第一章 カトウ、異世界転移する 9
「おお! ここが王都か!」
ユミナの関所での通行手続きが終わると、カトウたちはすぐに馬車で移動。
辺りはかなり暗くなってしまったが、ようやくカトウたちは王都に到着する事が出来た。
王都の周りは石畳になっているようで、多少がたつくものの、舗装されていないデコボコ道よりは大分マシだった。
カトウたちは馬車を降り、王都の外壁を眺める。
それはダムにも匹敵する程の、巨大な壁だった。
日々魔物の脅威にさらされている世界なのだから、それは当然なのかもしれないが、威圧感が凄い。
いや、それよりもだ。
「うは! あれって猫耳美少女か!? 犬耳美少女もいるぞ!」
流石は異世界だ。
カトウは今すぐにでも、長年の疑問である、彼女たちの耳には猫耳とは別に通常の耳は付いてるのかどうか、それを確認しようと走り出す。
しかし、リーファに止められてしまった。
「恥ずかしいからやめなさい。あと、割り込みは犯罪よ」
「ああ! 俺の猫耳美少女と犬耳美少女!」
「アンタのじゃないでしょ」
残念な事に、猫耳美少女と犬耳美少女たちは、王都の中へと去ってしまった。
もうちょっと見ていたかったのだが、まあ仕方がない。
カトウは大人しく、列の最後尾に移動した。
列は複数出来ており、係の人数も多い。
思った以上にスムーズに、カトウたちは王都に入る事が出来た。
王都の中は人でごった返していた。
なにか祭りでもやっているのだろうか?
確かめようと思って歩こうにも、人混みで思うように進めない。
カトウたちは仕方なく王都見学は諦め、宿を取り、そこのふかふかベッドで眠りについた。
◇
――次の日。
時刻は早朝の四時五十五分。
カトウは机に両肘を突きながら、両手を口元に持っていき、目を光らせながら時間が来るのを待っていた。
机にはお菓子やお茶なんかが置かれ、来るかもしれない美少女に向けての準備は万端である。
なぜカトウがこんな準備をしているかというと、それは今日のログインボーナスが朝五時に届くと、女神から貰ったカードによって知らされたからだ。
しかしなにが届くのかまでは分かっていない。
エリクサーや武器や防具、そういった、いわゆる無機物であれば、カトウが起きていなくてもなにも問題はないだろう。
しかし、それらが人や動物――リーファのようなパターンであった場合、彼らは十中八九、見知らぬカトウを拒絶し、逃げ出す筈だ。
それだけは絶対に避けなくてはならない。
という事で、カトウは予め、美少女を歓迎できる雰囲気と場所を用意していた。
しかしだからといって、なんの面接もなしに、美少女を自分のパーティーに加えるといった、そんな愚行を起こす気はさらさらない。
生きとし生けるもの、誰しもが得意不得意を持っている。
それは人であったり、物であったりする。
つまり、ユミナとリーファの内、どちらかが本気で苦手とするような、そんなタイプの美少女が出てくるかもしれない。
みんながみんな、誰とでも仲良くなれるなどという御伽噺を、カトウは信じていない。
となれば、今優先すべきはユミナとリーファだ。
この二人に合わないと判断すれば、カトウはその美少女をパーティーに入れない覚悟があった。
だからこそ、カトウはこんなポーズを取っているのだ。
なんでも腕を組むという行為には、心理学的に、拒絶を表す意味合いがあるらしい。
勿論そうでない場合もあると思うが、まあ要は、圧迫面接などでよく見る、試験官が腕を組みながら相手を威圧している姿を想像して欲しい。
今のカトウがとっているポーズは、腕ではなく、手を組んでいるのだが、まあとにかく、威圧感を与えられるのならどちらでもよかった。
ちなみにカトウにとって、美少女を拒絶するという行為は血反吐を吐くレベルの苦行である。
だがこうでもしなければ、真のハーレム主人公は名乗れない。
その美少女の性格に難があるとわかれば、この面接ですぐにでも調教してみせる。
そんな覚悟が、カトウにはあった。
勿論、なんの問題もないと分かれば、すぐにでも歓迎会に移行するつもりだ。
カトウの準備は万全であった。
――カチ、カチ、カチ。
そろそろだ。
カトウはもう一度、鏡でポーズを確認する。
すると次の瞬間、時計の針が五時を指した。
【おめでとうございます。三日目ログインボーナス、魔剣フレイを受け取りました】
【おめでとうございます。三日連続ログインボーナス、エリクサー三個を受け取りました】
頭の中に、連続して同じ声が響いた。
女神の声だ。
同時にテーブルには、三つのエリクサーが現れ、対面する目の前の椅子には――禍々しい形の、どす黒いオーラを放つ魔剣が現れる。
【汝、我が力を欲する者か】
「ッ!?」
次の瞬間、カトウの脳内に女性の声が響いた。
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