第18話 はられた罠

「くぅあぁっ!疲れたねぇ。」

日がおちて、あたりが暗闇に染まり始めたころ。

日中日学校の校門前で、柚ちゃんがとなりでぎゅっと伸びをした。

そらぞらから帰るときは、設定されているいくつかのポイントに「思い玉」で帰してもらうことができるんだよ。

簡単にいえばバス停みたいなものかな?

それで、そのポイントで、みんなの家に一番近いところが日中日学校の前だったの。

だから、こうしてみんなで帰ることができるんだ!

そういえば。日中日学校に近いってことは、倉畑くんや柚ちゃんも、意外と近くに住んでるのかな?

「あぁ、三日月がキレーだぁ。」

柚ちゃんの言葉に、どれどれと空を仰ぐ面々。

「あら、ほんと。まだ六時なのにくっきり見えるものね。」

「そうだな。初夏だから日が長くなるはずなのに……?」

確かに。いつもより空も暗いよね。

あと、それに。

「なんか、この三日月ってちょっと怖い。」

意味もなしに、ぽつりとつぶやいた。

なのに、急に場が静まって、びっくりしちゃう。

「え、私なんかおかしなこと言った!?」

三日月が怖いとか、どんだけビビりなの、とか思われちゃった!?

「ううん、ちがうよ。僕もそう思ったから」

次々に、私もおれもって声が上がって、少しほっとした。

「そういえば、三日月のことを「月の剣」とも言うみたいだよ。なんかの本に書いてあった」

「へー」

月の剣かー。確かに剣に見えなくもないかなー。

そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に家についちゃった。

「あ、うちここだから、」

バイバイ、と続けようとして止まる。

「あれー、こんなところに花なんてあったっけ?」

となりの空き地の、私の家に近いところに、すっごく綺麗な花が咲いていた。

吸い寄せられるように、みんなで花のところに集まる。

「これ、月下美人だと思うんだけどぉ、なんでこんな早い時間に咲いてるのぉ?」

月下美人……聞いたことある。おばあ様の好きな花だ。

たしか、綺麗な花を持つんだけど、夜遅くにしか咲かないはずだったよね?

秘書さんが頑張って育てていたのを見たことあるし、雑草なはずがない。

どうしてそれがこんな空き地にあって、この時間に咲いてるのか、不思議だよ。

不信感をもって、眉をひそめて、手をのばす。

そのまま、月下美人に触れた、だけだったのに。

一瞬にして、私たちはよくわからない、森の中にいた。

「……は?」

なになになにこれ、どゆことですか?

頭がおいつかない展開にクラクラしてくる。

「やぁ。」

温かいとも冷たいとも取れない声が背後から聞こえてきて、ゾクッとした。

……こんな声、私聞いたことない。だれ?

にらむように振り返るけど、木の陰から声が聞こえてるだけで、姿は見えなかった。

「闇霧……」

萩澤くんだったか、美零さんだったか、わからないけど、そのボソッと放たれた声が、私たちを恐怖のどん底につきおとした。

もしかして、あの言葉の主、闇霧の人なの……!?

ってことは、月下美人は、私たちにさわらせてここへ連れてくるための罠。

理解していくたび、血の気がさぁっと引いていく。

私たち、空使いになったばっかりなのに、そんなことってアリ?

ふいに波風先生の言葉がよみがえる。

そういえば私、ちゃんと忠告を受けてた。

あぁ、あの時ちゃんと警戒していればよかったのに。

けど、いまさら後悔したって遅い。

罠にはまっちゃったのは事実だから、今はとりあえずっ!

「逃げろっ!!」

だれかの掛け声で、闇霧のあいつとは反対側に走り出す。

私は足が遅い?

体力がない?

そんなの関係ない。

今必要なのは根性、ただ一つ!

全速力で走る。走る。走り続ける。

幸いなこと、あいつが追いかけてくる気配はない。

こんな字面だと冷静なのかって思うかもしれないけど、その反対。

頭がパニクりすぎて、おかしくなってる。

だって、入口も出口も、なんにもわからないまま、放りこまれたこの暗い森。

先を走る美零さんが携帯をだすも、顔をしかめてしまいなおすところや、倉畑くんがそらぞら行きの思い玉が入ってるはずの封筒を破ってもなにも出ないことから、助けを呼べないってことはわかった。

だったら。だったらここから脱出するには自分たちで何とかしなきゃいけないってこと。

私たち、どうすればいいの!?

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