第11話 空使いって……実技って……

次の金曜日。

「はーい。みなさん、こんにちはっ!みなさんの実技を担当しますっ!『そらぞら』育練委員会教員のリコでーす!リコ先生って呼んでくれると嬉しーなー。うわぁ、なんだ?このいい言葉っ!『リコ先生』響きも可愛いし、かっこいいっ!」

テンション高めの、先生を前にして凍り付く一同。

今は中庭で、実技の初めての授業なのです。

こないだの教科の授業で意識がなくなっちゃったから、いつもより緊張してたんだけど、気が抜けちゃった。

リコ先生は小柄で、リスみたいな人。ボブの髪をゆらしてずーっと笑顔笑顔笑顔!それも心から笑ってるからこっちまで笑顔になってくる、不思議な魅力を持っている。

「お母さん……何でここにいるの……もうほどほどにして……」

「なによー、美零。いいじゃない」

……あれ?えと?お母さんって……。リコ先生は美零さんのお母さんってこと?

「ほんと、恥ずかしいからちゃんとして。お母さんって紹介したくないわ」

美零ちゃんてお母さんにも厳しいんだー。らしいといえばらしいけど。

「リコさん。ご無沙汰してます。…相変わらず絶好調ですね」

「あらぁ蓮斗くん。ありがと!ありのままが一番よね!それはそうと、いつ蓮斗くんはお婿に来るの?」

「お母さん!」

「リコさん……」

お、おむこ……。えっとそれって!?

ええぇ!?二人ってそんな関係だったの!?

私は二人を交互に見てニマニマしちゃう。

そしたら二人が私の脳天へパンチをくらわせた!

ゴスッ

痛い!ひどい!なんで!?どうして!?私なんかお気に障ること言いましたぁ!?

「あんなぁ、あれはリコさんの持ちネタなんだよ」

「そうよ。そんな未来はないから、安心して」

安心…も何も。お似合いだと思うんだけどなー。って言葉は飲み込んで。

リコ先生って美礼ちゃんと親子なのに正反対というか…そんな感じするよね。

「おお?顔が赤いよぉ?」

柚ちゃんが終始ずっとニマニマして、美零さんの顔をのぞき込むから「もう、うっとうしい!」ってほっぺたをつままれてた。

うわぁ、美零さんのあれ、めっちゃ痛いんだよね……柚ちゃんかわいそうだー

「リコ先生。そろそろ本題に」

「え?あ、そうねそうね。授業やらなきゃ怒られちゃうわ。えっと、まずは自己紹介!っと、さっきしたか。一応、先代の空使いだったからそこらへんは安心してねっ! 」

倉畑くんがうまーく話の進路を戻してくれて、やっと授業がスタート。

リコ先生は咳ばらいを一つして、準備の指示を始めた。

空紐を手首に巻き付けて結ぶところまではこないだと同じ。もう驚かないよっ思ったけど、やっぱりちょっとビクッってなっちゃった。

「じゃあね、左手に右手を添えて、両方とも握ってみて。それからせーので勢いよく開いてみようか。」

言われたとおりに手を動かす。なんかドキドキするっ!

「せーのっ!!」

ポンッ

うわぁ、と漏れた感嘆の声。それもそのはず、私たちの開いた手から五センチほど離れて、それぞれのモチーフとするものが出てきたから!

柚ちゃんの手のそばには、黄色がかった、丸い日の光が。

萩澤くんの手のそばに、暗い色をした膜から降り注ぐ、雨。

倉畑くんのところには、薄い青に色づいた風が吹いている。

美零ちゃんはキラキラ輝く雪の結晶を、手を開いたり閉じたりで大きさを変えてみていて。

私は、ふわふわ漂う真っ白な雲をしげしげと眺めていた。

「ふっふっふー。驚くのはまだ早いっ!今は絵本に出てくるようなモチーフだけだけど、ここからが本番だよっ!」

私たちのびっくりした顔が嬉しかったみたいで、リコ先生はさらにテンションが上がってビシッと指をさして決めポーズをとっていた。ばっちりキマっていて違和感がまったくない。

「それじゃあ、まずはステージワンッ!そのモチーフの形はそのままにできるコトをたしていくよ!」

いったいステージがいくつあるのか知らないけど、なんか教科の授業よりは楽しそうだよ!

「えっとねぇ、これのやり方は超簡単。したいことを思い浮かべて、それを信じながらモチーフを出せばそれでオッケー!あ、夏野ちゃん!こっち来て?」

「わ、わぁたしっ!?」

ワクワク半分、ドキドキ半分で立ち上がる。

リコ先生と共に立つと、いきなりこんなことを聞かれた。

「ころなちゃん。雲には乗れると思う?」

いきなり意味不明な質問来たっ!

「えぇ……さすがに乗れはしないと思いますけど」

そうだよね?雲は水の塊だから、とかそんな理由で、雲には乗ることができないんだってふうなに教えてもらったことがある。

「ふーん?じゃあさ、想像してほしいの。今から夏野ちゃんが生み出す雲は、人がのることができるってね。おっけー?」

リコ先生は終始楽しそう。

「わかりました、けど。」

私の生み出す雲は人がのることができる、私の生み出す雲は人がのることができる、っと。

念じて、ついでに絵本でよく見る、雲の上に乗った人の絵をイメージしておく。

「ほい。じゃあ、やってみて?」

言われた通り、雲を出してみる。さっきのことを信じて、雲の形を広げていって……。

「できましたっ!」

「それじゃ、のってみようか。」

……え?

いやいや、念じてはみたけど、実際にそうなることはって……あれ?

面白半分に乗っけてみた足が、雲に乗った!?

なにこれ、面白いんだけどっっ!

ちゃっちゃと反対の足も乗せて、飛べないかな、と考える。するとそれを聞いていたかのように、三メートルほど、雲が浮かんだ!

「すごいっ!」

「夏野ちゃん、そのまま、自分の行きたい方向を考えてみて!きっと操縦できるはず!」

そんなこともできるの!?

試しに右に五メートル、と雲に語り掛ける。

すると、やっぱり雲はその通りに動いてくれた!

「楓くんから聞かなかった?信じることが空紐のパワーになること!信じれば信じるほど、空紐と仲良くなれる。ぶっちゃけ、強く信じちゃえばできないことってないかなぁ。これは空使いとしての基礎中の基礎!でも使いこなせれば、すごく有利に戦うことだってできるし、楽しいよ!」

すごい!楽しい!なんか魔法使いにでもなった気分だー!

みんなも色々とやり始めてる。私もやってみよう!

雲のかたちを粘土みたいにころころ変えて、いろんなものを作ってみたり、綿菓子みたいにしたりしたらどうかなー。

あまーい綿菓子を頬張って幸せをかみしめる自分を想像してたら。

ズボッ

いつの間にか雲がうすーくなって落っこちちゃった。

まだまだ修行がたりませんな。

実技の授業って楽しいかも!空使い、以外と面白いかも!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る