6. 朝の特訓−3
◇ ◇ ◇ ◇
「話は聞いている。第2クラスの連中と揉めたみたいだな。話を聞くからにその件についてはお前らには非はないが、訓練場を水浸しにした件については何かやるべきことがあったろう?お前ら、というよりお前ら2人が一番知っているはずなんだが、この学校に残念ながら魔獣が現れた。これから校内戦もあるしこの学校は注意態勢を敷いている。別に荒らしたこと……」
「お前らは比較的優秀なんだから、−−ってこの前も言ったよな」
「はい。その言葉自体、前にも言ってます」
「お前らが言わせるんだろう。まあいい。とりあえずあの大量の水はお前たちの仕業で間違い無いのだな」
「はい」
「そうか。その事実確認ができれば大丈夫だ。まあとりあえずお前ら二人は訓練場使用禁止だ」
「えぇ!?じゃあ俺らはどこで練習したら良いんだよ、ですか?」
「仕方がないだろう?あんな派手に荒らしてしまったんだから」
「そんなご無体なぁ」
◇ ◇ ◇ ◇
◇ 学生寮 第8棟 3階4号室
「あーあ。まーたカインの
レイは今朝の水圧で割れてしまった石板の魔法陣を描き直していた。真っ白な掌サイズの石板である。
「今回はお前の魔法陣の方が悪いだろ。それよりどうするよ、訓練場出禁になっちゃたじゃないか」
カインは学校の購買で買ってきた菓子を
「そうだねぇ、屋内競技場はどうだろう?」
レイはがちゃがちゃ道具箱を漁っては
カールスは鉛筆のような形をしており、その芯の部分が
ちなみにこの時代、人々が筆記に使う道具は鉛筆ではなく(魔導性)羽ペンである。羽ペンはごく微量の魔力を流すと、羽ペンの先端の魔石から顔料が流れ出る仕組みになっている。鉛筆と違って芯がすり減らないこと、安く入手できること、そして何より庶民程度の魔力量でも扱えるため、現在では鉛筆はほぼ生産されていない。
ちなみにレイの使っているカールスは
「あー選抜試験で使ったところか」
「そうなのかい?じゃあ丁度いいじゃないか」
剣術の選抜試験は屋内
訓練場は下が土であるが、競技場は土足厳禁の畳か木でできている。屋内訓練場、競技場は第1、第2、第3クラス別になっているため今朝のような他クラスとの衝突は避けられるだろう。
また訓練場では魔法や武具を使用しても良いが、競技場は使用できないという違いもある。ただ弓術は競技場で行われることもある。
「でもいいのか?訓練場出禁なのに」
「だって僕らが出禁になったのは屋外訓練場で屋内競技場じゃないだろう?」
「屁理屈なのか正論なのか分からねぇな。でもまぁ、それしかないか」
カインは最後の1枚のクッキーを食べる。
「それより魔法陣ってなんか色々な道具使って描くのな。その沢山あるの陣記具、カールスって言うんだろ」
「うん、そうだよ。物によって用途が異なるんだ。使い捨てとか簡単な魔法陣は大体1〜2種類のカールスで描かれるけど、長期的に使ったり、危級値の高い魔法が描かれていたり、複数の魔法が組み合わさってる複魔法陣とかは何十種類のカールスを使わないと安全性が保証されなかったり発動しなくなったりしちゃうからね。この"
レイは最後に魔法陣の中心に水の魔石の破片を置く。魔法陣の円状に羅列した陣文字は回転し少し発光して、破片は魔法陣に沈むように消える。
「おお、なんだいまの」
「魔法陣の
「なんかおもしろそうだな行くぜ」
二人は寮を出て学校の北の方を流れているセトレ川に向かう。
セトレ川は水がとても綺麗な川として世界的に有名で四大連合国全ての国の領土に流れている。(ここでの連合というのは約80年前に組織された中央大連合のことで世界中央部の四つの大国と複数の小国の国際的連合のことである。世界西部の最大の国、シャレル・ト・ルエル
セトレ川は国際河川で本流は川幅も広いが、魔法公学校に流れている分流は広くても20m程度しか川幅がない。
◇魔法公学校 セトレ川
「林の方は立ち入り禁止になっているんだね」
セトレ川は学校の林の方から流れてきていて学生寮の裏を流れる。
「そりゃ魔獣が出たからな。ま!それを俺らが退治したわけだけどな!」
「いや、あれは
レイは魔法陣を川に浸ける。すると魔法陣を中心に渦巻くように水が入っていく。
ギュルルルルルルル
「おお、なんだそれすごいな!!」
「全部入ったかな−−−よし、大丈夫そうだ」
川から魔法陣を取り出す。魔法陣には水滴一つ付いていなかった。
「どのくらい入っているんだ?」
「うーん、カインの部屋を2、3回くらい水風呂に変えられるよ」
「それ、やるなよ?というかさっきその水量をばら撒いたのか?」
「まさか。一気に全部放出できないように構築してあるから。半分くらいしか出てなかったと思うよ」
「あれ?あんたら何してるの?」
立ち入り禁止のはずの林から聞き覚えのある声がする。
「伊那じゃん、お前そこ立ち入り禁止だぞ」
「そうよ。だから誰も来ないから堂々と魚が釣れるんじゃない」
左手に魚を数匹吊るして歩いてる。レイは
「考え方が典型的な不良だな、お前」
「賢いと言いなさい。あ、あと私が魚釣ってることと林に入っていることは内緒にしなさいよね、自分の身を案じるのなら」
「何か立場が違わないか?まあチクる気もないけどな」
−俺らも似たようなもんだしな、とカインはボソッと呟く。
「でも林は危ないよ?魔獣が出るかもしれないし」
レイは心配からの忠告をする。
「え?学校に?出るわけないでしょ」
「お前聞いてなかったのか?入学式の日に出たんだよ、敷地内に。入学式の次の日に校長先生が校内放送流したし、
「まじで!?全く聞いてなかった。なんで立ち入り禁止なんだろうなって思ってたけど」
「しかも俺が退治したんだぜ、その魔獣」
へへーん、と胸を張るカイン。
「へー、まああんたの戯言は置いといて魚、食べる?魔獣が出るっていうならもう森に入りたくないし。森じゃないと釣れないから食い納めだ」
ほれっ、と魚を胸の前に掲げる。中型の魚で30cmくらいある。
「戯言って何だよ!あー魚?俺はあんまり好きじゃねぇからいいや」
−でも戯言じゃないか。とレイはつっこむ。
「僕は食べてみたいな。僕、実は生まれてから一度も食べたことないんだ魚」
「そうか!なら丁度良い。そろそろ調理したいし男子寮のほうが近いし
「うん、いいよ!」
「それよりあんたら川で何してたのよ」
「ああ、レイの魔法陣の……」
少年二人と少女一人と布に包まれた新鮮な魚数匹が寮に帰っていく。
◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
◇第3クラス屋内競技場
朝の早い頃少年二人は競技室の扉の前に佇んでいた。
「−−鍵…かかってるね…」
「帰るか」
二人は諦念と共に早朝の道を引き返す。
◇ ◇ ◇ ◇
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