四. 第3クラスの学術首席
第3クラス四組は午後に教室に再集合したものの、教室の内外で騒つきが隠されない。
無論、レイのことである。第2クラスから学術首席が出ることはごく稀にあるが第3クラスから出たのは異例のことなのである。
「お前、すっかり有名人じゃないか」
「なんかやたら視線感じるなと思ってたけど、やっぱりあの表彰状のことかな?」
「それ以外に何がある?」
「遅刻したこととか?」
担任の女教諭が四組に入って来た。
「ほらー、散った散った。自分の教室に戻れ〜」
「今度は全員揃っているな〜?」
(―いつまで引き摺る心算なのだろうか、あの遅刻)
「私が四組の担任となる、一等教諭
カインが首を傾げる。「なんで一等教諭なんだ?」
「どうした問題児筆頭七里?なにか不満か?」
「滅相もありません!不満なんてありましょうか!」
大袈裟すぎでしょ、とレイは隣で心のなかで突っ込む。
◇ ◇ ◇ ◇
「最後にカリキュラムと時間割を配る。授業は明日から始まる。よく目を通しておくように」
「うわぁー…やっぱりかぁ…」
時間割を手にしたカインが落胆しながら言う。
「なにが?」
「時間割見てみろよ、訓練が殆ど体術だ。魔術訓練が週2回しかない」
「でも魔法学は結構あるよ?」
カインは怪訝な面持ちになる。
「それの何が楽しいんだよ。。。あ、そりゃお前は楽しいだろうな。見たか?自分の成績。廊下に貼り出してあったぞ?」
「ゑ?僕のが?なんか恥ずかしいなぁ」
レイは手で照れたように首の後ろを擦る。
「成績優秀者上位50人まで載ってるからな。見に行くか?一緒に行けば俺の凄いやつ感も上がるかもしれねぇしな!あははは」
「何だいそれは?まぁ、媚び
んだと〜とカインはレイを捕まえようとするが、レイはするりと掻い潜る。
そのまま逃げながらレイは廊下に出る。
(―なんか歩きづらいな、みんなに見られてるようで)
レイは顔を俯けて歩く。
カインも追いついて隣を歩く。
「ほら、あそこだよ、人の集まってるところ」
学術における成績優秀者一覧の前にレイが近づくと自然と人の道ができた。
「一国の王みたいになっちまったな、お前」
カインは小声でレイに耳打ちする。
「なんかやだなぁ、恥ずかしいや。わっ、本当に点数まで開示されちゃってるよ…」
学術試験における成績優秀者。以下51名
一位 四組 潤 女 玲 9.7
二位 S1クラス 零 月 英 8.7
三位 S1クラス ・・・・・
順位表ほとんどがSクラス、Aクラスで第3クラスで順位表に載ったのはレイだけであった。
数字は教科の兼ね合いから百点換算はせず、歩合になっている。9割を超えているのはレイ
つまりこの表は入学試験でレイが圧倒的な差をつけ首席になったことをこの第一学年全体に知らしめるものであった。
周りの生徒がレイに注目してしまうのも無理はない。
「平均で零月のお嬢様に1割差をつけて勝つとか、お前マジでやばいやつなんだな」
「なんだよ、その言い方は」
「零月のお嬢様か?」
「違うよ、そっちじゃないよ」
そこに海部内が歩いてきた。
「あ、いたいた。潤女。ちょっと私に付いて来い」
「え?またですか?」
レイはまたなんかやらかしたっけ、と記憶を探る。
◇ ◇ ◇ ◇
「初日から遅刻するとはとんだ不良が入学したもんだ、と思ったらそれが学術の首席なんて世の中も変わっちまったなぁ」
「その話まだ引き摺るんですか?」
海部内とレイは廊下を歩きながら話している。
「ところで、いま何処に向かっているのですか?」
「何処って、学長室だよ。成績優秀者は学校長に謁見できるんだ……というかしなければならない。特に君の場合は魔術においても極めて特殊なケースだからな」
「そういえばまだ自分の魔力系統教えてもらってませんね」
学長室の前にはダルド=ラインロードが立っていた。巻きたばこを加えていたが火は点けていないようだ。
「ラインロード先生。連れてきました」
「ありがとう。海部内先生。…やぁ。潤女くん。君の名前を呼べる日を楽しみにしていたよ。私は入学試験の時に会ったのだが、私のことは覚えているかね?」
(―これが灰色の魔術師か。ただの優しそうなおじさんにしか見えないけど、なんとなくベテラン雰囲気を感じるなぁ)
「はい。ダルド=ラインロード先生ですよね?僕の友達に先生の大ファンがいます」
「おお。それは光栄なことだね。まあ、それはさておき、君の魔力系統についての話なのだが」
レイは固唾を呑む。
魔力が測定されなかった不安は気にしないようにしていたが、それでも心の奥底にはしっかりと不安が根を張っていた。
「はい・・・」
「それがね僕から君に、必ず伝えようと約束したが、その約束は果たせなくなってしまった。すまない。代わりに学長、学校長から君に伝えてもらうことになった。いま他の成績優秀者と面談中だから少し待っていてくれたまえ」
ダルドが言い終わったと同時に学長室の扉が開いた。
「お、終わったようだね」
学長室から出てきたのは総合魔術首席など、実質学年首席の
「零月さん、どうだってね校長先生とのお話は」
英は歩みを止め、姿勢を正す。
「はい。とても有意義なものになりました。それでは失礼します」
と云い、会釈をしてからこの場を去って行く。
その
その去る澹々にレイは声をかけた。
「あ、零月さん!この前は助けてくれてありがとう!」
英は一度振り返って会釈をする。その遣り取りは反応こそあれ、それをコミュニケーションと呼ぶには程遠いものであった。
そして静かに廊下を歩いていった。
(―よかった。クラスが遠いからお礼言えないなぁって思ってたけどちゃんと言えたや)
コンコンコンッ
「失礼します」
扉が厚い為、中から返事があったようだが、何を言っているのかは聞き取れなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「彼、度胸ありますね。あの零月のお嬢さんに臆することなく話しかける生徒なんて、第1クラスにもあまりいませんよ」
「ええ、初日から遅刻してくるような生徒ですから」
「ははは、そうなのかい?実に興味深い生徒だねぇ」
◇ ◇ ◇ ◇
分厚い扉を開けるとその正面に白髪の爺が席に座っていた。
「ああ、君が潤女くんか。まあ座って座って」
レイはこの時初めて学長の容姿を真面に見た。
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