第17話 ついにお披露目!私たちの春夏秋冬

翌々日。

「なになになに!?みんな、急にどうしたのっ!?」

目隠しをしたリコ先生を、私と美零さんと萩澤くんとで、中庭にひっぱってます!

「お母さん、うるさい。少しは静かにできないの?」

「美零!?いや普通に考えて、急にこれじゃ驚くでしょ!?」

「さぁね。それはお母さんの中の普通によるわ。」

「じゃあ、世界的共通で考えて!」

「世界中にアンケートでもとったわけ?」

「み、みれいぃー………」

あはは……。やっぱり口喧嘩で、美零さんの右にでるものはいないよね……

「まぁまぁ、話はそこらへんにしておいて。そろそろ着くんじゃないか?」

「そうだね!」

走って中庭へのゲートを通り抜け、そのまま端の一角にたどりつく。

「はやかったねぇ!」

「こっちの準備は完璧だよ。」

ここで待って、最終準備をしてくれていた柚ちゃんと倉畑くんと合流。

「じゃあ、リコ先生。目隠しとってくださいっ!」

緊張するっ!でもでも、自信作なのっ!

震える手で、リコ先生の目隠しをほどいた。

「……なに、これ。すんごいきれいなんだけど…?」

「宿題です。題名は『季節織~花~』。共同作品に、しちゃいました。」

萩澤くんが淡々と説明する。でもその声音に誇らしさが混じっているのを聞き取って、嬉しさがどっとあふれてくる。

目の前にあるのは、「季節の移り変わり」をテーマにした、立体作品。

天気で天気を作っても面白くないって感じて、天気とは打って変わった「季節」を題材にしたんだ。

季節を表すのは、それぞれに当たる花。

自然の色が溢れる中庭。白いタイルの上に芝生を引いて、左から春、夏、秋、冬の順に季節を「作った」。

これをメインにして、中庭の一角に、ありえないような風景を出現させたの。

「解説いきますね。」

進行役の倉畑くんが、ノートを持って前に進み出た。

「まずは春。花は、雲十から満開の桜を、雨十からチューリップを使いました。」

私の番だっ!手の中のメモ用紙をぎゅっと握りながら、一歩前へでる。

ここまですごいのができたんだから、どうせなら説明も完璧にしようって話して、私もみんなが書いてくれた説明を、頑張って暗記したんだ!

「桜と雲は、言葉の中で関係があるそうです。桜が満開になっているようすを、『花の雲』といいます。桜が満開になったときの花の様子が雲にみえたことが由来で生まれたそうです。これを利用して、普通の木に雲をかぶせ、桜の木に変えました」

っっっ!

言えたっ!できた!緊張したー!

思わず口角が上がるのを抑えて、真剣な表情を取り保とうと必死になる。

「花の雲」は私が辞典を読み漁って見つけたんだ!

桜は春の目玉だから絶対に入れたいねっていって、桜に関する言葉や桜に繋げられるものを探してた時に見つけられたのはすっごい嬉しかったなぁ!

でもやっぱり、みんなはすごくてね?

私が思いつかないアイデアがたくさん集まって、こんなことができてるの!

それにチューリップ、「雨」からどうやってだしてるのか気にならない?萩澤くんの機転はすごいんだよ!

「チューリップは鬱金香ともいいます。ぼくは、その鬱の字を利用しました。雨が降ると憂鬱になる、とよく言われます。なので、一度雨を降らせ、鬱を集めて、鬱金香、チューリップを作りました。つながりが細いので集中力が必要でしたが、できると信じることで成功できました。」

私は楽しさがこらえきれなくて、うんうんと頷く。

夕立のような雨が急に降り始めて、みんなでおかしいなぁなんていってたら、ふっと気持ちが暗くなったんだよね!

このもやもやはなんだろうと不信に思ったら、萩澤くんがそのもやもやをみんなの胸から取り出して、集めて、そしたらチューリップができてたの!

あの時はほんとにびっくりした!

「続いて夏。日十からアジサイ、ヒマワリ。風十から風知り草です」

「これら二つは漢字にしたときの字からとりましたぁ。アジサイは紫陽花、と書き、ヒマワリは向日葵、と書きます。太陽の陽の字と、日十の日から作りました!」

夏は太陽の照り付ける季節だから、自然と日十からつくれるものが多くなったんだ。

でも日から陽に変えてつくるのはコツが必要だったみたいで、綺麗な紫陽花ができた時の柚ちゃんの喜びようったらすごかったなー。

そして。唯一、花じゃないけど使われた、風知り草。倉畑くんの力作だ。

「風知り草は別名、裏葉草や風草ともいいます。青々とした多年草で、小さい穂のようなものをつける雑草でもあります。花ではないですが、青々とした葉は夏の代名詞。なので、夏をあらわすのに適したものだということで、使いました。この色を出すのが難しかったです。」

ふぁさふぁさと風に揺れる、風知り草。雑草なのに花とは違う「きれい」を持ってる気がする。

「そして秋です。秋は風十から楓の木、雲十からコスモスです。」

「楓は漢字の風という一部分からつなげました。あとは桜と同じで、普通の木に風をかぶせ、楓の木にしました。」

私は後ろを振り返って、二対の木を見上げる。同じ木だったのに、今じゃ、ピンク色と赤色の木。改めて、空十ってすごい!

そして、また私の番。でもさっきより文章量が少ないから大丈夫っ!

「コスモスは、秋桜といいます。これは先ほどの「花の雲」の桜から秋桜にかえました。秋桜の知名度が高かったので、本来ないはずの色も作ることができました。」

風にゆっくりとゆれて、切なささえも感じさせるコスモス。定番の薄ピンク、白、赤紫はもちろん、水色や黄色、薄紫に赤色のコスモスもつくってみた。

案外きれいで、そのまま採用されたんだ。

「最後に冬。雪十から梅とノースポールです。」

「梅は松竹梅の由来から引っ張ってきています。これは冬の雪の中でも耐える三つの植物を表しているそうです。そこから梅だけをとって、花瓶に生けました。そちらのほうが風情が出ると思ったからです。」

「ノースポールは、花の雲の雪バージョン、「花の雪」からとりました。これは白く咲く花を雪に見立てている言葉です。なので、白く、冬に咲く花、ノースポールを作りました。」

「花の雲」と、「花の雪」。姉妹みたいな言葉でなんだか嬉しいよねっ!

「以上で解説を終わります。気を付け、礼。」

倉畑くんの号令の後、一、二、三で頭を下げる。

その瞬間、パチパチと音がなって、ゆっくり顔をあげると、リコ先生が満面の笑みで拍手してくれていた。

「すごい!みんなすごいよ!たったこれだけの宿題でここまで世界を広げちゃうなんてすごすぎっ!」

えへへ、やっぱりうれしいなあ。仲間と顔を見合わせて、はにかんだ。

「ほんとだなぁ」

えっ、だれ!?

木陰からファイルを抱えて出てきたのは楓さんだった。

「それ、すごいよ。綺麗だから、そらぞらのエントランスホールのオブジェとして飾ってみない?」

……え。

「「「「「ええええぇ!?」」」」」

「え、嫌なら無理にとは言わないけど。」

いやいやいやっ!そうじゃなくて、そんなことしてもらっていいんですか!?

「っていうかできるんですか?」

「まぁ、何とかなるからそこらへんは大丈夫」

あ……この人がいうとシャレにならない。現実味がある……

と、いうことで、エントランスホールに私たちの作品が飾られることになったのでした!

嬉しいようなムズムズする気持ち!

でも、その気持ちに水を差すように告げられたことがあった。

楓さんが、あの後、私に近づいてきて、耳元でこそっと教えてくれたことがあるの。

「最近、闇霧がいたと思われる痕跡が、君の家のすぐそばでよく見つかっている。もしかしたらだけど、君の家の近くに闇霧が張ってるかもしれないから、一応気を付けておいて。それで、なにかあったらすぐに知らせてね。」

って。真剣な顔つきで言われたんだ。

そんなはずはないと思う。

だってうちの近くには学校もあるし、人通りも多くて、悪い奴は動きにくそうな場所だから。

だから……そんな、はずは、ないよね……?

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