一人暮らしをしたいぼっちオタクな俺が、初恋の人兼いとこの美人お姉ちゃん先生と突然同居することになった件 ~姉が嫁入りしたいのは俺らしいし、ギャル幼馴染はぐいぐいくる〜
第17話 イヤホン分け合うシチュエーションはずるい。
第17話 イヤホン分け合うシチュエーションはずるい。
放課後、茜と通話を繋げた状態で、彼女には職員室へと向かってもらった。
俺はといえば、誰もいなくなった教室でイヤホンをつけて一人。聞こえてくる音に耳を傾ける。
でこを指で支えるようにしながら、気分は某ロボットものの司令官。
いわば傍聴作戦の遂行任務だ。
「……このポーズ疲れるな」
と言っても、まだ移動中なのだろう、カナルからは雑音が流れてくるのみだった。
少し気を抜いていると、
「なにしてるの一人で」
はっきりと、でもふんわり感のある声がした。ついに受話器の向こうで会話がスタートするのかと思えば、イヤホンの片方が外される。
コードを華奢な指が掴んでいた。その先を辿ると、そこにはクラスのヒロイン様。
なぜか俺の前の席にちょこんと鎮座していらっしゃった。
「星さんこそ、なんで? いつから」
「なんか悩ましそうなポーズ取り始めたあたりだよ?」
めっちゃ最初の方じゃねぇか。うわっ、恥ずかしい。
けれど、そこはマドンナ・星さん。俺の醜態には触れないでくれる。
「私は、茜待ってるの。それで、吉原くんは?」
「……音楽聞いてた、的な感じ」
「へぇ、なに聞いてたのー。私にも教えてくれないかな? 最近新しいの発掘したいなぁって思ってたの〜」
星さんは、全くためらいなくイヤホンの片方を自分の耳に入れる。ふわふわ綿菓子系美少女にぐいっと顔を寄せてもらえるのはこの上なくありがたいが、会話を聞かれるのはまずい。
「雑音しか聞こえないよ〜?」
「あぁ、えっと、電波が悪いみたいで」
「ふーん。じゃあ待つね」
待たなくていいんですが! あと、このまま顔を寄せた状態で待つっておかしくない? 俺のこと好きなんじゃね、って勘違いしちゃうよ、アホの男なら。俺とか。
「あ、そうだ。この間のゲームどうだった? 『夏色マジック』!」
「……あれはいいな、序盤でもう感動した。ヒロインのキャラもいいし」
「分かるな〜、私もあぁいうはかない感じになりたいなぁ」
星さんは、しっかりイヤホンの片方を握っていた。
クラスのアイドル様のお手を勝手に拝借して取り上げるわけにもいかず、
「あーやっぱり電波ダメっぽいな。今度にしよう。今度絶対教えるから!」
俺はあくまで紳士的にイヤホンの返却を要請する。
「……えー、でもなんか音するよー? あ、声聞こえた。って茜の声だ」
「ちょっ、待った!!」
間が悪いにもほどがある。茜は職員室についたようで、早姫姉の声もマイクは拾っていた。
「…………もしかして、盗聴?」
「断じて違う!!」
そうだと早姫姉に言われたら否定はできないが、茜には許可をとっている。
こうなった以上、仕方ない。俺が茜に話したのと同じ、建前を明かすと、
「面白そうなことしてるね♪」
食いついてしまった。星さんは、もう放してくれない。むしろ興味津々といった様子である。
いつもは品行方正なくせに、いざとなれば、ふざけられるタイプの人なのだ、この人は。だからこそキングオブ陽キャに君臨しているわけだ。
そうこうやっている間に、受話器の向こう側では、話が始まろうとしていた。
どうやら、個室へ場所を移したらしい。あたりの雑音がなくなっている。
俺は人差し指を立てて、星さんに静かにするよう合図する。
やや緊張した面持ちで、星さんは小さく愛らしい顎を縦に振った。なんだかその初心な感じが、妹っぽくて萌える。
だが、気を取られている場合じゃない。耳を澄まして会話を聞く。
「それで、坂倉さん。私に話があるということだけど、なにのことかしら」
「あー、うん。まぁ大したことじゃないんだけどねー」
「では先生は忙しいので仕事に戻りたいんですが」
うん、いきなり手厳しいな早姫姉。家で俺に向けている甘さは微塵も感じない。
「まぁまぁ、待ってって。……あー、そうだ。せんせー綺麗だから相談! 恋愛相談しにきたの!」
「……はい? そう言うと?」
「中川先生、かなり綺麗だからさ。モテてるだろうなと思って。なんか恋愛にばしーんと効くアドバイスくれない? それ聞いたら戻るからさ〜」
さすがギャルだこと。
相手の無関心を物ともしない反撃は、華麗だとさえ言えよう。
だが、致命的なのはその話題だった。よくない、それは本当よくない。うちの姉は、彼氏の一人もできたことのないスーパー処女お姉ちゃんなんですもの。
「せんせ?」
「……えー、あー、アドバイスでいいの?」
「うんうん。あたしね、こう見えて全然うまくいってないんだよね、アピール」
茜が苦戦する相手などいるのだろうか。一体誰だ……。首を傾げていると、星さんは胸ポケットからペンとメモ帳を取り出して、なにやら書く。無言のルールは守ってくれるらしい。
ペンとともに渡されたメモに記してあったのは、『鈍感な人だね』の六文字だった。
『全くだ。茜のアピールははっきりしてそうなのに』
こう書いて、返す。
なんだか交換日記みたいだ。それも聖女様との交換日記だなんて、明日には死ぬんじゃないかな。
夢見心地でいたら、でこをピンとはねられた。半目になったその視線には、しょうがない奴め、と込められている気がする。
えっ、なぜ。なにかしただろうか。あと、星さんは、なにしてても萌える。
そんなやり取りをしていると、しばらく無音だった電話の向こう、黙っていた早姫姉がなにやらぼそりと言った。
だが、音が遠くて、内容が聞き取れない。
星さんと二人して首を捻っていたら、茜が早姫姉のセリフをそっくりそのまま繰り返してくれた。
「大人の余裕を見せるのが大事、って言ったんだよね?」
「そ、そ、そう! それがあれば、恋愛なんてへのかっぱ!」
「……なにその言い回し。分かんないんだけど」
「ご、ごめんね、死語だった……?」
「うん、たぶん。で、たとえばどんなのが余裕?」
「そ、それは、えーっと……」
思わず笑いそうになってしまって、俺は口に手を当てる。それ早姫姉に一番足りていないものじゃん、と。
早姫姉はあからさまに取り乱していた。
やや完璧教師の鉄面皮が剥がれかけているらしい。
が、快進撃もそこまでだった。
「服装を正すこと。髪型をちゃんと整えること、その金髪がダメなの。言葉遣いを直すこと。これら徹底しなさい。それで十分よ」
キリッとした声に打って変わって、説教が矢の如く炸裂しはじめる。
「わーお。分かった、分かった。ありがとね〜、雪ちゃん」
「雪ちゃん? 先生のことを変な風に呼ばないでください」
「はーい、中川せんせ。じゃあ、これで! 帰るね、あたし」
嵐のような先生ムーブメントだった。
ここで、茜は退散を決めたらしい。
ノイズ音が耳に戻ってきて、俺と星さんはイヤホンを外す。
「なんというか強烈だったねー、中川先生。綺麗だけど、融通きかなさそう」
「……そうだな」
「約束一分遅れたら一時間説教されそうだよ〜」
「そこまでじゃないだろうけどさ」
なんて少し擁護してみるが、せんなき事。
マドンナ様の感想は、ごくごく素直なものだろう。
身内にはとことん甘く、外にはとことん厳しい。
これをもとに評価するなら、コミュニケーション能力は、二点が関の山だ。
それから性格評価も改める必要がある。俺ではない他人から見たなら、一点が妥当だろう。
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