第4話 ナゾの会社「そらぞら」

「割れてどこにしゃぼん玉もどきが封筒でトラベルして!?」

…………我ながら何言ってんのかわかんない。

でも。

自分で言っちゃうけど、無理はないと思うっ!

目の前は見渡す限り色付きの大理石で、高級感あふれるひっろーい宮殿!

たっかーい天井のてっぺんには不思議なマークのステンドグラス!

おまけにあっちにもこっちにもおかしな形のロボットに乗った人たちが、せわしなく動いてる。

しゃぼん玉もどきに触れただけでこんなとこに来ちゃったら、誰だって驚いて意味わかんなくなって混乱して取り乱して慌てるでしょ! 

「な、な、一旦落ち着け落ち着け」

「そうよ。何も気色悪い怪物が襲ってくるわけじゃないんだから」

そう言われても!

わけわかんないものはわけわかんないし!

ってかそもそもあなた達は何者なんですか!人間じゃないでしょ!?

むしろヒートアップしてる私を見て二人は視線を交わす。

その目が「大丈夫なの、この子。」「何も言わずに連れてきたのは失敗か。」って言ってて。

いやいや失礼でしょっ!!!

考えてみれば今日初めて会ったばかりなのに、いきなりこの待遇はなくない!?

と、その時。

「あれ、どうしたの?」

やけに落ち着いた大人の声がした。

心の中が波打ったように静まる。この人の声を聞いたら、なんだか落ち着いた。

「あ、楓」

楓と言われた人は、スーツ姿の男の人。

ゆっくり話す人で、柔らかい笑顔を浮かべていた。

「ねぇ楓。この子、未奈様から何も知らされていないようなのよ。おかげでずっとパニック状態。ここの世界のことを全くわかっていないんですって。説明をしようにも私たちでは荷が重い。ってことで、楓から説明してもらえない?」

「へー、そんなことがあるもんなんだね。まさか未奈さんが……。」

まったくあの人はしょうがないんだから、と言いたげだ。

お母さんとは仲がよかったのかな。

と、その人がこっちに振り返って、笑いかけた。

「君が夏野ころなさん?『そらぞら』へようこそ。

…いやぁ、いわれてみれば未奈さんに似ているなぁ」

まただっ!また私の名前知ってる!

どうしてここにいる人はだれでも私の名前を知ってるんだっ!?

「私、あなたと会ったことありましたっけ?」

ポロっと口から出た言葉。

あれ、私、今失礼なこと口走った!?

自覚するも、もう遅し。いったん出た言葉は戻らない。

ごめんなさい、とか、そんなつもりじゃ、とか言い訳をして、この場から逃げたくなる。

でもその人は嫌な顔は一つせず、「自己紹介が遅れたねぇ」といって、名刺を取り出した。

「波風楓です。空使い育成教員で第71期生で、君たちの教科担任を勤めることになりました。でも先生っていう柄じゃないから、楓って呼んでくれていいよ」

なんか、すっごくフレンドリーな人だ!

わたしたちの教科の担任とか……ソラヅキンとか……どういうことかわからない。

私、転校の予定はないけど?

「かっ楓……さんっ。よよよろしくお願いします!」

とりあえず先生なんだって聞いて、初めて目上の人を呼び捨てにしようとしたことに勝手にいたたまれなくなった。

楓さんは、そんなガチガチな私を緊張しすぎって笑ってくれる。 

いい人なのかも?

その時、男の子が大きな声をあげる。

「ってえぇっ!?楓、おれたちの教科担任になったのかっ?」

「この人選は流石にまずいのでは……?」

「おいおい、二人ともひどい言いようじゃないかぁ?僕もやるときはやるよ?それに僕は君らの教員だ。成績、下げてもいいんだが。」

あやしげにニヤッとする楓さん。

「おい。まだ何も始まってないんだぞ?何の成績を下げようっていうんだよ。」 

「それに、仕事に私情は禁物よ」

「あ、それもそうだね」 

あまりにも仲がいいのが気になって、聞いてみた。

「楓さんと二人はどんな関係なの?」

「そーねー。昔馴染みといったところかしら。お母さんやお父さんがここで働いている間、遊んでもらったのが最初ね」

「おれらが楓の失敗をカバーしたこともあったな」

へ、へぇ!

二人は小さいころからここに来てたんだ……

それにこんな会社で仕事をしてる楓さんの失敗をカバーって……?

いつのことなのか知らないけど、子供でそんなことできるなんて、やっぱりこの二人、天才なんじゃない?

「じゃあ、とりあえず、ゆっくり話ができる部屋に行こうか」

あ、どうやらやっと説明してもらえるみたい。

楓さんは近くにいたロボットを4台呼んで、私達に乗るように誘導する。

私はおそるおそる足を乗せた。

うわぁ、こんなの初めて乗ったよ!

「す、すごい…………」

思わず驚きの声を漏らす。

すると楓さんはふっと笑った。

「驚いた?このロボットたちはここでの生活をお手伝いしてくれるロボットなんだよ」

へー。そんなロボットがあるなんて、ここはすごい会社なんだろうな。

「その名も『たのもうくん』‼」

た、たのもうくん?

困惑する私をよそに、楓さんはドヤ顔しながら続けた。

「みんなのために僕が作ったんだよ。ね、いい名前でしょ?」

「ソ、ソウデスネ」

すると、ロボットをなれた手付きで操作した女の子がすーっと隣にやってきた。

「この人、ネーミングセンスが壊滅的なの。頭はこれ以上ないぐらいいんだけどね。ま、覚えておいて」

耳元でコソッと話すと、言いたい事は言い切ったとでもいいうように女の子はもとと同じ位置に戻っていった。

私の勘違いかもしれないけど、楓さんは天然も入ってるんじゃないかな………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る