第28話 幼馴染ちゃんは諦めない!
早姫姉の自爆作戦により、俺と早姫姉の関係については「他人に口外しない」ことで、話は決着した。
その後は、京都観光へと戻る。口止め料がわりだと、女子二人が食べ歩いた代金は、全て早姫姉が払っていた。
「抹茶たっぷりソフト、これ何本でも食べれるな〜」
「だめだよー、茜。お腹壊すんだから」
「大丈夫。あたしの胃まじつよだから」
茜も、星さんも、まるでなにごともなかったかのように楽しそうにしていた。
「幸太も食べる? 口開けて」
「……俺はいいよ」
「なーんだ、もったいない。今なら一口ワンコインの大セール中だったのに」
「金取る気だったのかよ!」
「あたしの五百円玉貯金が狂った〜、おこ案件だぞ、これー。今年中にはハワイ旅行に行く予定だったのに」
「いや、俺から絞ろうとしすぎだろ。そんなにお小遣いもらってないっつの」
「その時は、あたしの五百円玉のためにバイトしてくれたら、大サービスで二口あげる☆」
やけにご機嫌になった茜につられて、俺も二人に加わる。
ただ早姫姉だけは、常に一歩後ろを歩いていた。
生徒を見守る、教師としてあるべき姿。……というよりは、なにやら思い詰めた様子に見えた。
それは午後四時、スタート地点の広場で終礼をする際になっても変わらない。
「では、解散とします。……えっと、すぐにお家に帰るように、その、お願いします」
歯切れの悪い締め方だった。いつものキレは見る影もない。
けれど、それしきで中川クラスの統率は乱れない。
「こんな時こそ、速やかに動きましょう」
代理リーダーたる委員長の号令に、全員が不平一つ言わず従っていた。訓練されすぎていて怖くなった。
もちろん俺も寄り道などしなかった。茜と星さんと、電車で地元まで帰ってくる。
最寄り駅で、反対口に家のある星さんに手を振り、
「あーあ、玲奈の家がこっちならなぁ」
「俺といるのが嫌なら、一人で帰るけど」
「そうじゃないっつの。前までは幸太でもよかったの。家隣だったしね。でも今は、幸太も途中までしか一緒に帰れないじゃん」
幼馴染と二人。夕暮れの住宅街を分け入っていく。
「それにしても、まさか、中川先生と一緒に住んでるなんてなぁ〜。それも初恋の人で、いとこって、正直めちゃくちゃすぎて、なんだかわけ分かんない」
「……全部本当だからな。俺も最初はそう思った」
「違う違う。あたしが分かんないのは、幸太」
「俺? なんで、どこが」
「本当にあたしの知ってる幸太? 誰かが化けてるんでしょ。怪人二十面相なんでしょ」
茜が隣から、俺の頬をつまみにくる。面の皮を剥がそうにも、一つしか顔はない。
「だって、あたしの知ってる幸太は、一日ゲームしてるだけで、他人なんてどうでもいい! そんな感じなの」
「即刻、俺への認識を改めろ」
「言われなくても、ちょっと見方変わった。だって中川先生のことは、しっかりかばってたもんね」
「……それがなんだよ」
「べっつにー? ちょっと変わったなぁってだけ」
ふと、茜の目が遠くなる。
ちょうど川沿いに出るところだった。河原に転がっていた石を、彼女は軽く前へ蹴る。
「それ、茜が言うか? ギャルデビューしたくせに。昔は石ころなんて蹴らない優等生だったろ」
「でも、あたしはずっと変わってないよ」
「いや、髪の色もスカートの丈も」
「ちーがーう。もっと根本の話をしてるの」
根本と言われても、ピンとこない。
俺はさっき茜が蹴った石を、軽く靴先で遊ばせる。茜の前へパスをした。
彼女はそれを思い切り蹴る。
「ねぇ、またセンセのこと好きになった?」
ゴール、とはならず。ガードレールに弾かれていた。ガーン、と鉄の振動する音が響く。
「……元から好きだよ。親戚なんだから」
「そういうことじゃないの分かってるでしょ。いけず」
なんの抗弁もなかった。俺は、ありのままを伝えることにする。
「悪かった。でも、分からないんだよ、俺も自分のことが」
「…………あっそ。ねぇそれってさ、まだ好きってわけじゃない、って考えていい?」
「……そうなるな」
「そっかそっか。なるほどなるほど♪」
茜は、急にご機嫌そうにくるくる回りながら俺の前へ躍り出る。
その度にスカートがひらひら、限界ラインまで揺れた。気を取られていると、くるっと俺の方を見る。
「ねぇ、この前のなんでも言うこと聞いてくれる約束。なにしてもらうか今決めた〜」
「……人生かけて尽くすのはナシだからな」
「うん。そんなんに比べたらもっと小さな話だっての。あのさ、ゴールデンウィーク中、あたしの家泊まりにきてよ」
「……え?」
驚きで、足が止まってしまった。
「いやいや、おじさんおばさんに悪いし」
「安心してよ。あたしの両親、いないから。出張なんだってさ。一人じゃ寂しいから、一緒にいてってだけ」
「……いや、もっとまずくない?」
「幸太がそういうことするなら、ね。あたしは拒まないよ」
「しないし、拒めよ。嫁入り前の娘なんだから」
俺のツッコミはさらっと川に流し捨てられる。茜は、企むように笑んだ。
「ちなみに、拒否権はないよ〜。なんでもするって聞いたし」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます