第4話 願いをさえずる鳥のうた
夏の空に僕は願った。七夕でも流れ星でもなく、夜ですらなく。昼間のとにかく眩しい太陽に願った。
僕のお父さんは外で働いている。夏の日も汗水足らして冬の日は白い息をはいて働いている。いつかの夏の日職場で倒れた。まだ僕が小さい頃、だけど早織ちゃんよりかは大きくなっていて、とても怖かったのを覚えている。点滴してまた元気になったけど、お母さんはそれから夏になると、かなり厳しくなった。
人は人と出会って別れて成長するとよくきく。僕はあんまり出会いや別れが好きではない。そりゃ大好きな人もいないだろうけど。とにかく苦手。つまりは春が苦手だ。卒業、入学、新入生歓迎会、卒業生を送る会なんかもある。雪が舞う空には桜が舞い散る。
小学生の頃夏休みに絵のうまい子が引っ越していった。そんなに遠くなかったから時々遊んだりもした。ほんのすこし冒険のような気持ちでその子に会いに行った。電車の切符を一駅分買って、窓の外にはよく知っているところからあまり知らない隣町の景色。駅からの道も手紙にかいてあって、やっぱり絵がうまかった。知らない公園で待ち合わせ、タイヤに腰かけるその子がほんのすこしだけ知らない人に見えた。僕を見つけると笑顔になって、よく知ってる彼女になった。
暑い夏の太陽さん、お願いします。絶対晴れにしてね。
僕も彼女のまねをしてお願いした。僕の心が空だとしてもきっとあの子のように、何も飛んでないんだろう。空っぽの空だ。
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