第6話 空使いってなんじゃそりゃっ!

「ついた。ここだよ」

ふっと目を上げるとさっきのきらびやかな所とは別世界。

素敵だけどぐっと落ち着いた印象。

「ちょっと遠かったから疲れたかな?『そらぞら』は広いし、僕の部屋は一番端にあるから」

楓さんは言った。

「あ、いえ、そんなことないので大丈夫です」

「あはは、そんな気を使わなくてもいいのに」

いや、本当にあっという間だった。

ウィイイン

止まりたいなと思った時に、ロボットがそれを感じ取ったかのように止まった。

おそるおそる降りるも、抜群の安定感。ロボットは顔らしい部分の液晶画面に絵文字のような顔を浮かべて、しゃべる。

「ご利用ありがとうございます。お仕事頑張ってくださいね。Have a nice day!」

「たのもうくん」の笑顔につられてなんとなく、私も笑顔になった。

こういうとこ、ちょっと生みの親の楓さんに似てるかもね。

「さ、中にどうぞ」

「あ…失礼します」

『波風 楓』というネームプレートがかかった重々しいドアの中に入る。

そこにはいかにも社長室のような黒の革ソファとガラステーブルがデーン置かれているかと思ったのだけれど。

革ソファとガラステーブルの代わりにあるのは白と茶色のストライプクッションが置かれた木の椅子と、まん丸い木のテーブル。

それと木でできた二人掛けソファ。

部屋の片側にはこれまた木でできた本棚があり、反対側には飾る用のオレンジテント。仕事机や椅子はなく、本来それがあるであろう場所にはロッキングチェアがおいてある。

「なんか、素敵」

「あぁ、自分の部屋の内装は基本自由なんだよね。僕の部屋はたしか………ウッドテイストって言ったっけ」

楓さんが私の気持ちを読みとったかのように説明してくれる。

「楓、そろそろ説明できるか?」

「まさか、忘れてないわよね?」

わっ、そうだった!

現実に戻される。 

「おっと、そうだ。説明ね。よし。じゃあ、そこ座って」

私は、意を決して、ソファに腰を下ろした。

「じゃあまず何から説明しようか。…単刀直入にいうと君は、空使いだ。」

楓さんは言った。

たんとーちょー?そら、づかい? 

「単刀直入、だ。バカ」

男の子が横からつっこむ。

………バカですいません。

「そして空使いとは。簡単にいうと天気を操れる人のことなんだよ」

………は?

テンキヲアヤツル?

「すいません。今、天気を操るって聞こえて。もう一度言ってもらってもいいですか?」

「ふふふ、君、面白い人だね。そう、天気を操るんだ。君が言ったこともきいたこともまったく聞き間違いじゃないから大丈夫。」

いやいや大丈夫じゃありませんって。

そんなファンタジックなことあるわけない!

けど。

あの瞬間移動しゃぼん玉を見てからは心のどこかで信じれちゃう自分もいる。

「あ、あはは。楓さん、今日って4月1日でしたっけ?冗談はやめてくださいよ」

「エイプリルフールはもうとっくに過ぎているし、これは冗談でもウソでもない。第一、僕がこのような場で冗談を言うタイプに見えるかい?」

…………見えません。そしてその笑み、怖いです。

もうここに居る以上、それが現実なんだと受け止めるほか選択肢はないみたいだから、とりあえず頷いたけど。

さすがにまだ、信じられるわけじゃないんだからね!?

「ほほう、まだ信じれてないみたいだ。しょうがない、これを見たら、気持ちも変わるかな」

そういってこちらに渡されたのはタブレットパソコン。

開いてみると、動画があったから、再生ボタンをポチっと押してみた。

『こんにちは。雲の空使い、夏野未奈と申します。今日は、そらぞらの皆様に新たに発見されたデータと、その解析、私の考察についてお話させていただきます。まず、こちらの資料を………』

こ、これって………

「お母さん!?」

間違いないよ!今日見た夢の中で会ったばかりだもん!

しかも、お母さん、雲の空使いとか、そらぞらとか、ここのワード言ってるし…

ってことは、ほんとってことだ。

その動画には手から雲を出して説明に使ってる部分もあり、まさに徹底的証拠だ。

もう信じるしかない。

とりあえずそれからの説明を簡潔にまとめると、こうだ。

天気を操れると言ってもここにいるすべての人たちが天気を操れるわけではなく、三つ条件がある。

一つは十二才以上であること。

二つ目は決まった家系の子供であること。  

三つ目はその家系の子供の長男、または長女であること。

これに該当する者だけが空使いの資格がある。

もちろん使いこなすには様々な条件をクリアしなければならない。

そもそも空使いとは「天気」とされているもの、それから連想されるものを操れる人。「日」、「雲」、「雨」、「雪」、「風」の五つの役割がありそのいずれかに1人ずつ就くそう。

任期は10年ほどで子供が生まれたら、その時から、ゆっくりと、その子供に力が受け継がれていく。

そして、ここ『そらぞら』は元空使いや空使いに助けられた人たちが情報を集めたり、空使いがもっと活躍できるように環境を整えたり、その他様々なサポートをするところ、なんだそうだ。

そんなすごい力がどうして一部の人間に授けられるようになったのかは不思議だけど、それを面白く思わない連中ももちろんいて。

その「闇霧」と名乗る連中は、空使いに力を貸す『そらぞら』の人たちの弱みにつけこんで「ココロ」を奪っていく、悪魔みたいな奴。ココロを取られた人は皆、植物状態になるそうだ。そうなったら『そらぞら』も機能しなくなって奴らの思惑通りになっちゃうってわけ。

だから『そらぞら』の人達を守ることも空使いの使命。

……力があるから敵対する、敵対されるから力を使わなくちゃならない、なんだか悪循環な気もするけど……

おバカな私には難しすぎて、よくわかんないや……

以上!

約1時間半の説明をだいぶすっ飛ばしてまとめましたっ! 

そして、私は代々、空使いの「雲」にあたる人だそうです………。

ちなみにここにいる男の子は「雨」、女の子は「雪」だそうで。

でもでもっ!

私なんかができるのでしょうかそんなことっ!

しかもそれに対する知識と技能の育練習もあるそうで。

いやだよぉ、勉強とか超ウルトラスーパー苦手なんだけど………。

楓さんは、「とりあえずやってみましょうか」って。

「やってみなきゃわからないでしょう?」とも言ってた。

明日・土曜日に初日授業があるらしく、流されるまま、もう一度ここに来ることになってしまいました……。

しかも案の定このことは普通の人間にはヒミツだそうです……。

わぁぁっ。ふうになんて言い訳しようっ。

「それにしても、あの未奈様の娘がこんな子なんてね」

「うーん、まぁ思っていたのとだいぶ違うけど……」

部屋の隅で、静かに話をする二人。

こそこそのつもりだろうけど、こっちにもばっちり聞こえてるんだからねっ!?

「……私のお母さんが空使い……」

声に出してもいまいちピンとこないよ。

女の子がツカツカ歩いてきて言った。

「えぇ、そうよ!未奈様は空使いとして有能だっただけじゃなくて、そらぞらの発展や教育、研究まで、あらゆることができて、そらぞらのために尽くしたのよ!」

「あぁ。しかも一番すごいところは実際の戦うときの機転だ。それが完璧にできるのが未奈様だったってわけ」

うわぁ……お母さんってそんな人だったのか……。

まぁ、さっきの動画もすごかったけど。

そりゃあ私なんかが、その家系にいるのはお門違いってことだね。

それにしてもさ、二人とも、この話題になったらすっごく熱く語らない?

「蓮斗と美零は未奈さんを崇拝しているんだ。十二才まではそらぞらに深入りはできないのだけど、蓮斗と美零はどうしてもここのコトを知りたいと言って聞かなくてね。そこで彼らに見せたのがさっき君に見てもらったようなタブレット。そこでいつのまにか大ファンになったわけだよ」

楓さんが解説してくれた。

「そう……なんですか……」

あぁー、初めて会った時の二人のキラキラした目、そしてその後のトゲトゲしい態度はそれが理由かな。

憧れの人の娘に会って、期待外れだったんじゃあ、落胆もするよね。

「えと、なんか…ごめんね?」

上目遣い気味で謝ると、不思議そうな顔をされた。

「なんでだ?夏野が謝ること、なにかあったか?」

「…もしかして、なにかやらかした、とかじゃないでしょうね?」

その予想と大幅にずれた反応に、なぜか笑えてきちゃって、ふきだす。

「はぁ?なに笑ってんだ?」

「気持ち悪いわよ」

「なんでもないよ。私よりお母さんのことたくさん知ってる二人がちょっとうらやましくなっただけ。お母さんを好きっていってくれて、ありがとう」

私がそういうと、二人して押し黙ってしまった。

口が悪いだけで嘘のないこの二人。結構好きかもなって思ったのはまだナイショにしておこう。






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