第22話 ピンチにつぐピンチ!でも!
あそ、ぶ?
なに、いってるの?
「…あれ?気配はあるんだけど姿が見えないね。……ああ、そういうこと。ほんと、さっきから逃げてばっかりだな。正直、相手してあげてるこの僕が情けなくなっちゃうくらいだよ。」
心にグサグサ突き刺さる言葉の嵐。だけど。
私の心は違うところに向いていた。
いや、こいつ、すごくない!?毒舌にもほどがあるんじゃないかな!?
だって美零さんよりひどいんだよっ!?
私、美零さんにさえ驚かされたのに!?
世の中、どんな人がいるかわからないもんだねぇ……。
ヒュッ
ショックを超えてもはや感心していると、何か白い鳥みたいなものが目の前に来て停止した。
それの中から一枚の紙が出てくる。
『雲隠れ見破られた可能性あり。ころな以外で連続攻撃。狙うは__』
「手紙か。」
そこまで読んでからそいつの声にはっと前を向くと、目の前に剣が迫ってる!
すんでのところで右によけたけど、その場のままの手紙は剣とともに吹き飛んで行っちゃった。
あの字、美零さんのだ。たぶん、「雪は空からの手紙」っていう言葉を使って作戦を知らせようとしたんじゃないかな。
この間、美零さんがそんな題名の本読んでたし。
狙うは、のところから読めなかったけど大体のことは分かった。だから大丈夫だよ。そう、信じなくちゃね。大丈夫だ!
「ふーん?なんだ、暇つぶし相手にはなるみたいだね。だけど残念だなぁ。今ので場所、わかっちゃったよ?」
なにっ?またなんかやるつもりなの!?
息を整えて、身構える。
ぼんっ
ぼんっ
黄色いもやが白と赤のもやに分裂して、現れたのは______
……ただのウサギとカニでした。
肩透かしでこけそうになっちゃったよ。
命の危険があるものが飛んでくるかと思ったんだもん。そりゃ驚いちゃうよね。
しかもこの二匹、可愛いし。
なあんだ。とりあえず大丈夫。
止めていた息を吐いて、気を緩める。
切り替えに目を閉じて、もう一度開けたそのとき。
私は絶句することになった。
さっきまでは二匹だけだったのに。
いまや赤と白の草原みたいになっちゃってる!
これ、三百匹は優にこえてるんじゃないのっ!?
って思うのにまだまだ分裂していく。
ただの生き物ならよゆーだけどこんなに増えたら大変だよ!
呆然としてあんぐり開いた口に、突如何かが放り込まれた!
「お、おふぉひ!?」
そう、おもち!
ウサギが大量にお餅を投げつけてきてる!
後ろ足で立って前の足でお餅を投げるウサギは絵本の世界みたい。
なんでウサギが!?って思ったけど分かったよ。このウサギ、きっと月の模様からとってるんだ!
日本の言い伝えで月にはお餅をついているウサギがいるってある。
だからお餅とウサギはワンセット。逆に武器として使えるのはこれしかないのかなと思ったけど。
分かってもこのおもち爆弾止められないよぉっ!
一見危険な攻撃には見えないけど、ねちょねちょでひっつくから身動きが取りづらいし、さっきみたいにお餅が口の中に入っちゃったらのどに詰まって死んじゃう可能性だっけある!
このウサギめ!可愛い顔してなんてことをっ!
キッとにらんでも止めてくれるわけないし。
なんとかしなきゃ!
記憶の糸をたどって何か使えそうなものがないか考える。
考えろ、私。
これまで調べたもの、友達に聞いたもの、知ってたもの。
探して探して探しまくって!
「よしっ!」
これでいいけるはずっ!
普通の雲をポンッと出して、その雲に左手で触れながら念じる。
お願い!
雲は元の形を崩しながらだんだんと大きな四角形になって、その四角形の中には綺麗な模様が描かれていく。
私はそれをウサギの集団に投げつけた!
途端にそれはウサギ(とお餅)に覆いかぶさって、一時的にお餅爆弾を止めることに成功!
「わぁ!雲紙、すごいっ!」
私が今使ったのは「雲紙」っていう紙なんだ。
それも特大の。
ほら、紫色と水色のグラデーションがあったり、中に雲が書かれてたりする、短冊とかに使うやつ。
綺麗な紙をこうやって使うのはもったいないと思ったけど、これしか思い浮かばなかったんだよね。
雲紙がかわいそうになったけど、ウサギが怒って投げてきたお餅の応酬で我に返る。
そうだった!今それどころじゃないんだよぉぉお!
雲紙を作っては投げ、作っては投げて自分の体を何とか守る。
余裕が出てきてみんなはの心配もできるようになってきた。
首を回してみんなを探すと、日本の国旗と、巨人が着れるんじゃないかっていう合羽が目に飛び込んでくる。
そのそばで動く人影は、「日の丸」でお餅を丸め込むゆずちゃんと、「雨合羽」を駆使する萩澤くんだろうな。
あとはとてつもない風でウサギごとふっとばしてる倉畑くんと、同じく吹雪でふっとばしてる美零さん。
姿は見えないけど、どこにいるのか、どう動いているのかが、顔をそむけていてもわかるのは、見えなくしたのが私だからなんだろう。
と不意に後ろに気配を感じた。
不思議に思うけど、ピンときちゃってため息がでる。
私の考えがあってれば、いや出来ればあっててほしくないんだけど……。
重い首を回すと、……あぁ、やっぱり。
いつの間にかいなくなっていた、あのカニがいた。
うじゃうじゃいるカニは私の足をつたってどんどん上に、いいいいぃぃい!?
「いやぁぁぁぁあ!」
気持ち悪いっ!さっきとは違う種類の悪寒がするっ!
その湿った細い脚の感覚、ゾッとするんだよぉ!
しかもしかもっ!そのはさみ、普通より鋭くなってません!?
それで切られたら、切り傷どころじゃすまないと思うんだけどぉ!?
無我夢中で、よじのぼってくるカニをはたき落とす!
そうしたら、ほったらかしにしてたお餅が後頭部を直撃!
はっと手で後頭部を押さえたら、手にひっついてうにょーんって伸びてるぅ。
髪にくっついて、とれない……。
どうしよう!カニはあきらめもせずのぼってくるし、でもほっといたらお餅が飛んでくるし、これってまぁまぁピンチだよね!?
「ころちゃん、ごめんねぇ?」
ゆ、ゆずちゃんの声!?
声がした方向から何かが体に巻き付いてきて、少し、かがまされたと思ったらすごいスピードで上にジャンプした!
いや、させられた!
「やめっ!こわっ!見えないのにっ!ゆずちゃん!?」
「いーからころちゃん、乗れる雲だして!二人だとすぐおちるからぁ!」
え!?もうなんなのかよくわかんないけど、乗れるような雲、出せばいいのね!?
足元よりずっと下に手をかざして大きな雲を作る。
乗れるやつ、乗れる雲!
だめだ、時間が足りない!二人分にはまだ届かないっ!!
私はぎゅっと目をつぶった。
落ちる!
「……あれ?」
痛く、ない。
地面が、まだ遠い?
「なんで?」
「いいから、早くぅ!」
そうだ!
大急ぎで空中に雲を浮かべ直して、めいっぱい広げる。
そこに私たちはふわふわ降りて行って、やっと一息つけた。
「ふぁああ。よかったぁ。」
「うわわっ!」
ゆずちゃんにはがいじめにされたまんま座り込まれちゃったから、バランスを崩して落ちそうになっちゃった!
「ゆずちゃぁん!落ちるぅ!」
「あぁ!」
ゆずちゃんの手につかまらせて引き上げてもらう。
「危なかった……。」
「あはは、ごめんねぇ?ついつい忘れちゃって……。」
ゆずちゃんがてへっと舌をだす。
ホント、怖かったからね!?でも可愛いから許せちゃうけど!
「まぁ、このおかげで助かったんだからさぁ。」
空紐のついた左手を振って、持っていた日傘を消す。
あ、そうか、日十を使って、「日傘」を出して、さらにそれをパラシュートみたいに使って落ちる速度を遅くしたのね。
「で、なんで空中に?」
ゆずちゃんは真剣な顔になって、無言で下を指さした。
なんだろう?
首をひねりながらも下をのぞき込む。
すると、白と赤がうじゃうじゃしている光景が見えた。
「あれ、ウサギとカニだよ。味方同士で争っているの。」
えぇ!?
なんで!?
「思い出したの。記憶をなくす前のお父さんが言ってたこと。『心優しい子になれよ。そしたらお前が生むものも心をもつようになるからな。心がない物なんて物ではないんだ。心を持ってこそ、大切な何かを持ってこそ生きるものは強くなれる。』って。」
「お父さんが……。」
ゆずちゃんのお父さんはたしか闇霧によってココロを取られてしまったって聞いた。
あの時の暗い目は、簡単に忘れられるものじゃない。
なのに、そのお父さんとの思い出を、私に話してくれている。
くちびるを白くなってもかみしめて、でも話してくれる。
「それ、今思うと空使いのことだったんじゃないかな。記憶、なくすほんの少し前のことだったら、もしかしたら自分に言い聞かせてたのかもね。」
もう、いいよって言いたい。できることなら、つらかったよねって抱きしめてあげたい。
でもできない。それは、必要だと判断して口を開いてくれたゆずちゃんの努力を踏みにじることだから。
「だったら、さ……逆のことも同じでしょう?あいつはきっといい心なんて持ってないから、あいつの生み出したものだって所詮ただのお人形さんってわけだよ、ねぇ。」
人形にしては本気で殺しにかかってるけどねぇって苦笑するゆずちゃん。
でもどこか苦しそうで、私まで心がぎゅっと締め付けられる。
このゆずちゃんの気持ち、無駄にしちゃいけないよ。
私達は、絶対に、必ず、あなたに勝つ。
そしてみんなで、楽勝だったねって笑ってやるからね!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます