第十六話 襲来

『空高くを飛翔する二対の龍。太古より恐れられし二頭は、龍種の一部分にして全てであり、この二頭が一度争えば、生態系は滅び、この世を支配せんとする愚かな種族、人族でさえも恐れ慄くほかないと言う。』


というのは、今居る街、ラルルの古本屋で見つけた埃っぽい本に書かれていた内容である。チルルの街というのは、先日まで俺が活動していた村(こちらはレロの村というらしい)からさらに歩いた場所にある街で、当然村よりも賑やかである。なんでも、この場所はチサハラッタ王国のラールロ地方、それもかなり王都から遠い、チサハラッタの最西果てであるらしい。


他にはサセシス地方、ハーフホ地方、タトテート地方があるらしく、それぞれ王都から北、東、南に広がる地域を意味しているらしい。また、王都周辺のみは違う呼び方をされ、王域チサヘリードというらしい。やはり本というのは素晴らしい。口では伝えづらいようなことでも、文章を使えば一発である。


さて、どうしてこんなに遠出ができているのかという話をしよう。当然、隣には静那、家にはまなかがいるわけで、あんな状態のまなかを置いてそんなに遠出がしたいかと言われるのも仕方ない。ここで、俺が新たに習得したアビリティについて説明しよう。


《カリスマ》

・圧倒的支配力による統治が行える。


・人類に無条件で好かれるようになる。


・圧倒的支配力によって、他のスキルを制することができる。


神によって与えられし、万能の力。これを与えられし真の支配者よ。増長することなかれ。この力の真骨頂は他にある。


といったものだ。おそらくメインの能力は政治関連、人を従えることがうまくなるといったものであろう。しかし俺は別の場所へと目をつけた。他のスキルを制することができる。これはすごくデカイと思う。


これまた本によると、スキルというのは先天性のものと後天性のものの二種類があり、それぞれ酷使することで各種数値、ないしは能力が上昇する。酷使という言葉が表すように、スキルのクラスアップには相当な努力が必要である。


このクラスアップについて現在最も有力な説が、スキルには成長する力が備わっているというものである。


より説明すると、本体生物というのは他の生命活動を停止させることによりその生命力を略奪し蓄え、その格をあげる。これが俗にいう成長する力であり、ほとんどの生物に備えられている潜在的な力である。無論、これも個人差があり、格の上がりやすい人間がいたり、その逆もあったりするため、とこの世界における現代の差別の根底にあるものである。


成長する力は生物にしかないと思われてきたが、とある学者がある日、スキルの格なるものを発見した時、世界は変わった。


スキルのクラスアップが行われれば、スキルの格も上がり、より強力になる。


これを、カリスマの力で強引に力の解放を行い、本来のスキル以上の力を引っ張り出す。これが本来の使用用途なのではないかと俺は思っている。


勘のいい人はわかったかもしれねぇ。そう、俺はカリスマの力によって空間魔法を極めた。どうやら覚えられるスキルに上限はなさそう。


この俺の時代が来た。正直前の能力を失ってしまったのは痛いが、この能力もなかなかにチートである。あの神、粋なことしやがるって全く。



さて、転移によって家に帰ってきた俺だが、信じられないものを見ている。


黄色と緑、対になっている龍がうちの庭に居座っているわけである。


『古の龍の名は、豪雷神龍ライゴー=ドラゴンゴッド、滅風神龍フロル=ワイバーンゴッド。一頭だけならば死ぬ気で逃げろ。二頭いるならば死を覚悟して逃げよ。』


先の小説の一節がまた頭に浮かぶ。葉脈のように細く、それでいて鋭い模様を持つ黄色い龍が確か雷龍で、見ていると引き込まれそうになる奇怪だが美しい模様を持つ緑色の龍が風龍のはずだ。なぜここにいるのだろうか。流石に神龍なわけがない。俺は恐る恐る頭に目を向ける。伝承が正しいならば、ここには王冠のような圧を放つ頭角があるはずだ。


「人間よ。神に等しき我らと言葉を交わすことを許そう。」


あー、頭角あるやん。うーん?


突然の事態すぎて頭が追いつかない。まなかは大丈夫なのだろうか?


「ウフフ、最近の人間というのは躾がなってないわねぇ、ねえあなた?本当にこんなのに頼むおつもりですの?」


古の文には続きがある。


『二頭の仲は最悪。決して番いになることはありえない。もしもなってしまったなら、それはこの世の終焉を意味する。二頭の力を持った最強の龍が、世に凶誕してしまうということなのだから。』


さようなら、俺の短い異世界人生。


「フハハハハ、人間よ。世の恐ろしさを前に言語すらも失ってしまっておるのか。フハハ、フハハハ、フハハハハ!」


とりあえず相手をした方が良いのであろうか。


「これは、豪雷神龍様に滅風神龍様、本日はこのような辺境になんの用でございますか?」


謙るのは得意だ、誇れたことじゃないがな。しかし、スキルがあれば勝てたかもしれない。今だけはないものねだりになってしまうな。


「ほう!我の絶対神高圧を正面から受けてなお発言ができるとは。なかなか期待のできる人間だ。なあフロル?」


「そうねあなた。この人間になら、私たちの大切なフローリアを預けられるかもしれないわね。」


「と、言うわけだ人間!!よろしく頼んだぞ!」


豪雷神龍がそう叫ぶと、考えられない強さの風圧を飛ばしながら、夫妻で去っていった。


「し、死ぬかと思った……。」


俺の感情を察してくれたのか、静那が俺の頭を撫でる。あ、これいいかも。


しばらく静那の愛撫でを堪能していると、こちらへジト目を向ける全裸の幼女が目に入った。


「こら、そこのもの!さっさとわらわのめしものをよういせぬか!」


その子は確かに幼女だったのだが、額には形の違う2本の角、黄緑色の目、新緑ベースに眩しいくらいの金色がところどころで稲妻のように見え隠れしている髪。そして何より、背中の四対の翼、腰から伸びる尻尾。


きっとおそろしい存在なのだろうが、その舌ったらずの喋り方や、必死に自分を大きく見せようと背伸びをしている様から、さながらドラゴンやワイバーンというより、じょらごんといった風だ。


角や髪の配色、模様、特徴から、あの二頭の子供だろうか。神龍というのは生まれながらにして知能が高いのか?いやしかし、あの文献によると、神龍は生殖活動を必要としないはずだと書かれていた。彼らは不死身であるからだ。この世の終わりの凶誕…まさかな。


「は、はやくよういするのだ!よ、ようい……。う、うわああぁぁあん!!」


え、なんで泣き出したんだろう。というかなぜ俺の元へくる子供は皆最初大泣きからスタートするのだろう。


任せろ見たいなこと言われたけど、この子を育てろってことなのだろうか??


〜〜〜

〜補足〜

・神龍

神が具現した姿と言われている龍種。現存する龍(竜)は全てこの種からの派生である。


・ドラゴンorワイバーン

この作品内において、ドラゴンといえば雄龍、ワイバーンといえば雌龍を指します。


・ドラゴンゴッドorワイバーンゴッド

上記の通り、雄雌の違いがあります。また、豪雷神龍は雄、滅風神龍は雌といった風に決まっているわけではありません。


・神龍の個体名について

ライゴー、フロルのように個体名が基本的には神龍にはあります。神龍は操る環境毎に一頭のみであり、個体名は必要ありませんが、あったほうがかっこいいやん。ネーミングは察して。


・出会った子供がみんな泣いちゃう理由

作者の好み。

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