3.5. 選抜試験−4

◇魔法公学校 学生寮第8棟 3階4号室



「校内戦出場を祝してぇ……かんぱーい!」

 無邪気な少年二人はジュースの入ったコップをカツンと乾杯をする。


 第8棟の3階4号室はレイの部屋で、隣の5号室がカインの部屋である。

 かなりの頻度で部屋に集まる二人ではあるが、いつも決まってレイの部屋であるのは、カインの部屋が散らかっていて足の置き場がないためである。

 レイの部屋とカインの部屋の広さは本来同じはずであるが、床面積は2倍、3倍レイの部屋のほうが大きく感じられるほどである。


 そもそもレイの部屋には物が少なく、床に置いてあるものとしてはベッドと丸いローテーブル。衣服などはベッド下の収納スペースにしまってあるか、窓際に掛けてあり、意外にも本棚はない。

 その他のものはトランクケースにしまってある。

 ショールームより生活感がないほどである。


「いやー合格するとは思わんかったよ、自分でも」

「やけに謙遜するねぇ」

 

 カインは足を伸ばし、両手を後ろにつき天井を見上げる。


「…やっぱお前の部屋広いよな」

「いや、間取りは同じでしょ」

「ははは…それより、あれだ。剣術部門には零月のお嬢さんが出場するらしいな」

 零月のお嬢さんというのはまいのことである。


(―本当にいつもどこから情報を仕入れてくるのだろう?)


「え?でも説明会にはいなかったよ?」


 レイは持っていてたコップをローテーブルの上に置く。


「ああ。S1クラスは魔法校戦出場が決定しているからな。自分の得意分野以外で校内戦は出場するんだよ。零月のお嬢さんは弓術で魔法校戦に出るからな」


「ん?それなのになんでわざわざ校内戦に出るんだい?」

 当然の疑問である。


「得意分野でなけりゃ、S1クラスの連中にも勝てるって、他の生徒、特にS2クラスの連中を鼓舞するためって聞いたが。まあ確かにS1クラスでも負けることはあるらしいしな。

 ただ魔法学校のルールで校内戦出場していないと魔法校戦出られないって規則があるからそっちが本命だろうな。

 あとはどうせS1クラスの実力顕示だろ。苦手分野でも勝てるわ〜みたいな」


 だんだん毒が入り始めるカイン。


「どのくらい勝てれば魔法校戦に出られるかは知っているかい?」

「ん?ああ、各部門、上位8人とかじゃなかったかな」

「S1クラスの人も入れて?」

「いや、含めないはずだ。S1クラスはS1クラス内で別の勝ち抜き戦をして、その勝者がS1クラス以外で勝ち残ったやつと戦うって方式だからな。

 というかS1クラス含めたら他クラスから出場できるの2,3人くらいになっちまうんじゃないか?」

「え、てことは決勝までシードなのかい?」

「まぁ、S1クラスは第1クラスの中でも特に秀でた連中だからな。初っ端からバケモンがいられたら下位クラスはたまったもんじゃないしな。あとS2クラスとAクラスも基本シードだ」


 レイは少し考え込む。


「そうか、魔法校戦までは長い道程だな」


 カインは目を丸くする。

「お前、もしかして本気で狙ってるのか?」

「え?カインは違うの?」

「そりゃ、手は抜かねぇぜ?行けたら行きたいし。でも現実的に考えて無理かなぁって」

「先生方も第3クラスでも武技競戦なら可能性はあるって」


「ああ、あれな。まあそりゃ魔法競戦と較べりゃそうだろうよ。でもな結局魔法使える奴らは大抵貴族とか有名士族とかだから魔法を使わずに戦う教育もされてきたわけだし、魔法を使う時も武器は使うことが多いわけだしな。

 それに魔力量が多いから、身体強化も禁止と言っても俺らが使っている状態と変わらないんだよ。

 しかもうちの学校は他の魔法学校より上位層が厚いから、例えば零月のお嬢さんとかな、世界レベルの本物のバケモンがいるわけだしな」


 カインは無理無理と手をひらひら振る。


(―偽物のバケモンはいるのかな。いないか)

 一人でそんな事を考えて笑いそうになるレイであった。


「……そうだったのか」


 レイは隆遠たかみちが云っていたことを無意識に思い出した。



「でも、やるだけやってみようよ。一発逆転もあるかもしれないしさ!下なら下らしく狂おしいまでに足掻こうよ!」

 レイは前向きな提案をする。


「ああ!そりゃそうだな!明日から特訓してみるか!!」

 カインは勢いよく立ち上がる。


 レイも立ち上がる。


「いいね!」


 二人は拳をカツンっと合わせる。


「よしそうと決まりゃ、景気づけに呑むぞぉ!!じゃんじゃん持ってこーい!!!」


 無論ジュースであるが。




            ◇     ◇      ◇    ◇




「じゃあ、明日5時に訓練場でな!」

 カインは部屋の窓から脱出し、狭い自室に帰る。隣の部屋だからできた所業である。


「うん!……明日楽しみだなぁ…あ!そうだ!」


 レイは何かを思いついたように鉛筆と紙を取り出し、魔法式を書き始めた。

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