第14話 お姉ちゃんのスキルは何点?
しかし、その翌日は波乱のスタートとなった。
寝る時はすんなり眠れたはずが、なんだか寝苦しくて三時ごろに目が覚めたのだ。
せっかくの休日に早起きする義理はない。
目さえ開けたくなくて、もぞもぞと寝返りを打とうとしていたら、むにゅんと、なにやら柔らかい感触にあたった。
温かくて、ボリュームもたっぷり、質感もいい。寝ぼけて、抱き枕かと思って引き寄せてみたら、
「……こうくんのえっち♡」
暗闇の中でも分かる。姉だった。
俺は状況を把握するまでに数秒を要した。冷静になろう、ステイカームだ。
まず俺の布団の中に早姫姉がいる。
次に、俺は早姫姉を抱きしめる格好で、キスしそうなくらい近い。最後に俺は、その夢をたっぷり詰めた胸に手を当ててーーーーー
「な、な、なんで早姫姉がここにいるの!!」
そりゃあもう、とっさに飛びのいたね。
完全にアウトだもん。
俺の男が目覚めちゃう。真夜中なのに、いや真夜中だから。
「ベッドじゃ寝れなかったからだよ。今日は私も布団の気分だったの」
「……じゃあ俺がベッドに行くから!!」
「ここにいてくれてもいいのに」
そうはいくまい。
俺は早姫姉の腕から逃れて、ベッドへよじのぼる。早姫姉は不満そうに、
「昔は一緒に寝よう、ってこうくんから誘ってきたんだよ?」
と口を尖らすけれど、相手にしてはいられない。
「だからいつの話だよ。俺はもうたこさんウインナーは卒業したんだ。今はシャウエッセンなんだ」
俺はふんと一つ息巻いて、ベッドの上、枕に頭を預ける。そして、思わぬ誤算に行き当たった。
寝具の全てから早姫姉の香りがするのだ。
鼻から息を吸い込むと、甘くとろけるような匂いの中に、ほんの少し汗の酸っぱさが混じっている。
胸のドギマギが急に高度を上げた。
「さ、さ、早姫姉、やっぱり交換しよ!? 俺布団がいいなぁ!」
こう言うのだけど、ベッド下から聞こえるのは、むにゃむにゃすー。規則的な息遣いだけだった。
…………寝てやがる。
完全に生殺し状態だった。ぎんぎんに目が冴えて(ぎんぎんなのは目だけだと強調しておく)、そして、そのまま朝を迎えたのだ。
「おはよ、こうくん。あれ、くまできてるよ。早く顔洗ってきな〜」
全く誰のせいだと思ってるんだか。
俺は半分しか上がらないまぶたのまま、ふらふら歩き洗面所兼風呂場へ。
適当に髪のセットまでして戻ってくると、朝ごはんができていた。
「どうかな! 今日はサンドイッチにしてみたんだ〜」
早姫姉がぱっと掌を広げた先には、立派な朝ごはんがある。
どうしたことか。昨日の朝は白ごはん、うずらの燻製、焼き鳥、という「仕事帰りにちょっと一杯セット」だったのに。
「早姫姉、今日は豪雨になるよ」
「失礼な! 快晴です〜。お姉ちゃんだって、こうくんのためなら、サンドイッチくらい作れるんだから」
細いウエストに手をやり、ふんと早姫姉は威張ってみせる。
ついその肌に目がいって、昨夜は彼女と一緒に寝たんだと思うと、恥ずかしくなった。俺は誤魔化すように、一つを口に入れる。
「い、いただきます」
一口噛んで、電撃が走った。未知との遭遇である。突然雷を脳天から落とされ、がくんとなにかが揺らぐ。
ぴりっと辛くて、なんだか生っぽい。これは温泉卵だ、それに七味がかかっている。そしてこの強い塩気は、……生ハムだ。
つまり中身は、生ハムユッケ。
「どうせそういうオチだと思ったよ! 美味いけど!」
「そう言ってもらえてよかった〜。これはね、お姉ちゃんのオリジナルなんだよ」
そりゃあそうでしょうよ。朝ごはんに、生ハムユッケ挟もうと思う奥様はたぶんいない。
「普通の卵と普通のハムって選択肢はなかったの」
「あったけど、やっぱり生がいいじゃん? そっちのがとろけるっていうか、舌にべったり絡みつく感じが高まるっていうか」
「朝から、連想しちゃう感じのやつ、やめてくれない!?」
「えー、なにをー?」
お茶を飲みつつ、とぼけ顔になる姉。本当に分かってないのか確信犯なのか。
男子高校生はちょっとでもエロ要素があったら、大概の言葉をそう受け取る生き物なんです。同棲するならその辺りはわきまえてほしい。
だが、ドン! と横の部屋から壁が叩かれて、俺は反撃の手を失う。
そろそろお隣さんには、謝罪に行った方がいいかもしれない。お詫びの品は、もちろん生ハムユッケサンドイッチ 〜酢イカを添えて〜。
本格的に調査を始める前だが、スキルのひとつ目、料理センスについてはこれで分かった。
ないわけじゃないが、おっさん感性に頼った冒険をしがち。五段階で言うなら、甘くみて、二点というところか。
無駄にエロいことによる減点、0.5点を含んで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます