【二章】お姉ちゃん育成計画っ!
第13話 お姉ちゃんと学ぶ高校生英語。
姉に素敵な彼氏を作る。
そのために魔法使いとして、ラストシンデレラたる早姫姉を素敵にプロデュースしてやる!
そしていつかは俺も夢の一人暮らしを。
こう決意をしたはいいけれど、それから数日、早速俺は行き詰まっていた。
どうすればプロデュースできるか見当もつかない。
このダメ姉にどうにか彼氏を作ってやる。
目的だけは立派で、手のうちは空っぽだった。
そんな状態で、漠然と素敵な相手を見つけようたって無理な話だ。
なにかいい案はないものか。捻り出そうとしていて、
「こうくん、聞いてる?」
耳元をそわっと撫でた姉の声に、はっとした。はわわ、とした。
じとーっとした視線をすぐ隣から感じて、俺はうんうん慌てて頷く。
四月も中旬になった金曜日夜の九時、家。
俺はローテーブルの前、ソファに座り、教科書と問題集を前にしていた。スマホもゲームも漫画もラノベも、手元にはない。
あるのは、言うなれば屈辱だけだ。
「実力テスト下から二番目、240人中239位のこうくーん。聞いてるー?」
「それ掘り返さないでもらえるかな!?」
「職員室でも話題だったよ。ベッタはデットヒートだったって。賭ければよかった、って」
「……生徒の成績で賭けって先生としてどうなの、それ」
俺は、控えめにだけつっこむ。
テストの件を持ち出されると、どうしても立場が弱かった。
さすがに、俺だって反省はしている。
まさかそんなに自分がバカだったなんて、とテスト返却があった時には思わず紙に顔を突っ込んで破いてしまったくらいだ。
だが、事態を重く見たのは、当の俺より早姫姉の方だった。
このままじゃ進級さえ危ういと踏んだらしい。それ以来、姉は毎日のようにこうして勉強を見てくれるようになった。いや、見られてしまうようになった、と言う方が正しいかもしれない。
「はいはい。言われたくなかったら、勉強するよ。この例文訳してみて」
「……分かったよ」
「そんなしょうがないなぁって顔しないの! ニコッとしてなさいっ!」
ぷくっと姉は頬を膨らませる。
全然怖くなかった。むしろどんぐりを蓄えたリスみたいで可愛いらしい。
個人的には、いつもの三割増だ。
普段は下ろしている長い髪を二つくくりにした、いわゆるお下げが特にいい。俺が思い描く理想のヒロイン像に必須の髪型だ。
そのうえ、くっきり凛とした頬の輪郭、艶々とハリのある肌に桃色の唇。
二十四になってこの美貌というのはかなり稀有なことなのではないかと思う。勉強せずにずっと見続けていたい。もしくはデッサンの授業に変更してほしい。
「なぁに、お姉ちゃんに見惚れた?」
「ち、ちげぇよ。すぐに訳すから」
「待ってるね♪」
優しく笑う早姫姉。
それをみていると忘れそうになるが、その裏には誰もが恐れる鬼教師がいることもまた、押さえておかなければいけない要素だった。
新学期が始まって一週間。
学校でも、彼女の厳格さはもうすっかり有名になっていた。
美人だけれど怖いから、と「雪女教師」なんてあだ名とともに噂をされている。
不真面目な態度を取り続けようものなら、俺とてブリザードを浴びせられるかもしれない。
仕方なく、俺はペンを握り文章を読む。
なんとか訳してみると…………
「私は姉と二人で暮らすことができて幸せ……………、えっと?」
「ん、どうしたの? 早く続き読んで」
促されて、胸にわいた違和感は放り投げ、俺はまた訳す。
「私は姉を一生大事にすることを誓います……?」
「わぁ嬉しい!! お姉ちゃんもこうくん大事にするね♡」
姉が倒れかかるように俺の両肩を掴む。
香ったバニラのような匂いに、くらっとしていると、彼女は下から俺の顔を覗き込む。
挑戦的な色気が、吊り上がった口角に宿っていた。
「さ、さ、早姫姉!!? 勉強するんじゃなかったっけ!? ってかなんだよ、このシスコン極まりない例文は!!」
「刺激的なことがあると、お勉強が頭に入りやすいらしいってこの前テレビで聞いたから導入してみたの!」
姉はごろんと俺の膝に頭を置きながら、人差し指をピント立てて、豆知識を披露する。俺のもも上で乱れた髪が、なんだかえっちい。あと首元から熱が伝わってきて困る。
「強すぎると、違うことしか記憶に残らないんだけど……」
このままだと残るのは、悶々とした欲求のみだ。しかし、
「さっきの文章はね、thatが関係代名詞でーー」
「えっこの体勢のまま説明始めるんだ?!」
「逆がよかった? お姉ちゃん膝枕得意だよ」
「そういうことじゃない!」
全く勉強させたいのかそうでないのか。
俺は意地になって、それでも姉に怪我はさせないようそーっと横へずれる。自らノートを引き寄せ、必死に勉強モードに切り替えた。
切り替えボタンがあったなら連打ものである。
しかし次の文章も、姉バンザイ三唱といった内容だった。
「もしかして……この問題集、早姫姉の自作?」
これら全部、早姫姉が作ったオリジナルだとすれば、無駄な努力がすぎる。だが、んっと湿った声とともに起き上がった早姫姉は、首を振る。
「市販だよ。『お姉ちゃんと学ぶ高校生英語』って言うタイトルなんだ」
少し世の中が怖くなった俺だった。
そんなにシスコンがいるとは。出生率が低いわけだ。よくは知らないけど。
もう気にしないことにして、俺はなんとか勉強時間を乗り切った。
「お姉ちゃん先にお風呂入っていいかな?」
「うん、いいよ。それくらい」
「やった! ありがとう〜、優しいね。こうくん。あとは勉強さえしてくれれば完璧なのに!」
「……今度からな」
「ね! 一緒に入る?」
「今度からな」
あ、適当に答えすぎて間違えた。
「今のなしで!!」
「言質取ったからね♪」
姉はお下げを揺らして、やや下手くそな小躍りをしながら、風呂場へと消えていく。
勉強道具の片付けをしていたら、ふんふん上機嫌な鼻歌とシャワーの音が部屋に響き始めた。防音性の低いワンルームでは、これくらいしょうがない。
とはいえ、ずっと耳にしていたら、イケナイ妄想が広がりそうになる。もわもわ、泡が浮かんでくる。その泡に包まれているのは、あられもない早姫姉の身体でーー
はい、ここまで!!
打ち消すため、ぱんと手を打つ。それから俺はイヤホンをつけて、姉にしまわれていたゲームを始めることにした。
ノスタルジーな音楽と声優の優しい声に、一点集中する。
今プレイしているのは、いわゆる田舎ものだ。
夏休みに田舎に行き、そこで不思議な少女と出会って恋に落ちたりなどする王道ギャルゲーである。
「泣けるから、とにかく泣けるから!」
とは、クラスのマドンナ兼オタクでもある星さんの推薦文句。
なにも言ってないのに鞄にソフトを詰められれば、もうやるしかなかった。
そしてこれが実際面白い。舞台の雰囲気に合うスローなストーリー展開もいいし、キャラの配置もいい。
メインヒロインの属性は、静かで儚げな後輩キャラで、サブヒロインは元気っ子の先輩という構図も、テンプレだがバッチリだった。
点数にするなら、今のところ百点中の九十二点。減点要素は、この先の展開が大体読めていることだ。
俺はBGMを堪能しながら、スマホのメモ帳機能を開く。独自でつけている作品分析シートを記入していった。
趣味が高じて二年前からつけ始めたものだ。分析した作品はすでに三百を数える。
えっなぜそんなものを、って? 簡単な話だ。人におすすめする時に便利だからである。
前提条件である友達いないけど、気にしたら負けである。趣味の前では批判に鈍感でなくてはならない。
ーー容姿、性格、コミュニケーション力、スキル、ファッション。
ヒロインに関するチャートグラフを埋めていて、はたと閃いた。
これ早姫姉にも使えるんじゃね、と。
早姫姉をよく観察し、ゲームのヒロイン同様に分析する。
そして長所と短所を明確にしたうえで、どこを伸ばせばより魅力的になるかを探れば、いいじゃないか!
「……ヤッベもしかして俺天才かもな。ブービーだけど」
素晴らしい頭の転回だ。我ながら天才すぎて、にやにや、ひとりでに笑えてしまう。
もっとも、より偉大なのは気づかせくれたゲームの方だが。
善は急げと言う。
幸い明日は土曜日だ。早速明日から調査を開始することにして、その日は眠りについた。
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今日から二章! よろしくお願い申し上げます。
学生の方、社会人の方などなど皆さまお忙しい中、たかたの作品をここまでお読みいただきありがとうございます。
二章以降も引き続き頑張っていきますので、
どうかご贔屓にしてくださいませ!!
少しでも面白い、続きが読みたいと思っていただいた方は、
ご祝儀にフォロー、お星様ぽちっとくれたら嬉しいです。
コメントもどしどしお待ちしてます。こんな展開がいいな〜とかでも!
では、これからもよろしくお願いいたします!!!
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