第20話 一致団結!

「よしっ!戦うんだから打合せしよーよ!」

私・ころなは、手をパンっと打ち合わせて元気にいう。

「と、いってもころなはまた脳内パンクしちゃうんじゃないか?」

うっと言葉に詰まる。

痛いところを突かれたよ。言い返せません………。

「あ、でもぉ、ころちゃんがこの手の話を自分から持ち出すなんて。進歩してるんじゃない?」

「ほんとだね。最初はこんな話になるだけでフリーズしちゃってたからね。」

グサグサッ

二人の言葉の矢が心臓めがけて飛んできたよ。

思い返せば、いや、思い返さなくたっても迷惑しかかけてないもんね。

「役立たずでごめんなさい……。」

「ふふ、安心しなさい。みんなちょっとからかってるだけよ。」

え、そうなの?

うーん、さっきから振り回されてる気がするのは気のせいかな?

「じゃ、ころな。待っててね。」

そう言ってみんなは輪になり始めてる。

ってタイミング逃すところだった!

私も、考えてることはあるんだからね!?

「あ、あのさ、私、考えてたことがあるんだけど。」

勇気を出して呼びかけると、4人はこっちを見てくれた。

「戦略なんだけど、雲十の中の「雲隠れ」っていうのが使えるかなって思ってて。」

いつものみんななんだけど、聞いてくれてる顔が真剣そのもので下を向いてしまいそうになる。

意見を言うのがこんなに大変なことだって知ったのは、そらぞらに来てから。

何か思いついても言葉にできないことばかりで、意見をバンバン言って大人の人と対等に話し合えてるみんながかっこよくて、うらやましかった

だから、ここで自分の気持ちを言えるようにして慣れていこうって、頑張ろうって思った。

だから今日は私の第一歩。

受け入れてもらえるかはわからないけど言わないことには何も始まらない。

これがさっき学んだことなんだから。

そう自分に言い聞かせて、しっかりと前を向く。

「雲隠れってね、姿をくらまして見えないようにするって意味なの。だから普通に攻撃するよりはこっちの方がいいかなって思うんだけど、どうかな。」

「「「「……………………」」」」

「…………?」

……う、うー、あー。えー。……ええっと。

声出しても、いい?

い、いいよね。どうせ心の中だしね。うんうん、オッケー。

えっとね、見事なまでの沈黙なんですが。誰かー助けてー。

どうしよう。っていうかこういう時どうすればいいんだろう。

今、言ったことってそんなに気に触れることだった?謝った方がいいパターンなの?

「……い、嫌だったら遠慮せずに言ってね?………。」

「「「「………」」」」

あーーー、もうっ、なんなの?

逆の意味で怖いですってば。

と、その時、やっと柚ちゃんの口が開いた。

「ゆず、悔しいんだけど。」

「…………?」

今度は私が沈黙する番。

どういうことなのかわかんない。

嫌だ、とかそれは難しい、とか、言ってることが意味不明、みたいな返事だったらまだ理解できる。

ごめんねって謝ったり、リアクションをとれる。

でもさ。なんで「悔しい」になるの!?

いやわからない。全く分からないよ。

自分たちの仲間がこんなにアホでってこと?

いやそれって悔しいって表すことだっけ?

柚ちゃん一人の発言でさえ分からないのに、「俺も」「私も」「僕も」ってみんな言い出す。

今度こそホントに脳内がパンクしそうになったその時、

「なんか、ずるい。」

「いつもと違うよな。」

「なんで、ころなばかりなのかしら。」

「柚だってなんかいいたかったのにぃ。」

って、みんな揃ってブツブツブツブツ。

「え、なんで?みんな?どうしたの?」

ホントに謎だらけ過ぎるよ。

「いや、今日のお前すごいから、なんか悔しくて。」

……へ?

「いいな。僕、さっきから全然頭がさえないんだけど。」

「ころなに偉いことなんて言えないわね。」

「いーなー、ころちゃん。そんなアイデアってどこから出てくるの?教えてよぉ。」

え、え、じゃあ!?

「もちろん採用させてもらうから。」

わぁぁっ!

嬉しい、嬉しいよっ!

心の中の不安が次々と浄化されて、どんどん温かさに変わっていく。

自分の意見を言うのって勇気がいるし怖いけど、それが認められた時ってそれ以上嬉しいんだねっ!

「すごいわ。あなた今日、妙にさえてるわね。」

「………美零ちゃん。それほめてるのぉ?けなしてるのぉ?」

あ、確かに。でも美零さんならけなしてる気が………

「きっと褒めてるさ。こいつはひねくれてるやつだからな、こういう言い方しかできないんだよ。ま、ゆるしてやってくれ。たぶん精一杯の優しさだから。」

「ふふっ。なんだか蓮斗くん、美零ちゃんのお兄さんみたーい!普段からも仲、いいよねー?」

「あぁ。まぁお兄さんじゃないけど、幼なじみだからな。こんなに長くこいつのそばにいると段々とわかってくるものだぞ?」

「わぁぁ、初耳。なるほど?幼なじみねぇ………。ちなみにいつから?」

「えーと、たしか、幼稚園の年少のころだったと思うが……。」

「……ふーん、そうなんだぁ。じゃあさぁ、家がお隣だったり、するのかなぁ??」

「あぁ、そのとうr」

「ス、ストップ!もういいでしょっ!」

「え~?」

大きな目をキラキラさせて蓮斗くんを質問攻めにする柚ちゃんと、きょとんとしながら質問にすらすら答えていく蓮斗くんと、顔を真っ赤にして会話をさえぎる美零さん。

楽しそうでよかったって思ってぼーっとその光景をながめていると、

「楽しそうだな」

って背後から声がしたから思わず

「うん。なんか落ち着く。」

って答えちゃったけど。

「だっ、誰っ!」

いそいで振り向いて姿を確認!

「あ。なんだぁ、倉畑くんかぁ。」

自分で言うのもなんだけど、なんとも気の抜けた声だよ。

「『なんだ』ってなんだよ。別のだれかをお望みでしたか?」

すねたようなセリフとは裏腹に顔は笑ってる。……苦笑かな?

「あ、なんだってそういうことじゃないよ!?あいつかと思ってびっくりしただけだから!」

「そこまであわてなくても大丈夫だよ。わかってるから。からかってみたかっただけ。」

えー、ひどい!

「あはは、ごめんごめん。」

不満顔で軽くにらむと、「でもありがとうね」って声が聞こえて頭に優しく手が乗った。

ふと顔が熱くなって、ほほに手をやる。

…ん?今、私もしかして渉くんに頭、ポンポンされた?ありがとう、ともいわれたよね?

……私に限ってそんなことないか!感謝されることなんてないもん!きっと気のせいだよね!

ところであの3人はどうなってるんだろうって視線を戻すと、

「うるさいわねっ。もうなんだっていいじゃない!」

なんか美零さんが怒ってそっぽをむいちゃってた。

でも心なしか怒っているようには見えないんだけど?

倉畑くんもククッて声を殺して笑って、完璧に真っ赤になった美零さんが、私に向かって、

「もう、いいから。ころな、今度こそ待ってなさい。「雲隠れ」を軸に、最高の作戦、立ててあげるわ。」

「あぁ。」

「そうだね」

「がんばる!」

すごい、みんなが頼もしい!

みんながやる気に満ち溢れてるのが分かって、なんだか世界が色づいて見えだした。

木々が揺れる音が、地面の固い感触が、頑張れって言ってるように聞こえる。

さぁ、行くぞ。頑張るぞ。絶対無事でここから抜け出してみせる!

なんとなく気合が入って、思わずガッツポーズ!

「「「「何やってんの?」」」」

話し合いを始めたばっかりのみんなに一斉に突っ込まれ、私は、

「あ、あは。」

………苦笑いしかできません。

もう。やっぱり私って私だよなぁ。

勉強もできないし、運動もできない。なのに日々の生活能力だって欠けてる。自分でもよくわかんない行動するし、そのくせすぐパニックになっちゃう。

でも。そんな自分だからできることもあるのかもしれない。

ただの思い上がりかもしれないけど、それでもいいや。

もう日が暮れちゃった空を仰いで、ふーっと一息。

それから、ふとあることに気が付いて「なんにもない。」と呟いた。

おかしい。どうしてだろう。さっきまであった天気がない。

太陽が沈んでなくなったってわけじゃなくて、薄く残っていたはずの雲が、所々あった一番星がない。

そして、「空」がない。

夜といえども、空自体は存在はず。紺色の空があるはずなのに。

見えるのはただただ暗い、異様の空間。

黒色ともいえないただの「それ」にみんなも気づき始めたみたい。

「なに、これ……」

だれのかわからないその声はそのまま「それ」に吸い込まれて、再び無の空間に。

ここに自分が存在しているのかさえわからなくなってくる。

そんな私達をあざ笑うかのように、ただ一つ浮かぶものがあった。

鋭い光を放つ三日月。それ一つだけ。

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