第3話 音色さえする鳥のうた

 あれは鳥じゃないんだよ、セミの鳴き声なんだ。朝とか夕方の涼しくなってきた頃に鳴くんだよ。


 モヤモヤするなか、しばらく行きもしなかった林に向かう。暑い時間帯は危ないのでヒグラシがカナカナ鳴き出したあたりに向かう。こんなに変わっていたのかと驚いた。林を抜けるとすこし開けたところがある。冬には雪合戦ができたところ、そこには物置小屋か休憩小屋のようなものがたっていて、なにかが植えられている。そりゃあたりの木も切るよなあ。仕方ない。木があったからといって僕が得することもない。ないからといって損することもない。


 そういえばいつだったかキツネも見かけたよなあ。タヌキも名前のわからない派手な鳥もいた。あと夜中にぎゃーぎゃー鳴くやつ。お母さんに怖がって聞いたらあれは鳥らしい。ほっほう、ほっほうってフクロウの声もする。トンビもよく飛んでいる。風に流されているようなときもある。ピンヨロー、ヒョロロロとかよく聞こえてくる。子どもの頃すぐ近くでみたことがある大きなくちばしと大きな爪の鳥はタカだったのかわしだったのか。未だにわからないけど、羽を広げて、剥製みたいにかっこよくて怖くて、一切動けなかった。しばらくするとどこかへ飛んでいってくれた。


 カラスの鳴き声で子どもの頃の思い出から戻ってくる。日も落ちて涼しくなってきた。今や喪失感を与えたあの林には家が何軒かできている。ヒグラシの声に負けないミンミンゼミがまだいる。

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