第十四話 環境
目が覚めると、見知らーぬ空間にいた。
俺は神を名乗る謎の人物に異世界に飛ばされた。静那と、まなかと共に。
静那もまなかも、今は気絶しているのかわからないが、とりあえず寝かせておく。
驚いたことに、今俺がいるこの建物、間取りが元いた部屋と同じなのである。しかし、外は全くの別世界。見たところ温帯、それも日本に近そうだ。他の国がどうなのか知らないが、違和感を感じないからおそらくそうだ。
だが、色合いがおかしい。空は赤いし、草木は水色だ。実に目に痛い色合いだが、嫌いじゃない。
外はどうなっているのだろうか。二人を放っておくのは気が進まないが、俺は外に出、少し歩いてみる。しばらく舗装された道が続いているが、どこに繋がっているのだろうか。
歩いて行くこと数分。家が見えてきた。どうやら村のような質素な家が多い。水色の草原の真ん中に、紫色の三角屋根が点々としているのはなんだか不気味だが、気にせず進む。
村に入ろうとしたところで、衛兵らしき人物達と目が合う。衛兵はなぜか俺にお疲れ様ですと頭を下げ、普通に俺を通した。大丈夫なのか?一応初対面のはずだが……
違和感を感じつつも進んでいくと、広場に出た。広場の中央で、子供が集まっている。少し覗いてみることにする。
「その方は各地を転々とし、身寄りのない子供を助け、ついにこの村の近くの丘に定住なされたのだ。このロナの国でこれほどの偉業を成し遂げた方はかつてレッドドラゴンを退けた剣聖様、流行り病を完治させた大賢者様、そして、言わずとも知れた建国者の子孫、国王様に次いで四人目である。その名はキュレアード=レンド………」
ふと、語り手と目が合う。
「そこに…そこにおわすお方は!まさしく、キュレアード様!!いいかい君達、この方が偉大なる英雄、キュレアード=レンド様である!」
え、俺!?各地を転々となんてしてませんが…まあ世界は跨いてるがな。
「キュレアード様、本日はどのような御用件でしょう?」
ふと後ろから話しかけられた。見ると、頭頂の禿げた年老いた爺さんが話しかけてきた。
「キュレアード…俺のことか。別に用事とかないが…用がなかったら来ちゃダメだったか?」
「いえ、滅相もございません!ささ、茶を出します。私の家へ…」
えぇ…俺はすぐ帰る予定だったのだがな…
しかしなんだ?これは。俺は別に何もしていないのだが、何故か俺の存在は周知となっているらしい。
「悪いが俺はすぐに帰らねばならない。茶は今度馳走になろう。」
ところで、尊厳のある男ってこんな感じでいいんだろうか?
ーーーーーーー
さて、疲れた。他人と話すというのはこんなに難しいことだっただろうか?成人した人間と話すのが苦痛で仕方ない。一応、この世界で怪しまれないようにそれっぽい振る舞いをしているが、神様的にどうなんだろう?
身寄りのない子供を助けてってのはあながち間違ってはいない。静那は元々孤児だし、まなかも育児放棄からのロリコンによる調教。挙句俺の家の前に放置だからな。
しかし、それだけだ。それ以上のことはしていないし、国家の危機を救ったと思われる英雄達と同列の扱いを受けるというのはよくわからない。
まあ神のお膳立てだ。考えてもしょうがないだろう。ひとまずは静那とまなかだ。
家に戻り、まずは静那と共に寝ている寝室へいく。ここには静那が寝ているはずだ。
「静那、元気か?」
静那はベットから降りていた。窓の外を見ている。
「元気……名前…知りたい…」
名前?唐突になんだ?
「私…あの人…違う……知りたい」
何が言いたいのかさっぱりわからんが、前の世界の名前を名乗る気もない。なんだったか…さっき呼ばれていた名前…
「キュレア。それが俺の名前だ。」
おそらくフルではわからない。というか発音できないだろう。
「きゅれあ…なんか違う…でもわかった。きゅれあ…すき♪」
おかしい。先程まではサ行の発音はうまくできていなかったはず。これも神の特典か?それとも単なる成長だろうか。
かなり強い力で懐に頭を打ち付けられた。もう少し上だったら鳩尾だったな。それにしても、情緒が安定していれば可愛い。俺はいつものように頭を撫で、抱き上げてまなかの部屋へ向かう。
「私…まなかにやなことした……。怒ってる?」
本人も罪悪感はあるのだろうか。少し沈んだ顔で聞いてくる。
「静那がきちんと反省していれば、少なくとも恨みはしないんじゃないかな。静那より、まなかの方が歳は上だしな。と言っても、痛いことは痛いし、何しろ静那はハサミを刺した。ものすごく痛いのはわかるよな?」
「……うん」
「だからまなかは静那のことを怖がると思う。前見たいに話したいなら、まなかが信用してくれるように、まなかに優しくしなきゃいけない。できるか?」
「頑張る……」
「いい子だ。」
静那の言動に違和感がある。俺に嫌われないように必死なのか、落ち着くことで自分のしたことを理解したのか。いずれにせよ、このまま悪い面が消えてくれることを祈るのみだ。
「まなか、入るぞ?」
扉を開けた瞬間、こちらも勢いおくぶつかってきた。
「ぱあぱ!会いたかったの!」
ん??幼児退行、悪化してないか?
直後、静那の姿を捉えたまなかの表情が、決死なものに変わる。
「や、やだよぉ、ぱぱ、おにいちゃん、助けて……ゲホッゲホッ…痛いようぱぱ…」
ベットの中へ戻り、毛布を頭から被ってしまった。
「静那、ちょっと向こうでお勉強してきてくれないか?上手になったらまたお話しような?」
静那を少し追い払う。
「わかった。でも、あとでぎゅう、絶対。」
まなかへの謝罪云々より、まずはまなかを落ち着かせなければ話にならない。
静那がいなくなったので、ベットへ近づき、頭を撫でる。
「痛かったなまなか。パパはここにいるぞ、ゆっくり落ち着こうな。深呼吸、できるか?」
過呼吸気味になっているまなかの呼吸を落ち着かせる。
「ぱぁ、ぱ?」
まなかが毛布から顔を出したので、抱きしめるようにして、膝に抱く。
「ごめんなまなか、怖かったし、痛かったよな。パパがいながらあんなことに…」
正直な話、宥めるのとは別に、まなかに対する罪悪感はある。俺の監督不足でまなかに傷を負わせてしまったのだから。その報いも含めて、今はまなかの父親を演じよう。
「ぱぁぱは、わるく、ないよぉ?」
かなり発音が辿々しい。まなかはパニックになると幼児退行してしまうのだろうか?それとも、素がこっちなのだろうか。普段は敬語なので、判断できない。いつもながら甘ったるい声に輪をかけて甘ったるい。
「ごめん、ごめんな…」
今ばかりは、何も考えずに、頭を撫で続けた。
幸せそうに目を細めるまなかの顔には、まだ涙が浮かんでいた。
〜〜〜
いやぁ、厳しいシーンの後処理って難しいですね笑
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます