第6話 ランディルの災難<空色の剣side>
「えーっと、あなたがランディルさん?」
所変わって、クレストの街のほど近くにあるダンジョン入口にて。
『空色の剣』は新たなポーターを迎え入れようとしていた。
ノリスが抜けてしまった穴は大きかったが、昇格したタイミングで活動を止めるわけにもいかない。
リーダーのセレナがそう判断して、ノリスが前もって指名していたランディルを入れることにしたのだ。
「その通り! 『空色の剣』のような有名パーティに雇っていただき、嬉しい限り! Aランクポーターであるこの私に、雑事はすべてお任せください!」
そう言って、恭しく頭を下げるランディル。
その洗練された仕草は、冒険者というよりも執事か何かのように見えた。
ポーターというのは従者に近い性質を持っているため、この方向性も間違いではないが……。
ノリスに慣れているセレナたちは、どうにも違和感がぬぐえない。
彼女たちと歳が離れていることも、それをさらに加速させた。
「さあ皆さま、私に荷物をお預けください。いくらでも持って差し上げます」
「ありがとう。じゃあこれを頼むわ」
次々と手荷物を渡すセレナたち。
それをすべて収納し終えたランディルは、その少なさに驚く。
一般に一流とされているパーティの三分の一程度の量しかなかったからだ。
とてもコンパクトにまとめられていて、容量を減らすことにかなり手間をかけているのが伺える。
「これはまたずいぶんと少ないですね」
「もともと、うちで雇ってたポーターの容量が少なかったからよ」
「この程度の容量でSランクパーティに所属していたとは……。いやはや」
ノリスのことをバカにされ、セレナの眉間に皺が寄った。
ほかの三人も同様に機嫌を損ねるが、ランディルはそのことに気付かず語り続ける。
「確か、前任者はノリス君と言いましたか? 何でもFランクだったとか」
「ええ、まあそうよ」
「彼を解雇して私を雇用したのは、実に賢明な判断でしたよ。私の魔法容量があれば、もうあのように窮屈な思いをさせることはありません」
「……そうね」
「だいたい、Fランクがこのような高ランクパーティに所属していたこと自体がおかしいのです。まったく、もっと早いうちから私に跡を譲ればよかったものを……」
「早いうちから、譲る……? どういうことですか?」
ランディルの物言いに、引っかかるものを覚えた神官のイース。
彼女は普段穏やかな顔を珍しく強張らせると、強い口調でランディルに尋ねる。
高ランク冒険者から発せられる威圧感に、さしものランディルも少し引き気味になりながら答える。
「以前に、ノリス君が私のもとを訪ねてきたんですよ。実力不足で思い悩んでいた様子だったので、アドバイスをしたんです。それなら、優秀な者に跡を任せてはどうかと」
その時、さらりと自分を後任として推しておいたと語るランディル。
それを聞いた途端、四人の空気が一変した。
彼女たちは冷え冷えとした目で彼を見ると、はあっと肩を落とす。
「なるほど……ノリスが辞めた原因の一つはあなただったのね」
「何てことしてくれたんですか! まったくもう!」
「ありがた迷惑」
「事情も知らんと変なアドバイスせんでほしいわぁ……」
「そ、そんなに非難がましい目で見ないでください! Fランクのポーターが抜けて、代わりにAランクの私がパーティに加入したんだ。言うことないじゃないですか!」
「ノリスの代わり……か」
ランディルの言い分に、いっそう白けてしまうセレナたち。
今日、この場に彼を呼んだのも代わりを務めてもらうためではない。
あくまで普通のポーターとして働いてもらうだけのつもりだったのである。
「な、なんですか? そんなに私の実力が不安なんですか?」
「率直に言ってしまえば、そのとおりね」
「ならば断言しましょう! Fランクのポーターにできて、Aランクのポーターである私にできないことなどない! 私はあのノリスと違って、ポーター界のエリートなのですから!」
力強く宣言するランディル。
彼の熱弁を聞いたセレナは、パンと手を叩いて言う。
「……わかったわ。じゃあ、代わりをしてもらいましょうか」
「ほう?」
「ランディルに、ノリスがしていたことと同じことをしてもらうのよ」
「ええの? とてもできるとは思えへんけど……」
「その時はフォローするわ。それに、ノリスが何をしていたのか、私たちに足りないものは何なのか思い返すいい機会だし」
「そうですね、いざとなれば私が治療しますから」
「ふふふ……ははは! 何を心配しているのかは知らないが、任せてください! ノリスがしていた仕事を、すべて完璧に私がこなして見せましょう!」
白い歯を見せながら、無駄に格好をつけるランディル。
その姿に大いに不安を感じつつも、五人はダンジョンへと足を踏み入れた。
そして――。
「無理無理無理!! 足止めなんてできませんって!」
「ノリスはこのぐらい軽ーくこなしていたで!」
「そんなバカな!」
「ランディルさん、治癒手伝ってください!」
「できませんって! 治癒魔法なんてそうそう使えるようなものじゃないです!」
「ランディル、そこのやつ倒して!」
「雑ぅ!! そんなノリでオーガ倒せとか言わないで!」
ダンジョンにランディルの悲鳴が響き渡るのだった。
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