一人暮らしをしたいぼっちオタクな俺が、初恋の人兼いとこの美人お姉ちゃん先生と突然同居することになった件 ~姉が嫁入りしたいのは俺らしいし、ギャル幼馴染はぐいぐいくる〜
第12話 【お姉ちゃん視点の番外編】いとこって結婚できるんだよ?
第12話 【お姉ちゃん視点の番外編】いとこって結婚できるんだよ?
もう二十六になる年の、春先。
「幸太くん一人暮らし始めるんだって。早姫、あんた一緒に住んであげたら?」
お母さんからこう話をされた時、私は最後のチャンスが来たと思った。
たぶん世間的にはあんまり印象のよくない、でも私にとってはこれしかない。そんな切実な恋心を果たす、最後の機会が。
♢
この春に再会するまで、こうくんとは数年会っていなかった。
それもそのはず、私が意図的に避けてきたのだ。ばったりでも顔を合わせないよう、わざと親戚の集まりには参加しないよう心がけてきた。
本当は会いたくてたまらなかった。お姉ちゃん、と親しげに呼ぶ声が聞きたかった。
でも、そうしなかったのは、うんと年下、それも親戚である彼に、許されざる好意を寄せてしまっていたからだ。
それが普通の恋ではない。みんなが軽蔑するような思いなのは、もう大人、十分に分かっていた。
だったら封じ込めておかなくてはいけない。
もちろん、はじめから彼が特別だったわけじゃない。最初は可愛いだけの親戚の男の子だった。
唯一の従弟という以上の存在ではない。可愛くは思っていたけれど、一般的な親戚の範囲での好意だ。
でも私が大学二年生の夏休み、まだ幼かった彼が私の実家に遊びにきた時、それはがらりと変わった。
当時の私は、いつも一人ぼっちだった。
基本的に真面目で、そのうえコミュニケーションは苦手。気の許せない相手には、つい形式的な態度をとってしまう。
そんなんだから、私は大学生特有の軽い乗りや付き合いについていけず、友達はあまりいなかった。
授業のない夏休みは、下宿先から実家に戻って、日がな家で過ごすことがほとんど。めくってもめくってもカレンダーに予定は現れない。
そんなモノクロな生活を送っていたある日、こうくんが突然家にやってきた。それも二週間も滞在するのだという。
「お姉ちゃんなんだから面倒みてあげてね」
最初は、そう母に言われても、気乗りしなかった。
私は可愛い従弟に構いたかったけれど、遊び盛りの彼にとって年上の女がお目付役というのは、迷惑かもしれない。
「お姉ちゃん、遊びにいこっ!」
けれど、こうくんは一切の曇りない笑顔で私を外へ連れ出してくれた。
「でも、私いたら邪魔じゃない?」
「ううん! お姉ちゃんと一緒なら何しても楽しいよ!」
嬉しいの一言だった。
一人ぼっちだった私に、「一緒」という言葉は、救いにさえ思えた。
今でも、たまに思い返してはニヤニヤしてしまう。それから、胸の奥深いところがじーんと熱くなる。
こうくんの希望に答えて、とにかく夏らしいことはなんでもやった二週間だった。
幸い私の実家は離島で、海にも山にも事欠かなかった。小学生にとっては恰好の遊び場がたくさんあって、私も童心に返って彼と遊びまわった。
勉強を見てあげることもあった。
「お姉ちゃん、つまんない〜」
今と同じで、こうくんはとにかく馬鹿。すぐにこんなふうに音をあげる。
でも、やる気が全くないわけではなかった。
「ねぇお姉ちゃん英語専攻なんでしょ? 少し教えてよ」
規定の分量宿題が終わると毎日、私にこうせがんだ。
子供にとっては英語、というのは格好いいイメージがあるのかもしれない。
その時は素直にそう思って、触りだけを教えた。この時、人に教えることの喜びを知って、私は教師の道を選んだのだ。
一方生徒の方はといえば、
「俺のラブがヒートだ! どう、格好いい!?」
「あはは、格好良くないよ。むしろ大柴だよ」
全然理解していないようだったけれど。
とにもかくにも、こうくんは、色味のなかった私の夏を目一杯彩ってくれた。
私にたくさんの幸福をくれた。
二週間が経つ頃には、私はもうとっくに十近く離れた年下それも親戚の男の子のことが、好きになっていた。
同級生の男子には、全くときめきもしなかったのに。
こうくんが帰る前日の夜。
家の庭先で二人、花火をした。私はする前からお別れのことを考えて、もう寂しい気持ちでいっぱいだった。
はしゃいでいた彼に合わせることもできず、七色に煌く花火の先を眺めながら沈んでしまう。
それが乗り移ってしまったのかもしれない。最初ははしゃいでいた彼も、最後、線香花火をする段になった時には、少ししおれた態度になっていた。
「……お姉ちゃん、また会える?」
こう不安げに聞かれて、私はうんと頷く。
それと同時に、告白してみようかな、と少しだけよぎった。
「こうくん、お姉ちゃんのこと好き?」
「うん。好きだよ」
でも、結局できなかった。言えたのは、こんなどっちつかずのセリフだけ。
世間的にダメな恋だとはわかっていた。それになにより、私の一方的な思いで、彼を困らせたくなかったのだ。
だから翌日、私はただの姉のように振る舞って、こうくんを船着場まで見送った。
それまでは笑顔でいたけれど、船が見えなくなった後には、ぼろぼろと泣いてしまった。
顔を赤くはらして、家に帰る。
まず部屋の片付けをすることにした。少し散らかった家の中は、彼のいた形跡がたくさんあって、いるだけで彼のことを思い出してしまう。
たとえば小机もそう。二人で勉強した内容や交わした会話が頭をかすめる。
だから机ごとクローゼットの中に隠してしまおうとして、引き出しの中から見つけたのだ。
下手くそな字で書かれたノートの切れ端。そこには、
『ベリーに元気でいてね。I Love お姉ちゃん』、と。
「……だから大柴になってるってば」
こんなことを伝えるために英語を教えるようせがんだのだろうか。
そう思うと、私はまた泣いてしまった。今度は全然止まらない。
もしかしたら思いは通じていたかもしれなかったのだ。
でも、だったらなおさら諦めなければならないと思った。
小学生の「好き」は純粋だ。でもその反面歪みやすい。好きだからこそ、彼を私が歪めてはいけない。
それで、私はどうにか彼を忘れることにした。
教員試験の勉強に没頭して、もしどうしても思い出してしまったらお酒でごまかす。
けれど、どうしても忘れ切れないうちに教師になって四年目。
「幸太くんが一人暮らしするみたいなんだけど、勉強全然できないから心配だーって妹が嘆いてるのよねぇ」
「……こうくんが?
「うん。ね、どう? 向こうの学校に転勤して、幸太くんと一緒に住んで勉強見てあげてくれない?」
舞い込んだのは、私にとって大きすぎる話だった。
どうしたものかと、とても悩んだ。
もちろん一緒に住めるなら住みたい。でも、今の私は教師。生徒と住むなんてありえない。
一度は断ろうと思った。でも、冗談やめてよ、というはずが
「私、こうくんと住みたい」
口をついて出たのは、偽らざる本音だった。
「あらそう? よかった。妹も喜ぶわ」
言ってしまえば、もう撤回することはできなかった。
それで、私は腹を括ったのだ。
どうせ、騙し騙しやっていても、この恋はどこかへ行ってくれない。
ならば、ちょっと世間から変な目で見られようとも、自分の気持ちを貫こう、と。
だって、歳が離れてようが親戚だろうが、私はこうくんがいいんだもの。
それに、私は教員試験に向けて勉強した甲斐あってか、少しばかり賢くなっていた。
その知識は、私の背中をぐっと押してくれた。
いつか言える時がきたら、彼にも教えてあげなければ。
ねぇこうくん知ってる? いとこって結婚できるんだよ?
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