第5話 魔土宇器

「俺が相手だ!かかって来い!!」




 そう叫んだテクトだったが、実際は何も出来るとは思ってはいなかった。何故なら、謎の少女を見失ってから音の発生源を探し、やっと見つけたと思ったら…そこでは仲間たちが次々とやられていく悪夢の最中だったのだから。




 思考が固まりかけたテクトだったが、何とか仲間を助けなければ!と言う思いから、手に持っていた魔土を投げると言う暴挙を経て、現在の状況へと繋がったのだ。




 通常なら、土の塊を投げられた程度で近くの人間を放置してまで遠い獲物を追いかけたりはしなかっただろう。だが、直前まで人間に痛い目に遭わされていた事実が魔花たちをテクトへと向かわせた。そして…




「くそっ!魔花はこんなに速かったか!?記憶は当てにならないな」




 思った以上の速度で迫って来る魔花を前に必死に走って逃げようとするテクト。どこかに隠れながらやり過ごし、先にエクレアたちの所へ戻って救出すると言うテクトの作戦は、出鼻からくじかれる事になった。




 命懸けのレースが始まりどこが隠れる最適な場所か考えていた時だった。不意に、近くの地面から音が聞こえ



「くっ!?かはっ!!?」




 地面から飛び出て来た根を辛くもかわすも、それは誘導だった。直後に衝撃を受けたテクトが見たのは、思った以上に接近していた魔花、自分を蔓で殴る様に吹き飛ばした存在だった。




「・・・ぐっ」




 テクトは何とか立ち上がろうと必死に藻掻くが、身体が思うように動かない。それでも、何とか起き上がらなければと動かない足を動かそうとしている時だった。一番近くに居た魔花に、細長い剣が突き立った。それを成した者はやはり




「武器を持たないテクトを狙ってんじゃないわよ!私はまだ戦える!!」




 エクレアだった。ただし、どう見ても立っているのがやっとの状態だった。しかし、再び魔花はエクレアへと向かった。何故なら、倒れ伏した獲物と、先ほどまで脅威を感じていた敵、どちらを先に叩かなければならないかなど、悩む必要などないくらい明らかだったのだから。




「ま・・・て…!」




 必死に声を上げて魔花を止めようとするが、魔花は振り向きもせずにエクレアへと向かっている。幸いなのは、警戒からかゆっくり向かっているところだろう。だが、現状が変わるわけではない。




 もし、エクレアの元へと辿り着いてしまえば彼女がやられてしまうのは明らかだった。だからこそ、テクトは必死に立ち上がろうともがき、何とか立ち上がる事は出来たが




「くっ…」




 テクトが倒れた時の衝撃のせいか、視界が歪み朦朧としてしまい前のめりに倒れそうになった時




「大丈夫?お兄さん」




 またも突然現れた謎の少女が、テクトを支えたのだった。




「何で…」




 驚きの声を上げるテクトだったが、それよりもエクレアたちを助けなければと思い立ち、少女に声を掛ける。




「ここは…危険だ。すぐに…逃げろ…」




 何とか少女の支えもあり、自力で立てるようになったテクトは少女にそう告げてすぐに魔花を追おうと足を引きずるように動かすが…




「何で…そんなに頑張るの?」




 少女に抱き止められてしまった。普段なら簡単に振りほどけるが、今の状態のテクトでは難しかった。




「どいてくれ…あいつらを助けないと…」




 焦りや痛みなどから早く追いかけなければと言う意識ばかりが働き、テクトは少女の言葉を無視して仲間の元へと向かおうとする。少女にはどいて欲しいとだけ言い、彼女の問いには答えなかった。




 その態度のせいなのか、少女はどかずに引き留める手に力を込めて再び問いかける。




「お兄さん、もう一度聞くよ?何で、そんなに頑張るの?」




 テクトは再び問われ、さすがに答えないと先へと行かせてもらえないのかと思い、そこで初めて彼女を正面から見て気が付いた。何気ない質問のようだったが、彼女の瞳が真剣そのものであったのを。




 だからこそ、急がなければと思う思考の中、真剣に考え、答える事にしたテクト。




「あいつらは…俺にとって…大事な仲間なんだ…ここで諦めてしまったら…生き残れたとしても…絶対に後悔し続ける事になる…!!だから…急がないと!!」




 テクトは、相手が少女だからと誤魔化さずに、真剣に自分の気持ちを告白した。その答えを気に入ったのか分からないが、少女の拘束が緩んだ。




「ありがとう、お兄さん。真剣に答えてくれて」




 にっこりとほほ笑む彼女はとても愛らしく、現状を忘れて見惚れてしまうテクト。だが、すぐに仲間の事を思い出し、再び前に進もうとしたところで




「お兄さん、お仲間さんの所に向かう必要ないと思うよ?どちらかと言うと…私たちがピンチかも?」




 少女の声を受け、魔花に目を向けてみると、確かにこちらに向かってゆっくりと移動して来ていた。テクトは、慌ててエクレアの方へ視線を動かした。




「無理しやがって…」




 視界の隅に何とか倒れ伏してしまったエクレアを発見し、テクトは魔花がこちらに向かって来ている理由が分かった。エクレアが倒れて自分が起きた、そのせいだと。しかし




「何で…警戒するようにゆっくりと…?」




 先程追い詰められた時とは違って、ゆっくりと近付いて来る魔花に疑問を覚えたテクトだったが、それよりも少女と一緒に逃げなければと思い立ったがそれよりも先に少女がテクトの疑問に答えた。意外な物をテクトに渡しながら。




「魔花はこれを警戒してゆっくり近づいて来てるんじゃないかな?」




 そう言って、テクトに紫色の塊を渡す少女。




「なっ!?これは…」




 片手で受け取ったテクトだったが、すぐに両手で包むようにして落とさない様に持ち直した。何故なら、それは魔土だったから。しかも、色を見る限り




「これ…純度100%に近い魔土じゃないのか!?」




 まさに紫にしか見えないその塊は、間違いなく純度が高い魔土だった。100%とは言い切れないが、限りなくそれに近いだろう。




「これをどこで…?」




 どこから持ってきたんだ?と言う意味で少女に問いかけたテクトだったが




「お兄さん、そんな事を聞いている場合じゃないよ?早くそれで魔土宇器を作ってくれないと…私たち、死んじゃうよ?」




「っ!?」




 ふと見れば、魔花がこちらを囲むように集まっていた。何故攻撃してこないのかは不明だが、今すぐに何とか出来なければ危険な状況なのは間違いなかった。




「だ、だが俺は…」




 テクトは思わず躊躇する。あれだけ何度も魔土宇器生成を試みてダメだったのだ。追い詰められた現状で、成功させることが出来るはずがないと。




「大丈夫だよ、私がついてる。お兄さん、落ち付いて武器の姿を思い描いてみて?」




 魔土を包むように持っていたテクトの手を、少女はその上からさらに包むように添えた。そして、真っ直ぐテクトを見つめてテクトに魔土宇器生成を促して来た。




「しかし…」




「お兄さんはきっと、魔土宇器をたくさん見て来たんだね?そのせいで姿を一つにしぼれないんじゃないかな?」




「た、確かにそうかもしれない…」




 言われてハッと気が付くテクト。だが、それが分かったとしても…




「だが、それだと俺は…」




「だったら、私に似合う武器を想像してみて?私だったらどんな武器が似合うかな?って」




「は?いや、それは…」




「さすがにもう待ってくれないみたいだよ?」




 言われてテクトが周りを見回すと、確かに魔花たちがこちらに向かってゆっくりと動き出していた。




「くっ!?」




「落ち着いて?助かるには、魔土宇器生成しかないよ?そして、それはお兄さんしか出来ない…私を、助けて?」




 言われて再びハッとするテクト。そうだ、この状況を何とか出来るのは魔土宇器を作れる可能性を持っている自分しかいないと。そして、自分の武器を思い描けなくとも、目の前の独特な衣装の少女の武器なら確かに想像はし易いだろうと。ならば…




「大博打だ!絶対に勝ってやる!!」




 テクトは目を閉じて魔土に集中する。すると、不思議な事に焦りや周りの音などが消え、魔土から何かが流れ込むような不思議な感覚を得た。




(なんだ…これ?)




 そして、その不思議な感覚の中でテクトは一つの武器を思い描く。それは、少女に誘導された通り、テクトが少女に似合うだろうと想像した武器だった。その瞬間




 魔土から眩い光が放たれる。そして、魔土はその光の中で姿を変え…




「ありがとう、お兄さん。これが…お兄さんからの初めてのプレゼントだね♪」




「なっ!?」




 テクトは魔土宇器生成に成功した。その形は…




「すっごく素敵な大鎌だね♪」




 テクトが生み出した魔土宇器は、漆黒の大鎌。所謂、死神の大鎌だった。

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