第4話 襲撃

「はぁ…やっちゃったかな?でも、テクトが悪いよね?あんな言い方…うん、私は悪くないわ!」




 独り言で自分を正当化しながら、それでもとエクレアは考えてしまう。




「それでも…あれだけ真剣に頑張って来たテクトだけが魔土宇器を作れない何て…憤りを感じないわけないよね…言い過ぎたかな…」




 実際には、もう知らないから!と突っぱねただけであり、そこまで言い過ぎたわけではないが、恋する乙女は複雑なのである。




「・・・あ~、もう!考えるの止め!折角、魔土宇器を作成出来ちゃったんだからみんなで連携の訓練をしよう!うんうん、それが良いわよね」




 実は、エクレア達が魔土宇器生成に成功した理由の一端とも思われるのが、この戦闘訓練だった。テクトには内緒で行っている3人での戦闘訓練、それはそれなりに苛烈であり(主導がルイスのため)それぞれがすでに得意と言える武器を得ていた。




「私たちが、夢をサポートするために努力してるって気が付いているのかしら?あのバカは…」




 もちろん、魔花の事で頭がいっぱいのテクトは気が付いていない。彼女たちがテクトに恩義を感じていて、彼の夢をかなえる手伝いをするべく密かに努力を続けていることを。その一つが、武器を使った戦闘訓練だった。




「…あれ?もしかしたら…色々な魔土宇器を見て来たからこそ、テクトは成功出来ないんじゃないかしら?私たちは、逆に使い慣れた武器を一番に想像出来たのが大きいんじゃないの?」




 エクレアの想像は実は的を得ていた。テクトは、逆に知識を蓄え過ぎていた。そして、肝心の自分が使う武器のイメージが全く浮かばなくなっていたのだ。




 テクトは、自分のいくつか見て来た魔土宇器を思い浮かべ具体的な形を生成しようと試みていた。だが、その数はかなりあり自分では一つに集中しているつもりで、常にいくつかの形を想像してしまっていた。




 だが、エクレア達は常に自分の理想の武器の形を想像していた。だからこそ、噛み合い、魔土宇器の生成を一日で成功させることが出来たのだ。テクトのために頑張って来た事が実を結んだと言えるだろう。







 エクレアが準備をして寮のロビーとも呼べる場所に出ると、まるで待ち合わせていたかのように、ルイスとノティアが待っていた。不思議に思い、エクレアが二人に声を掛けると




「考えていることは同じという事でしょうね」




「そうだな!!それが友と言う者だ!!」




「・・・大声を出すのは止めてよね」




 すまん!!と笑い飛ばすルイスの声を聴きながら、内心では二人とも同じ気持ちでいてくれた事を嬉しく思うエクレアだった。







 奇しくも同じ目的だった友人二人を引き連れ、エクレアがどこで訓練しようかと悩んでいる時だった。何かが破壊されたような衝撃音が聞こえて来た。




 その後も、小さいが音が断続的に聞こえてきたので、これが異常事態だとすぐに把握出来た3人だが、そこでどうするかすぐに確認する事になった。




「私は様子を見に行きたい。音が聞こえてくる位置から考えて、そんなに離れていないだろうし、脅威が何か分からずに巻き込まれるのだけは絶対に嫌だから」




「そうですね。音の発生源に居る者たちがどうなろうと関係ありませんが、私たちに害をなす存在がいるかもしれません。早めに処分する必要があるかもしれません」




 相変わらずの過激発言をする友人に少し引きつる表情を無視し、エクレアはもう一人の友人に声を掛ける。




「ルイスはどうするの?」




「そうだな…危険かもしれんが、知らない事の方がかえって危険だとも言うしな…分かった、行こう!!何かあればこの筋肉で二人を守るから安心してくれ!!」




 力こぶを作って俺に任せろ!と言うルイスにも呆れた顔をしながら、それでも頼りになるだろう二人が意見を同じくしてくれる事に喜びを感じながら掛け声をかける。




「二人とも、急ぐよ!」




「はい!」

「ああ!!」




 二人の気合の入った返事を聞き、自分も気合いを入れ直したエクレアは、音の発生源の元へ急ぐのだった。







 現場に着いた3人だったが、早くも後悔するような光景が広がっていた。倉庫の様な建物が激しく破壊されていて、その原因となっているであろう生物が複数いたからだ。




 それは、魔花だった。魔花は今も破壊を続けており、近くには血の跡や倒れ伏した人間、さらには…




「・・・どうする?」




「俺としては、まだまだ未熟な生徒である我ら3人だからと言う理由で、撤退したいところだが…」




 珍しく弱気な発言をするルイス。それも無理もないのかもしれない。何故なら、いきなり魔花に丸飲みにされた人間を目撃したのだから…




 魔花の多くは未だに謎包まれているが、分かっていることも多い。それは、魔花はどうしてそうするのか不明ではあるが、人間を食べるのだ。しかも、丸飲みと言う慈悲があるのかないのか分からない方法で。



 しかも最悪なのが、飲み込まれてすぐに助けたとしてもすでに原型どころか、何もなくなってしまっているのだ。




 その原因は不明で、それなりに研究されたのだが、未だに謎のままなのだ。それも仕方がない。何故なら一番の理由は、倒された魔花が消失してしまう事だった。




 そして、その性質上捕獲は極めて困難だった。故に、魔花の研究は遅々として進んでいない。それに、そんな事が分からなくても、倒す方法が分かっていればそれで良いと考える人の方が多いのだ。それも、命の危機にさらされている人々にとっては当たり前の選択とも言えるのかもしれない。




 しかし、一瞬で死体すら残らずに消えてしまう脅威は、確かに凄惨な死体が残るよりは現実味が薄れ、周りへの影響が少ないのかもしれない。もちろん、それがすぐにでも自分たちへと向かわなければ、だが




「どうやら、ルイスさんの要望は一方的に破棄されたようですね。二人とも、覚悟を決めるしかなさそうですよ!」




 ノティアの声に慌てて正面へと振り向くと、こちらへとゆっくりと向かって来る魔花の姿が見えた。




「…選択肢がないのは嬉しいわね」




「ああ、全くだな」




「二人とも、緊張するか、笑うかどちらかにして下さいね」




 ノティアの指摘通り、エクレアとルイスの二人は笑っていた。しかし、それは半分獰猛で、半分焦りの笑顔だった。それも仕方がない、いつかはと覚悟をしていたが、まさかまともな訓練をする前に魔化と対峙する事になるとは、夢にも思っていなかったのだから。




 しかし、その表情は別として、3人とも油断なくそれぞれの魔土宇器を構えていた。



 ルイスの魔土宇器は、その豪快な見た目通りの巨大な戦斧。如何にも重そうに見えるが、基本的に魔土宇器は見た目よりはるかに軽い。とは言え、大きくなればなるほど扱い辛くなるのは当たり前で、その巨大な戦斧はルイスの自信の表れとも言えた。




 魔花が不意に速度を速め、ルイスに向かって蔓のようなものを伸ばし放ってきた。その速度は、先ほどのゆっくりした動きと違い、矢の如くルイスを貫こうと向かって来た!




「ぬあああああ!!」




 ルイスは、その向かって来る蔓を戦斧で豪快に弾き、切り裂き、叩き伏せて見せた!その戦神のような戦いぶりは、ギャラリーがいたら歓声が上がる様な見事な動きだった。




 しかし、相手は魔花。さらに、複数いたために、その蔓の数が増えていき、ついにはその一本がルイスへ突き刺さる!と、思われた矢先だった。




「させるわけないでしょ!!」




 その声と共に、その蔓は複数個所を串刺しにされ、千切れ飛んだ。それをしたのは、細剣を構えるエクレアだった。




 エクレアの魔土宇器は、細剣と呼ばれる細い突きに特化した武器だ。その素早い動きと、観察力でルイスのフォローをしていた。




 時には防御、時には牽制。素早い攻撃と、ヒット&アウェーを絶対とし、深追いせずにじっくり相手を見極めるスタイルで魔花を翻弄していた。もちろん、ルイスという絶対に頼りになる盾役がいてこそ冷静に戦えていたのだが。




 そのまま膠着状態が続くかと思われた矢先、ルイスが魔花の意表を突き、その一体を叩き潰そうと前へ出た。不意を突かれたせいか、その目標となる魔花は動かなかったが…




「ルイス!?」




 その声と共に、傍に居たもう一体の魔花から伸びた蔓を突き貫いて止めたエクレア。しかし、同時に来た反対側の蔓はさすがに間に合わない!再び、ルイスが串刺しにされる危機に陥ったように見えたが…




 その蔓も、飛んできた何かに貫かれ千切れ飛んだ。それを成したのはもちろん




「させるわけないでしょう?この、似非植物共!!」




 そう叫んだノティアだった。




 ノティアの魔土宇器は、苦無だった。驚くべきは、魔土宇器の性質だ。苦無は投擲目的で使われるため、貴重な魔土を使っているのに使い捨てにするのはどうだろうか?と思うかもしれない。




 だが、魔土宇器は特別な武器だ。ある程度は使用者の意志を尊重したのではないかと思われるような能力を発揮することがある。顕著なのが、所謂、遠距離武器だ。




 弓や銃の様な消耗品を飛ばす武器なら無くならず、武器自体を投げる武器なら自分の意志で手元に戻せる。もちろん、苦無も後者に含まれる。しかも




 ノティアは、最初に投げた一本を手元に戻し、最大数である10本を次々と連続で投擲する。驚くべきはその正確性、全てがルイスを狙っていた蔦を弾き飛ばした!




「潰れろぉ!!」



 ルイスの気合一閃、振り下ろした戦斧に叩き潰され、一体の魔花が消滅した。そして、それを最後まで見届ける前に、ルイスは後退して二人を守れる位置へと移動する。お互いをフォローし合う完璧な布陣だった。




 魔花は、目の前の人間が今までの獲物と違って簡単には狩れないと判断したのだろう。4体の魔花は、一斉に一ヶ所へと、ルイスの前に集まって来た。




 ルイスは緊張と共に、目の前に集まった魔花たち相手に身構える。しかし




「ルイスさん!?」




「くっ!?」




 ルイスは、間一髪のところで地面から突き出て来た根のようなものをかわした。しかし、叫んで知らせてくれたのティアのお陰で本当にぎりぎりだったため、体勢を崩して倒れてしまう。




 しかし、素早く反応したエクレアによって根は処理され、危機は去る…というわけにはいかない。何故なら、目の前の魔花たちが、一番厄介な獲物が倒れ込んでいる隙を見逃すはずがないのだから。




 大量の蔓がルイスに一斉に襲い掛かる。もちろん、エクレアとノティアがルイスをフォローするために蔓に対応するが、如何せん数が多すぎた。




 ルイスは、辛くも戦斧でガードする事には成功したが、大きく吹き飛ばされ建物に激突してしまう!




「ルイス!?」

「ルイスさん!!」




 二人は、ルイスの安否を気に掛けるが、それどころではなくなってしまった。何故なら、盾を失った二人に余裕などなくなってしまったのだから。




 エクレアは、ルイスみたいにどっしり構えて打ち払うなど出来るわけもなく、細かく動きながら対処するが、全方位から来る蔓全てに対処など出来ない。もちろん、ノティアがフォローすることで何とかなっているが




「くっ!?邪魔です!!」




 時折、根がノティアの邪魔をしフォローに回るのが遅れ出す。故に、エクレアが窮地に陥るまでに早々時間がかからなかった。




「きゃっ!?」

「くっ!?」




 エクレアが捌ききれずに再建で攻撃を受け吹き飛ばされ、それを見たノティアが一瞬気を逸らせてしまったため、根に襲撃され同じく飛ばされてしまった。




 彼女たちに止めを刺すべく魔花が動き出したその時、一体の魔化に少しだけ紫がかった茶色の塊がぶつけられた。魔花たちは、それが飛んできた方を見るように体の向きを変えた。そこには




「俺が相手だ!かかって来い!!」




 武器を何も持っていない青年、テクトの姿があった。

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