第10話 初・授業はやっぱりね
「くくく『雲』の夏野ころなです!えと、えと、得意なことは…………ないですけどよりょふぃくお願いひみゃひゅ!」
「…………………」
あぁ、場の空気が冷たい…………。
特に最後の方はほとんど言えてなかった気がする……。
自己紹介苦手なんだってば。緊張して噛み噛みになった。
穴があったら入りたい気分で座ろうとすると、ガタン、と音を立てて椅子が倒れる。もちろんそこで急停止するなどという反射神経を持ち合わせていない私は、そのまま床におしりを打ち付けた。
「ひひゃいっ!……」
「ぷぷっ」
「あはははははっ」
誰かがが吹き出したのを合図に全員に笑われた。
うぅっ恥ずかしいっ!
あの、女の子と男の子、美零ちゃんと萩澤くんだって笑ってる。
「ころな、だっけ?面白いね、君。君みたいな子、クラスにいたら盛り上がるのに」
「……………いつもはちゃんとしゃべれまひゅ。」
「ほんと?今も喋れてないけど?」
「ち、ちがうもん!これはさっきのが残ってるだけで……」
これが隣の男の子、倉畑くんとの初会話。
最初に吹き出したのも多分この人だしっ!
なんか私の第一印象、ドジっ子でインプットされた気がする………。
なんだかなぁ……。
抜けてるとこがあるのは自覚してるけど、ドジっ子ってほどではないと思うんだけど……
しょっぱなからしょげた気分になった。
その時、部屋の引き戸がスパーンっと開いて
「遅れてごめんなさーいっ!!七月です!七月柚加!!日の空使いになる予定ですっ!よろしくねっ」
起きたばかり、と思われる七月さんだ。
突然の出来事にみんな唖然としてる。
ほんと賑やかな人っ!
一通り自己紹介がすんで、私は皆の名前を忘れないようにメモ書きする。
「雨」の萩澤蓮斗くん。
「雪」の上橋美零さん。
「風」の倉畑渉くん。
「日」の七月柚加ちゃん。
そして、「雲」は私、夏野ころな。
みんな優しいからすぐ仲良くなれそう。
あ、あとそれにっ!
これがモンダイ(?)なのですが……
もう一つ、私を除いたメンバーの大きな共通点に気づいちゃった。
それは……めっちゃかっこいい!かわいい!ってこと。
柚ちゃんも黙っていれば読者モデルみたいに可愛い子だったし!
倉橋くんもイケメンなのに気さくだから、きっとモテると思う。
空使いの条件に「顔がいい」ってのがあったんじゃないかってぐらい。
もっともこんな私がなれているのだからそんな条件はなかったんだろうけど。
それでも私なんかがここにいていいのかってさらに不安になっちゃいます。
当たり前だけど、そんな私の脳内パニックに気づくことなく楓さんが本を開いた。
「さて、そろそろ授業をしようかな」
緊張…する。
「みんな、空紐を出してみようか」
全員カバンをゴソゴソやる。
「それじゃあ、使い方を説明するよ。一歩間違えると危険なことになりうる可能性もあるから慎重にね」
わぉ、私、おっちょこちょいだから気をつけなくっちゃ。
場の空気が一気にピンと張った。
「空紐は、左手首につけます。そこで結ぶんだけど、結び方にも決まりがあってね。素人が手作業でやると大変な飾り結びっていう結び方なんだけど。まず、一緒にやってみよう。みんなの空紐は長い間使われているから、きっと覚えてるよ」
ん?覚えてるって…紐が?…場の空気がハテナだよ。
わけわかんないんですけど。
あ、でも美零ちゃんと萩澤くんはこの人の言ってることわかってるのかな?
チラッと斜め前を盗み見たけど二人も眉間にしわをよせていらっしゃる……
楓さんと仲はいいみたいだったけど、教えてもらったりとかはしてないのかな。
「あ、あー。そこからの説明がまだだったね。えっとね、空紐は普通の組紐とは違って心のようなものを持っているんだ。だから記憶や感情も持っているんだよ」
楓さんが説明してくれた。
……けど、わからん物はわからん。
「質問。あくまでも大事なものだから大切に扱えというたとえではないんですか?」
萩澤くんが理解ができないという顔で淡々と告げる。
「あ、ううん。そうじゃなくて、喜怒哀楽を私達と同じように感じるということだよ。だから乱暴に扱ったら怒って何もやってくれなくなっちゃうし、逆に仲良くなったらとても強くなれるんだ」
「…………?」
またもやハテナの空気に包まれる教室。
「……まぁ、みんなでやってみようかな?別に困ったことは起きないと思うし?」
なぜ最後が疑問系?そして何をやるのでしょうか?
困り顔なのに笑っている楓さんは、空紐を左手首に当ててみて、とだけ言った。
手首にあてる……?いまいち、ぴんと来ないけど。
「わ!?」
「あら」
早速やってみたメンバーが驚きの声をあげてる。
気になって見てみると………空紐がひとりでに動いてる!?
恐る恐る手首に当てるがはやし、私の空紐もあっという間に手首に巻き付いていく。しかも超高速で複雑に結ばっていってるんですけど!?
「どう?僕の言ってる意味、わかった?」
呼びかけに対し、
「……なんとなくは」
「まぁな」
「そうね」
「う、うん?」
「わかったけどっ!なんかこわいよぉっ!これっ!」
結果。
難しい顔ながらも受け入れた人3名。
一様理解はしたが早くも恐怖心を抱く人1名。
いまいちよく分かってない人1名。
となりました。
そして、いまいちよく分かってない私は頭がこんがらがってきちゃったよぅ?
「……まぁいっか?わかった人もいるし次に進むよー。」
………まぁよくないのに進められちゃった。
「あぁ、言い忘れてた。今日は、顔合わせや基本的な事をやっていくけど、空使いの授業は大体二つのジャンルに分かれます」
「僕と一緒にやるのが、教科。主に知識。そして、もう一つが実技。これは実際に空使いになるための練習。自由に扱えるようにならいと困るからね」
わー、実技って。不安しかない…………
こんなんで私、やってけるのかなぁ。
「ちなみに、教科の授業はここの育練室で月曜の4時から5時に行います。実技は金曜の同じ時間ねー。あ、でも君たちはそらぞらに好きな時にきて、好きな時に帰ることが出来るから授業がない時にもここにきて自由に過ごしたりしてもいいよー。宿題もあるし」
え、ここにも宿題なんてものがあるのぉー…?って苦い顔をした私に気が付いたのか、
「ころなちゃん、大丈夫、大丈夫。宿題といってもあまり量はないから。休日にやればすぐだよ」
すぐさまフォローされた。
ふーん、そうなんだー。
っていってもさ。
それ、あくまで「普通」を基準にしてるよね?
私、勉強苦手だから。学校の宿題も休日をつかってやっと終わらせてる人だから。
これピンチだよ?
空使いの勉強を優先すれば学校がおろそかになるし、学校を優先すれば空使いの勉強がおろそかになる。
うぅぅ…想像しただけでもふるえちゃう。
勉強に追われる日々なんて地獄にしか思えないのですが。
「じゃあ空紐の説明に戻るね。あ、ちなみにこのチカラのことを、「
ほー、なるほど。なんかちょっと、素敵な名前じゃない?
「空紐は、「心」がエネルギーやパワー、つまり原動力となる。これは空紐だけでなく、実はこの世界の全てがそうだといえるんだ。だけど、生物と物ではエネルギーとする心の種類などがちがう。人などの生物は笑顔や明るい気持ちがパワーとなるが、物は、生物がその物を信じる心や忠実な心がどれだけあるかがパワーとなる。」
「そして大事なのは、空紐は物に属すということ。いや、物の特徴を利用して作られたのが空紐だといった方が正しいね。さっきも言ったけど、物は生物の心に左右されて、しかもその心を直接使う訳ではなく、一つのことがらをどれだけ信じる心があるかからエネルギーが作られる。まったく難しく、よくわからない話だが、これは昔の書物とそれを検証したそらぞらの研究チームがいってるから間違いはないんだよねー」
む、難しすぎるよっ!
話し方も内容も!
あ、ああ頭がパンクしそう、うぅぅ………。
「……あのう、楓さん。授業を中断するようで申し訳ないのですが、夏野ころなさんがフリーズして、ます。」
それからしばらくたったころ、異変に気付いた倉畑くんが楓さんに告げてくれて、その後授業は一時中断。
さっき柚ちゃんを運んだ救護室に、今度は私が運ばれた、そうです。
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