第21話 ついに、戦い

「危ないっ!」

後ろに飛び退きながら叫んだ言葉はは悲鳴とも似つかわしかった。

ガッ

鈍い音をたてて、地面に突き刺さった一つの剣。

バッとあたりを見回して、全員が逃げたことを確認する。

「ころなっ」

「わかってるっ!」

両手を重ね合わせて広げて、大きな雲を作り始める。

早く、正確に、もっと早く!

思ったより遅い、雲の出来に、焦る気持ちが募っていく。

私たちの距離を離すべく、五人のど真ん中に落ちてきた薄黄色の剣。

その数秒前、一つだけ浮かんでいた、怖いほど綺麗な三日月。

頭の回転が遅い私だってわかること。

この森に来る前、倉畑くんが教えてくれたから。

『三日月のことを「月の剣」って言うんだよ。』

間違いない。あいつは「月」の空使いだ。

そして、夜空に残った三日月を、あいつは剣にして落としてきた。

私達以外にも空使いがいるなんて信じられないことだけど、ここに来るきっかけともなった花、月下美人。夜にしか咲かないのにあんな時間に空き地に咲いてるなんておかしいって美零さんが言ってた。

だけどあいつが月の空使いなら簡単に説明がつくことだよ。

「私たちを雲隠れの状態にさせて。あなたに、触れられるようにして。」

やっとで出来上がった雲に小声でお願いしてから、手でちぎって五分割にする。

「ころな、ここから動いたらまたいつ剣が降ってくるかわからない。それをみんなのもとへ運べばいいんだよね?それは僕がやる。」

言いながら、もう風で雲を運んでくれている。

「ありがと。みんな、雲が来たらなるべく早くそれに触れて。」

「「「「わかった。」」」」

あと、もう一歩だ!がんばれ、私!みんなと出会った頃からは少し成長してるはずだから!

ふっと息を止めて空紐を手首ごと握りしめる。そっと目をつむって、空紐に語り掛かけた。

私達、夏野ころな・倉畑渉・上橋美零・萩澤蓮斗・七月柚加にはそれぞれ仲間の姿が見えるようにしてください。

……これで、大丈夫なはず。きっと、いけるよね?

あいつはまだ姿を現さない。

どこに隠れているかわからない今、油断は禁物だ。

私も自分用の雲に手を伸ばす。

きっとうまくいくから。信じなくっちゃ。

そうやって思い込むけど、やっぱり不安。指先が震えているのが分かる。

「なにためらってるの、ころな!はやく!」

うぅ、あぁ、もう!

「え、えい!」

もふっ

で、できてる!思ったより柔らかい感触だけど、大丈夫だ!

触れたところから、だんだん雲も体も消えていく。

まるで体が溶けていくような感触にブルルッと身震いしちゃう。

目を閉じて、ゆっくりと開ける。

証拠はないけどわかる。成功した、よかったと安堵したその瞬間!

ぞわぞわぞわっ

「!?」

体を覆いつくすみたいに走った悪寒。

素早く光のように。でもズルズルと舐めるように、吐きたくなるような気持ち悪さと気味悪さを残していく。

しまった。悲鳴を上げてしまった、と思ったけど、声になってなかった。

「来る。」

誰かの短いつぶやきが、これ以上ないほどの恐怖と緊張をもたらした。

そのとたん、世界が闇に囲まれた。

そいつが、唯一の明かりである月を逆光にして出てきたから。

4、5メートルはある木から飛んで降りてきて、音もなしに着地する。

黒一色のパーカーを身にまとい、闇と同化しているような錯覚をもたせている。

そいつは下げていた頭をゆっくり上げた。

大きめのフードに覆われた顔は口しか見えない。

背丈は、私達と同じくらい。いや、もしかしたら私達より小さいかもしれない。

それなのに威圧感が強すぎて、気を緩めたら座り込んでしまいそう。

もう、なんだ。そろそろなんだ。

分かっていたはずなのに、いざとなると体が拒否反応を起こしちゃって、足がすくんじゃう。

そいつは不気味に口角を上げて、一言。

「さぁ、遊ぼう?」

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