の花を想起させた。
花の魔法は強力な"固定効果"があるのは知っていたが、それよりもその美しさに釘付けになって"固定"されてしまうのではないか、とレイは一人で考える。
「やあ。君が
「え?ああ、はい」
レイは後ろを振り向き声の主の方を見上げる。相手は高学年の生徒のようで、レイより一回り、二回り大きかった。その男子生徒はレイをいろいろな角度から観察し始める。「ふむふむ」など言って一人で何かを納得しているようである。
「うん!聞いていた通りの子だね!それより君、怪我しているようだから医務室に行ったほうがいいよ。
「え?」
レイはそのときに頭から流血していることに気がついた。
◇医務室
「とりあえず処置は終わりましたが、試合が終わったあとにもう一度こちらに来てください」
「はい。ありがとうございました」
レイは一礼し、医務室を退室した。
「あんた大丈夫だったの?」
「え?まあ、とりあえずなんともなさそうだけど後でもう一回検査をするって。あ、
「あー、えっとね、とりあえず一命は取り留めたっぽいけど、かなりの重症だから医療棟に運ばれたわ」
「そっか…わっ!?」
レイは飛びかかってきたカインに抱きつかれた。
「よかったぁ!無事でぇ!!!」
「お、大げさだなぁ‥っていうか苦しいよ…」
わりぃわりぃ、とカインはレイを放す。
「それよりお前どんな肝っ玉しているんだ?あんなバケモンに躊躇なく突っ込んでいくなんて」
「それは私も聞きたい。あんたどういう神経しているの?」
「え、いや、まあ、うん。えっと、とりあえず普通じゃなかったから止めないと‥‥と思っただけだよ?」
レイは二人が憤りに近い何かを抱いていることに気がついた。
「そこは逃げるもんだろ?友として忠告するけど、もうこんな真似は絶対にしないでくれよ」
いつものへらへらしているカインはそこにはいなかった。真剣な眼差しがレイに向けられた。
「次は絶対に逃げろよ。レイが独りよがりになっているとは思ってないし、考えなしに突っ込んでいったとは思っていないけど、今回がたまたま運が良かったから軽いけがで済んだだけで、次はただじゃ済まない、いや、死ぬぞ?」
このとき、初めてレイは自分が
「ごめん。僕の思慮が浅かったよ。次からは逃げるよ」
「ん…?ああ。そうしてくれ。お前にはいなくなってほしくない」
カインには「しりょ」を「思慮」という言葉に一致させるのに少し時間を要したようだ。その呆けで若干緊迫させた空気を柔和させてしまうカインをレイは相変わらずだなと思う。
「私も同じ気持ちよ」
伊那にも目を合わせる。レイは知らない何かが充たされた気がした。そして自分の認識を改めねばならないことにも気がついた。
「よし!この話はここまでだ!次の試合もそろそろ始まるしな!」
「あ、そうだね。そろそろ行かないと」
三人は
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