第15話 雨降って地固まる?
「だからっ!劇みたいなものにしたらストーリーもあって面白いでしょっていってるの!」
「ストーリーありきでどうすんだよっ!こういうのは堅実にいく方がいいんじゃないかと思うんだよ。大体、リコさんから出された課題はさ…」
「それは蓮斗が頭固いから!だいたい堅実って何!?具体的には!?」
さきほどのほんわかシーンから数十分後。
萩澤くんと美零ちゃんが見事に仲間割れしています……。
宿題内容は、「自分の力をいかして何かを作ってね!提出方法は自由!」だそうで。
自由って範囲が広すぎるから、なにをしようかって話し合いになって、
「全員の能力を生かしたいよね」
「見てて綺麗なものがいいな」
ってことは決まったんだけど、それ以上進まなくなっちゃって。
そしたら美零ちゃんは「やっぱり物語に仕立てようよ」
萩澤くんは「各自シンプルにいこうぜ。」
声もかぶってたから、ピシっと場の空気が固まって。
最初は冷戦だったものの、それがどんどんヒートアップしてって、いまじゃ完全なる言い争い。部外者は口を出せない立場に居まーす……。
柚ちゃんと倉畑くんと目くばせし合って、部屋の真ん中にいる二人を回り込むようにして集まる。
あーだこーだ言ってるとこから、音もなしに遠ざかり、ひそひそ話。
「どうする、あれぇ。ゆず、美零ちゃんのことまだよく知らないからなぁ。あーゆーときの対処法わかんなーい。」
「僕も蓮斗のことまだあまり知らない。どうやってなだめたら効果的かねぇ。」
「私は、」
いいかけて言葉につまった。私、柚ちゃん達よりかはあの二人と一緒にいるけど、喧嘩仲裁なんて私にはできないよ!
柚ちゃん達をチラッと盗み見ると、二人して信頼の目をむけていた。
え、これまさかそういう作戦!?ず、ずるい!卑怯だ!反則だーーー!
「あー、うん。換気してこよっかなー。」
現実逃避……。あは、あはははは。
ついでに険悪な空気も入れ替えられればいいのに……
どこかおぼつかない足取りで窓まで向かう。
窓枠に手をかけて、ガラッと勢いよく窓を開けて、目を細める。
うーん、すがすがしいほどいい天気。この青空が喧嘩を吹き飛ばしてくれんかねぇ。
どこまでも広がるのは、真っ青な紙の上に書かれたような、真っ白な綿雲。右の高いところにある太陽と、下に見える緑いっぱいの木とが共鳴してまぶしい。心に染み込む光景に思わず微笑んだ。
あ、失礼、説明不足だ。もう一つなんかある。逆光でよく見えないけどなにか平たい物体が空を飛んで、こっちにやってき、た!?
ベチッ
「うぁ」
突然視界が真っ赤になった!しかもなんか顔が痛い!
さっきの!?さっきの物体が顔にはりついてますのコト!?
「何っ!?だれか、助けて!?」
パニック状態で、腕を伸ばしてふらふらさまよう。
キョンシーみたい!?
あれ、でも額にも張り付いてるけど動いてるってことは違うのか!?
ってそんなのどーでもいい!!
「あーあ。何やってんの。」
ペリッと何かが顔からはがされて真っ赤から解放された。
やっと戻った視界に倉畑くんが映る。
クラクラ…立ちくらみがして、ついには倒れそうになった。
「だーいじょうぶ?」
目の前にのぞきこんだ柚ちゃんの顔。
「大丈夫じゃないー……」
なんかもう、よくわかんない……さっきのは何……。
「あれ、これ……。」
さっきのナゾの物体を手にして、首をかしげる倉畑くん。
日に透かして見たり自分の手の大きさと比べてみたりして頷いた。
「これ、ぼくが楓先生にあげた楓の葉だよ。なんでここまで飛んできたんだ?」
「どれどれ?」と興味しんしんの柚ちゃんに連れられて、倉畑くんの手の中をのぞき込んだ。
五つに枝分かれした一枚の大きい葉っぱ。赤だけど、オレンジがかった色が魅力的な、楓の葉だった。
「あ、これなら見たことあるかもぉ。こないだ楓さんの部屋にあったよぉー。部屋の窓から落ちたんじゃないかな?
じゃ、今日の不幸せの犯人は楓さんってことか。
まだヒリヒリしてる額をさすりながら、楓さんをちょっぴり恨んだ。
不可抗力かもしれないけど、痛かったのよ、ほんと………。
「ねぇねぇ?楓をあげたっていってたでしょ?あーんな大きな楓の葉、どこで見つけたのぉ?」
そう言われると、たしかにあの楓の葉は大きかった気がする。
「私の顔と同じぐらいあったもんね」
「いや、実は……これ僕が作ったんだ」
「「えぇ!?」」
作ったって、どうやって!?
倉畑くんは照れくさそうに笑って、そのまま手元の葉に目を落とす。
「空使い、風の力だよ。楓って木へんに風ってかくでしょう?だから風を起こして漢字に変えて、楓に変える。そこから現実のものに変えればそれで終わり、って楓さんに教えてもらったんだ。僕たちのモチーフから連想できるものならなんでもいいみたい。最初は半信半疑でやってみようって思って作ったものだからすごく小さいのしか作れなかったんだけど、練習していくうちにだんだんできるようになっていったよ」
へぇぇ、この空紐、そんなことまでできるんだっ!
私もやってみたいっっ!
髪をまとめていた空紐をほどくと、自由になった髪がふぁさっと流れた。
雲のモチーフをぽわんとだして、考える。
雲から連想できる言葉かぁー。
雲、くも、くも、………クモ?
八本もある足と、からだの色が不気味な、虫のクモが頭に浮かぶ。
それに変えるのは、気持ち悪いからやだな、と思って、じゃあ何に変えようか、モチーフがあったところに目をやると…。
「い、いやぁぁあっ!!」
クモに!雲がクモになっちゃってるよぉお!
そんな、頭の中で考えただけなのにっ!たったそれだけなのに!
大声をあげた私を、両手ほどもあるクモがじっと見る。
紫と黄色のからだといい、その大きい真っ黒な目といい、自分で生み出しといてなんだが気持ち悪いっ!
床に降りたクモは、そのまま私のほうに歩いてくる。
「いやだっ!やめて!こっちこないでぇ!」
今日は厄日祭りなの!?アンラッキーがスペシャルボーナス中なの!?
無我夢中で腕を振り回していると、ポンと音を立ててクモはいなくなった。
よ、よかった……
というか、ホントに言葉遊びで、クモができちゃったね……
「「……れだ。」」
背後から声が聞こえて、振り返る。
いつの間にか静かになっていた美零さんと萩澤くんが、目をキラキラ輝かせて立っていた。
「えっと、なにか言った?」
「「それだ!」」
「柚っ!そこの図鑑とって!」
「あ、これ蓮斗が使えそうだね。」
前とは打って変わって、みんなでワイワイしている育練室。
床に散乱しているのは図鑑や辞典。机に集まってるのはノートパソコン。そして中央にあるのはホワイトボード!
あの後に教えてもらった、美零さんと萩澤君の二人の案がすごくよくって、それを膨らませたり、実行したりと、今はみんなで活動の真っ最中。
どんなのをするかって?
ふふっ、それは完成してからのお楽しみということでっ!
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