第5話 漆黒の竜牙

 受付のミリアさんにパーティを紹介してもらった俺は、翌日、さっそく顔合わせをした。

 彼女曰く『漆黒の竜牙』は、才能ある若者たちが集った将来有望なパーティらしい。

 今はまだDランクに過ぎないが、近いうちに必ず頭角を現すと楽しげに語っていた。

 代わりにちょっと独特で癖があるとも言っていたが……。


「はっはっは! 俺の名はレイドルフ・グランバルト、いずれ世界の冒険者の頂点に立つ男だ!」

「私はフォルトナ、超天才美少女魔導士よ」

「は、初めまして! 私はスージー、盗賊をしていましゅ!」


 ……これは、ちょっとなのか?

 ミリアさんとは「ちょっと」の定義について話し合わなきゃいけないかもしれない。

 スージーさんはまだいくらかマシなようだけど、こちらはこちらで顔を真っ赤にしてすごく緊張している。

 そのうち湯気でも噴き出して倒れてしまいそうだ。


「俺はノリスです、よろしくお願いします」

「期待しているぞ! この俺についてこい、ははははは!!」

「足引っ張らないようにしなさいよ。私の華麗な経歴に傷がつくのは嫌だから」

「すいません、二人が生意気ですいません!」

「えっと、とりあえず……依頼に行きましょうか?」


 いつまでも話していたところで仕方がない。

 冒険者同士で打ち解けるには、やはり依頼に行くのが一番だろう。

 俺がそれとなく掲示板の方を見やると、すぐにレイドルフが鷹揚な仕草で頷く。


「ならば俺たちにふさわしく、ド派手な討伐依頼にしよう!」

「そうね、これなんてどうかしら? ジャイアントフットの討伐依頼!」


 ジャイアントフットというのは寒い地方に住む毛むくじゃらの亜人のことである。

 身長は成人男性よりも頭一つ分ほど高く、力が強くて凶暴なのが特徴だ。

 確か、Cランクでもかなり上位の魔物だったはずだ。


「だ、大丈夫でしゅか? ジャイアントフットのいる山って、今はワイバーンが出る時期じゃ……」

「なーに、遭遇したところで俺が真っ二つにしてやるさ! ワイバーンぐらい倒せないようでは、冒険者のトップにはなれないからな!」

「私の攻撃魔法の威力を知ってるでしょ? へーきへーき」

「そうでしょうか……?」

「まあ、いざとなったら俺も戦いますし」


 俺がそう言った途端、レイドルフとフォルトナの空気が変わった。

 二人はズイっと俺との距離を詰めると、不機嫌そうな目でこちらを見下げる。


「ノリス、君はポーターだよな?」

「ええ、そうですけど」

「だったら戦いに口を挟むな。君はただ荷物をきちんと運べばいいんだ」

「え? 前に所属してたパーティだと、俺も敵の足止めとか参加してましたけど……」

「ぶっ、何よそれ! ポーターを戦闘に参加させるなんて、どんな三流冒険者よ!」


 口元を抑えて、盛大に笑い始めるフォルトナ。

 それにレイドルフまで加わって、二人揃って大笑いをする。

 むぅ……俺をバカにするのはいいが、みんなをバカにするのはさすがに承知できないぞ。

 少しばかり腹を立てた俺は、やや冷えた口調で告げる。


「俺が前に所属してたのは『空色の剣』ですけど」

「え? それって……あのクレストの?」

「ええ」

「あの大魔女アマリア様のパーティ……よね?」

「そうですよ」

「す、すごい……! あの、ギルドカードを見せてもらってもいいですか!?」


 俺がカードを渡すと、スージーはたちまち目を輝かせた。

 ギルドカードには、自身のランクやこれまで所属したパーティなどの情報が記されている。

 当然ながら、俺が『空色の剣』に所属していたこともばっちり書かれていた。

 レイドルフとフォルトゥナもそれを確認すると、眉間に皺を寄せて思い切り顔をしかめる。


「か、仮にSランクパーティの所属だとしてもよ! ポーターじゃ大したことないわ!」

「その通りだ! だいたい、ノリスのランク自体はFじゃないか」

「でも、戦闘に参加を認められるってことは何かあるんじゃ? ポーターの場合、ランクは収納魔法次第なとこありますし……」

「スージーは余計なこと言わなくていい! ああ、とにかく行くぞ!」


 話を打ち切りにしたレイドルフは、そのまま依頼書を手にカウンターへと向かった。

 そして受注の手続きを済ませると、こっちに来いとばかりに手を振り上げる。

 

「あの、二人の言っていることですけど……そんなに気にしないでくださいね! あれでも、プライドが高すぎるだけで悪い人たちではないのです……」

「大丈夫だよ、そんなに気にしてないから」

「良かったぁ!! パーティは仲良くが基本ですからね、仲良く!」


 朗らかな笑みを浮かべるスージー。

 ほかの二人と違って控えめな彼女であるが、この様子を見るに何だかんだ良くしてもらっているらしい。

 何だか刺々しい印象だったけど、あの二人もいいとこあるのだろうか?

 ミリアさんもすぐに良くなるって言ってたし、見込みがないわけではないんだろうな。


「ちょっと、二人とも何してるの? グズグズしないでさっさと行くわよ、待たせないで」

「あ、はい! 今行きます!!」


 そそくさと歩き出すスージーと俺。

 こうして俺たち四人は、ジャイアントフットの待ち構える山へと向かうのだった。

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