第十七話 フローリア
「むむ!これはなんというのだキュレア?」
俺は今絶賛龍神娘に質問攻めにされている。なんでも、秘境の奥で放置に等しい環境にいたせいで、珍しいものが多いそうだ。
「ママもパパも、餌はくれるのだが、わらわが話しかけるとだまってしまってな、そとの世界のことをなにも知らないのじゃ。」
あの両親のことだ。育児放棄はしなさそうだがな。
違う。そうじゃない。ここで流されるからまなかの時のようになあなあで預かってしまうのだ。ここは丁重にお帰り頂かなければ…
「な、なあフローリア、お前、自分の家はわかるのか?」
一人で帰れるのだろうか。
「わかるわけなかろう?変なことをいうやつじゃな。」
で、ですよねー。文字通り箱入り娘に、自分の住んでたところなんてわかるわけないか。
そもそも送って行ったとして俺、殺されないだろうか?
あのご両親、俺に任せるとか言って置いてったからな。俺にフローリアが成神龍(?)になるまで育てさせる気かもしれん…。なんで俺なんだ?普通に龍仲間とかに頼れる奴はいなかったのか?秘境って言ったって、どこかわからんし、そもそもそんなヤバそうなところに辿り着けるビジョンが見えん。
カリスマを駆使するか?いや、それでも時間がかかるし、そもそも俺には戦闘経験がない。
それに、まなかや静那はどうする?彼女らを家に置いていくわけにはできない。精神面も安定していないし、第一死なせてしまうかもしれない。そんなことは絶対にしたくない。
ああ、俺は結局、また一人増やすことになるのか……。
*
気を取り直して、とりあえず夕飯にする。いつものようにキッチンに立っていると、フローリアがやってきた。
「おぬし、なにをしているのだ?」
料理を知らないのか?あーでも龍だしな…あながち本当に知らないのかもしれない。
「これはな、料理と言って、生では食べられないもの、食べられるけどあまり美味しくないものを焼いたり、煮たりすることでおいしくする作業だ。」
「人間とはそのようなことをしないと餌にありつけないのか?めんどうな種族じゃ。」
まあ、なんでもガブリだと思うけどさ、龍は。
ってなわけで出来上がった。今日の献立は白パン、野菜スープ、行きに狩った猪肉のステーキだ。栄養バランスなどは一切わからんからな。パン、野菜、肉だ。これに限る。もちろん材料や味付けを変えて、静那達が飽きないように工夫もする。
「これは食べてもいいのか?」
フローリアがパンを指でつつきながら聞いてくる。
「ああ、もしかして、一人じゃ食べられないか?」
当然、箸やスプーンなど使ったこともないだろうからな。
「う、こんな人間の道具、使ったことないだけじゃ!わらわだって、えものくらい1人でもとれる!」
意地っ張りなんだろうか、この子。
「いくら神龍って言ったって、初めてじゃできないこともあるだろう?次できるようになればいいんだ。」
「むぅ……」
よほど恥ずかしいのか、顔が真っ赤である。静那は緊張しているのか、黙々と食べると部屋に引っ込んでしまった。
俺はパンを小さくちぎり、スープに浸して差し出す。
「ほら、滴れる前に口開けろ」
不満げに開けられた口に、パンを放り込む。
「む!」
熱かっただろうか?まあ、冷ましてないしな、少し熱かったかもしれない。
「うまい!」
どうやら的外れな考察だったようだ。フローリアは目を輝かせ、頬に手を当てている。
「なにが違うのかわからなかったが、これはもうやめられないな!キュレア
!おぬしに毎日これを作るきょかをあたえる!ぞんぶんに作るのだ!」
なんか命令された。俺は構わないが、静那達にもこんな口調で喋るとなると、またイザコザが起こるかもしれない。ここは少しいい聞かせておくか。
「フローリア、人間はな、人にものを頼む時に命令をしない。何故だかわかるか?」
まずは常識の確認だ。
「ん?そんなもの。力がないからに決まっておろう?我ら神龍は生まれながらにして神に等しい龍。弱きものは強きものにしたがうのだ。」
なるほど。これは親から習ったのか、種族の特性なのか。いまいちわからんな。
「言うことを聞かなかったら殺すのか?」
「当然じゃ。強きものはしたがうことで、えっと…生きるをかっているのだ!」
あちゃ、これ暗記してんのか?しかも後半うろ覚えかよ。この子ちょっと残念なところがあるな。
「殺してしまったら、2度と命令はできないぞ?」
「他のものに命じればいいのだ!」
なるほどな、替えがきく。確かにこれは正しい。
「じゃあ、俺をここで殺すとしよう。フローリアは誰にこの野菜スープを作ってもらうんだ?」
「私はキュレアは殺さないもん!」
あ、口調が解けた。それだけ本気と言うことだろうか。
「キュレアは、死んじゃ…ダメなんだぞ?」
え、目に涙溜まってんじゃん、今日あったばかりだよこの子。そんなに美味しいかな。この野菜スープ。コンソメもないし、味薄いと思うんだけどな。
「例え話だ。俺を殺したら、この野菜スープは2度と食べられなくなるが、それでも俺を殺すのか?」
「うぅ…ぐすっ、ころさない……。」
「正解だ。お前はまだ子供だ。大抵の人なら、きちんと頼めばやってくれるはずだぞ。命令される側はいい気分じゃないからな。同じ結果なら、その人と仲良いままがいいだろ?」
「う、うん…」
わかってもらえただろうか。まあ、ゆっくりとでいいはずだ。時間は幸い無限。好きなことをやり尽くそう。
「さあ、難しい話はこれで終わりだ。野菜スープはまた今度作ってやるよ。夕飯の続きを食べよう。ほら、口開けて、」
次は猪肉を食べさせてみる。
「な、なんだこの味は!今までこにゃこにゃした肉しか食ってこなかったが、これは柔らかいぞ?」
まあ、ぶっ叩いたりして、柔らかくなる工夫をしたからな。柔らかいのはそうだろう。
「その…キュレア、またこれ、作って……くれぬか?」
神龍族は飲み込みが早いな。これは育てがいがありそうだ。
「当然だ、今度はまた別の肉を食べよう。」
頼み事をしたことがなくて照れているのか、フローリアの顔は、まるで野菜スープに入れたトマトの皮のように真っ赤になっていた。
〜〜〜
新キャラ回、どうでしたかね、、、
眠気と戦いながらなのがキツすぎる。
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